真っ赤な紅葉狩り
十一月の初旬のこと。
冴え渡る空の下、私と同期の風間は北に向かう渓谷の遊歩道を歩いていた。
「今年の紅葉は当たり年だぞ、神谷」
風間はいつも通りの落ち着いたトーンで言ったが、その瞳の奥には異常な熱気が宿っていた。
几帳面で、仕事でも私生活でも一切の妥協を許さない男だったが、今日の彼はどこか憑かれたように周囲の木々を凝視している。
周囲のモミジは、常軌を逸した深紅に染まっていた。
血を煮詰めたような、ドロリとした濃い赤だ。
観光客の姿はなぜか一人も見当たらない。
静まり返った森に、私たちの足音だけがカサカサと乾いた音を立てて響く。
「なあ風間、なんだか変だぞ。静かすぎるし、この葉の赤……まるで絵の具みたいに均一じゃないか」
私の言葉に、風間は立ち止まらずに答えた。
「当たり前さ。本物の『紅葉狩り』は、人間が管理を放棄した場所でしか行えないからね」
違和感の芽が、胸の内でちくりと疼いた。
風間の指先を見ると、手袋をしていない彼の爪の生え際が、妙に青白く血管が透けている。
いや、指先だけではない。すれ違う木々の幹に目をやると、ざらざらした樹皮の隙間から、まるで人間の静脈のような細い赤い繊維が幾筋も露出していた。
風間がピタリと足を止めた。
そこはひときわ大きなカエデの木の根元だった。
地面を覆う落ち葉の絨毯が、わずかに、しかし規則正しく波打っている。
風は一筋も吹いていない。
「神谷、知っているかい?」
風間は自分のシャツの袖をまくり、白く乾いた手首を木肌にそっと押し当てた。
「紅葉狩りとはね、葉を眺めて愛でることじゃない。木に不足した『色』を、私たちが自分の体から引き出して補う儀式なのさ」
「何を言って……」
血の気が引くのを感じた瞬間、私の足元で地面がぬらりと沈み込んだ。
見下ろすと、革靴の底が真っ赤な泥に吸い着かれている。
いや、それは泥ではない。数え切れないほどの、湿った人間の皮膚の薄片が折り重なり、カエデの葉の形に乾燥して敷き詰められていたのだ。
頭上では、葉の擦れ合う音が響いていた。
それは風の音ではなく、無数の爪が紙をひっかくような、乾いた群衆のざわめきだった。
風間はすでに木の幹と一体化するように目を閉じ、穏やかな笑みを浮かべながら、全身の皮膚を鮮やかな緋色へと染め上げていく。
「さあ、神谷。君の枝も、そろそろ見頃を迎える頃だ」




