炎魔の前足
目を開けるとそこは炎魔と戦い終わった直後だった。
(っつ!!)
背中に痛みと熱を感じる。咄嗟に傷を治すようにイメージする。
(もしも、これで次起きた時に現実で背中が治ってたら…。)
傷が治るというのは本来いいことのはずだった。しかし、もしもこれで現実の傷痕が消えていたら。
考えたくもない仮定の話が頭をよぎる。
痛みは消え、背中は問題なく治ったようだ。
あたりを見渡すと、いつのまにか怪我人が治療を受けているようだった。後から合流した者達が回復魔法や、なにかドロドロした液体を火傷にかけたりして怪我人を治癒していった。
(思った通り、もうダメかと思ったような人達も一命を取り留めたみたいだ。)
酷い火傷、酷い出血がある程度治って一命を取り留めていた。
すでに亡くなっていた討伐師達は流石にどうしようもなかったようだ。
「そこのきみ!」
最後まで炎魔と対峙していた討伐師が駆け寄ってきた。
「まずは、ありがとう!本当に助かったよ!」
討伐師達のリーダーであった男は頭を下げてお礼を言った。
「いえ、こちらこそ最初のアドバイスありがとうございました。あれがなかったら一撃目でどうなっていたか。」
討伐師のリーダーの防御のアドバイスが無ければ初撃から劣勢になっていたであろう。
「役に立ててよかったよ。僕はザンダ!よろしく!」
討伐師のリーダーであり、体が大きく、屈強なザンダは何とも爽やかな笑顔で答えた。
「ユウって呼んでください」
2人は握手を交わした。
「炎魔を1人で討伐してしまうなんて信じられないよ。」
自分の戦っていた炎魔と呼ばれる狼は本来1人で勝てるような相手ではなかった。博打のような作戦がうまくいかなければ確実に負けていたのだ。
炎魔の方を見ると前足を残して大きなマナの結晶になっている。
体を失っても尚、前足から熱を感じるような気がする。
(これ、確か図書館で読んだ文献によると素材か何かになるんだっけ?)
そう思いそっと前足に触れる。
前足に触れた瞬間、何かが指先から入ってくるような嫌な感じがしてすぐに手を引っ込める。
「うわっ!!」
「どうしたっ!?…あ」
驚いて手を見たが何ともなっていない。ホッとして前足のあった所を見ると炎魔の前足が固定されていた氷壁から前足が消えていた。前足のあった氷壁にはポッカリと穴が空いている。
「あれ?前足どこいった?」
指先からの異様な感覚に驚いて前足を投げ飛ばしてしまったかと思い周囲を見渡すが見つからない。
「え?消えちゃったんだけど…」
どうしようかと困ってザンダを見ると、口をポカンとあけてこちらを見ている。
「今、手から吸収したのかい?剣を何も無いところから顕現してたし、それが君の魔法なのかな?」
「え」
ザンダにはユウの手に炎魔の前足が吸い込まれたように見えていた。
(なにそれ!怖い!)
得体の知れない狼の前足が体の中に入ってると想像すると鳥肌が立った。
(吸収したなら出せるだろ!出ろ出ろ出ろ出ろ出ていけ!!!!)
炎魔の前足を外に排出させるように強く念じた結果、炎魔の前足は顕現した。
「俺の右手ぇぇぇーー!?」
ユウの右の肘から先が炎魔のようになっていた。赤黒い体毛に鋭利な爪、意外にも肉球はプニプニだった。
わなわなと震える左手で肉球をプニプニと触る。
「凄いね!!炎魔の力を扱えるなんて!」
ザンダは見たこともない魔法に驚いていた。
(どどどどどどうすんだこれ!右手ががががが!戻れ戻れ戻れ!)
念じるとあっけなく右手は元に戻った。
それから何度か炎魔の前足を体の外に出そうとしたがどうしても体に同化して出てくる。
(おいこれどうなってんだ。なんで自動で吸収されて排出できなくなってる?完全に呪われた装備と一緒じゃないか。いや、腕への同化は解除しておけるからそこは取り外し可ってことなのか…)
理不尽な仕打ちに少し腹が立ってきていたが、勝手に炎魔の前足を私物化してしまっていることはかなり不味いのではと不安になってきた。
「あの…ザンダさん、すいません。体にくっついてしまって取り出せなくなってしまいまして…」
ものすごく申し訳なさそうにザンダに謝った。
炎魔はこれだけの被害を出したのだ。戦利品として武具の素材にすることになっていたらどうしようと焦っていた。
「討伐したのは君だから所有権は君のものだよ。それは大丈夫だと思うんだけど…」
炎魔の前足の件はとりあえず大丈夫なようだ。何か他に問題があるようだが、言いにくそうなザンダに少し不安になる。
「これからの話なんだが、炎魔との戦闘で疲労が凄いだろうけど、これから役所に同行してもらえないだろうか。炎魔討伐の報告をする時にその前足を見せる必要があるからさ。」
ザンダは先程の戦いを直接見ている。ユウがかなり消耗していると思い、申し訳なさそうに話した。
「もちろん、大丈夫ですよ!」
前足の件で揉める事にならなくて良かったとホッと安心しつつ、炎魔の前足の同化が解除できない状態はものすごく嫌なユウなのであった。




