第2話
眞美と彩芽は、もともと同じ町に住む小学校・中学校時代からの幼馴染みだ。
眞美たちの住んでいた町は、海や川に囲まれた埋め立て地で、町にある小学校・中学校へ通うのは専らその町に住む子どもたちだけだった。
町域外から通ってくる児童はほとんどいなかったため、ある意味閉ざされた環境で、小さいながらも深い人間関係が形成されていた。
限られた数の人間で関係を築いていく必要があったため、小学校時代はあまり話す機会がなかった児童ともよく遊んだ。彩芽もそのうちの一人で、ずっと同じクラスだったというわけでも、そこまで仲が良かったというわけではなかったが、休み時間や放課後に度々一緒に遊んでいた。
小学四年生くらいまでは平和だった。
いつも付き合っている友達以外の子たちとも、休み時間に校庭でバスケットボールをしたり鬼ごっこをしたりして遊んだ。放課後も誰かの家でゲームをしたり、近所の公園でこおりおにやかくれんぼをしたりと、毎日とても楽しかった思い出がある。
クラスの様子が変わったのは小学五年生の頃。
眞美のクラスは、俗に言う「学級崩壊」を迎えた。
すべては一部の児童たちによる授業妨害から始まった。
授業中の私語はもちろんのこと、立ったり走り回ったりするのが当たり前。そのことに対して先生が注意したあかつきには、先生に対してひどい暴言を浴びせかけ、ひどいときには先生の胸ぐらを掴み、とにかく抵抗した。中には何も話を聞こうとしない生徒たちに対して泣き出してしまう先生もおり、授業が最後まで行われること自体が稀だった。
また、授業を受けたくないからか、授業前にどこか人通りが少ないところに隠れたり、ひどいときには、ゲームセンターへ遊びに行ったりするケースもあった。
そして、その影響は授業以外にも及んだ。
当時、眞美たちの学校は給食を教室ではなく、『ランチルーム』と呼ばれる食堂で取っていた。ランチルームへ向かうときはどの学年も二列に並んでまとまって行くことが決まっていた。
しかし、眞美たちのクラスはその二列にさえも並ぶことができなかった。
担任の先生が「二列に並んでください」と何度声を枯らして呼びかけても一部の児童たちにはまったく効果がなかった。先生もついには無言を決め込み、児童たちが二列に並ぶのをただただ待った。
ようやく二列に並ぶことができ、ランチルームに到着した頃には、他の学年の児童たちはすでに給食を終えた後だった。眞美たちのクラスだけぽつんと給食を食べることになったのは今でも記憶に新しい。
通常、12時半頃には給食を食べ始めるが、確かその日は13時過ぎに給食を食べ始めることになったと思う。つまり、眞美たちのクラスは、二列に並ぶためだけに約三十分もかかったのだ。大人になってから思い返すと、自分たちのクラスがいかに普通でなかったことが分かる。
大体は一部の男子児童たちの暴走が原因だったが、女子児童も普通とはいえなかった。
授業の中で学習DVDを観ているときに、とある女子児童が別の女子児童の服を脱がせようとしたり、林間学校の宿泊先で数人の女子児童たちが下着姿のまま館内を走り回ったりなど、異常行動が目立つ女子も少なくなかった。
そして、男子も女子も共通してあったのがいじめだ。
基本的には、男子は男子を、女子は女子を、それぞれいじめの対象としていたが、中には男子からも女子からもいじめられる児童もいた。
そしてその一人に彩芽がいた。
彩芽は今でこそ想像もつかないが、もともとは引っ込み思案で、なかなか思うように気持ちを伝えることができない質だった。
当時荒れていた児童たちは、そんな彩芽によってたかって言葉の暴力を浴びせた。
たぶん奴らは彩芽だったら何をしても何も言ってこないだろうという理由だけで、彩芽を標的にしたのだと思う。それくらい、眞美のクラスではくだらない弱い者いじめが流行っていた。
眞美自身は仲の良い友達が少なからずおり、なんだかんだでそういう奴らに目をつけられることはなかった。しかし、いつ自分が標的にされるか毎日びくびくしながら学校に通っていた。




