↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常の違和感はすぐそばに  作者: ノアキ光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/25

掘りあてた埋もれ木


裏庭に物置を建てようと掘っていた父が、黒い丸太を掘り当てたのは十月の初めだった。


「埋もれ木ってやつだ。何千年も土の中にいた木だよ。重さで値段が決まるらしい」


泥だらけの顔で、父は子どもみたいに笑った。見物に来た隣の爺さんが、丸太を撫でながら言った。


「こういうのはな、食わせた分だけ値が出るって言うんだ」

「食わせるって、何をです?」

「さあなあ。昔の人の言うことだ」


ただの笑い話だと思った。


丸太は玄関に置かれた。

父は毎晩、それを抱えて体重計に乗り、自分の体重を引いて重さを量るのが日課になった。

最初は四十五キロ。

三週間後には五十一キロ。

「水を吸ってるんだな」

と、父はひどく嬉しそうだった。


私の体重が落ち始めたのは、その頃からだ。


最初は正直、嬉しかった。

ダイエットなんてしていないのに、スカートがゆるくなった。

紗英(さえ)に、

「澪(みお)、痩せた? ずるい」

と脇腹をつつかれて、私は得意になって笑った。


でも気づけば、六キロも減っていた。階段で息が切れる。

授業中に鉛筆を落とす。

洗面所の鏡に、頬の影を見つけた時は、背中が冷たくなった。


母は心配して、毎晩おかずを増やした。

夜中に台所で、目を赤くしている母も見た。

父まで「食え食え」と、私の茶碗にご飯を山盛りにする。

去年、おかわりした私に「太るぞ」と笑ったのは父なのに。


食べても、体重は減り続けた。

病院では「異常なし」と言われた。


その夜、水を飲みに降りると、玄関の丸太が目に入った。

月明かりで、濡れたように黒く光っている。

そっと触れると、人肌みたいにあたたかかった。


居間から父の声がした。電話のようだった。


「ええ、六十までいけると思います。いやあ、うちの子、よく食べるもんで」


六十。あと九キロ。


私は廊下に立ったまま、自分の体の中に、あと何キロ残っているのかを数えようとして、やめた。


翌朝、母は私の茶碗にご飯を山盛りによそった。


「たくさん食べなさいね」


声はやさしかった。

夜中に赤くなっていたあの目も、私のためだと信じていた。


でも顔を上げると、母は私ではなく玄関のほうを見て、愛おしそうに目を細めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。