眠りの始まりを求めて
対象の討伐の報告を受けた魔獣対策課・憑神対策課から続々と人員が派遣されてくる。
怪我人と亡くなった討伐師の搬送と、炎魔討伐時に出現した巨大なマナの結晶を運び、一同は街へ帰還した。
炎魔は魔獣が憑神化した個体であると考えられた。
出現したマナの結晶は岩のような大きさで、何人かで協力しないと動かせないほど大きく、炎魔が強力な個体であったと証明するのに十分だった。
役所で炎魔の前足が同化した右腕を出した時は空気が凍ったが、ザンダがことの成り行きを説明してくれたおかげで事なきを得た。
マナの結晶も所有権があると言われたが所有権を放棄する事にした。
(討伐師達も被害に遭ってるのにもらえないだろ。というか本当にいらないし。なんなら炎魔の前足も放棄したい…)
夢の世界で何を得ても意味はないと考え、必要な所で使ってもらいたかったのだ。
夢の世界だからか、食事も必要ないし、住む所も必要ない。
(あれ?そういえばこの服ってなんなんだ?攻撃されて破けて、気が付いたら直ってるんだけど…)
服は毎回同じようなデザインで修復されていた。現実の世界での気に入っている服だった。
紺のデニムのジャケットに白いTシャツ、臙脂色のスラックス、カーキ色のスニーカーで固定されている。
マナの結晶は町のために使う事になるそうだ。これだけ大きな結晶であれば高出力の障壁を展開できるため、町をかなり強い外的から守る事ができるそうだ。
「魔道具無しで戦ってたのかい!?」
少し手が空き、炎魔との戦いをザンダと話していた。
ザンダが言うには魔道具はマナを扱う補助をしてくれるので魔法を行使するのがかなり楽になるそうだ。
魔道具なしでも行使は可能だが、時間がかかるのと疲労が激しく、効果は弱くなるのが一般的だそうだ。
「十分な準備無しで無理矢理魔法を発動させると体内のマナが使用されて動けなくなることもあるからね。戦闘時は特に注意が必要なんだけど、魔道具なしで戦闘できちゃうなんて凄い才能だね!」
マナを使用しているという感覚もよくわかっていないので、もしかしたら自分は全く違う原理で魔法みたいな力を行使している事になるのかもしれないと思った。
しかし、思い返すと大きな力を使った直後に目覚める事もあり、エネルギー切れのようなものはありそうな気もした。
(エネルギー切れがあるなら、回復ができなくなるのが1番怖いか…)
自分の戦い方に危うさを感じて、もし次があるなら気をつけなければいけないと心に刻んだ。
「ユウさん!」
役所のロビーでショウが駆け寄ってくる。
役所での避難が終わり、ユウを探していたようだ。
「やっぱり討伐戦に参加してたんですね…」
討伐師のザンダとユウが会話をしているところを見て確信する。
「熊もいけたから少しは手伝えるかと思ってね。ちゃんと討伐してきたぜ!ぶいっ!」
かなり危険な戦いだったが、ショウが心配そうにしているので何でもなかったと虚勢を張った。
指でVサインを作って大丈夫アピールをする。
「なんですか、それっ」
ユウの何とも気の抜けた返答に思わず笑みが溢れる。
酷い戦いであった事はすでに知れ渡っているが、ユウが少しも大変さを見せないので心は和らいだ。
その夜、戦死者の弔いも兼ねて、ささやかながら食事が振舞われた。
ユウもその場に呼ばれており、生き残った事を皆で噛み締めていた。
魔獣対策課から宿を提供され、部屋に入る。
「夢の世界でも食事は摂れるんだな。美味しかった…」
夢の中であるのに食事を摂ったからか、眠気が出てきてたまらずベッドに倒れ込むのだった。
「…ん?」
目覚めると現実の自分の部屋だった。
もう朝になっている。
(夢の中で寝てこっちで目覚めるんじゃあ、まるで今までと逆だな)
起き上がって体を伸ばす。そして重要な事を思い出す。
「そうだ!背中!!」
慌てて洗面台の鏡へ向かう。上着を脱ぎ、背中を向ける。
鏡には傷一つない背中が映っていた。
「治ってる…」
その事実が重くのしかかり、足元が地面に沈んでいくようだった。
のそのそと自分の部屋に戻りベッドに腰掛ける。
(夢で傷ができたまま起きると現実の体にも影響がある。じゃあ、もしも重症のまま目が覚めたらどうなる?手足が千切れて目覚めたら?…もしも、死んだら?)
嫌な仮定の話が頭の中を埋めていく。
(俺の頭がおかしいのか?こんなこと、あり得ない。何で急にこんな事に…)
これまでいくつもの夢を見てきて、その中で大怪我するような夢もあったが今回のような事はなかった。
この現象にはどこかに原因があるはずだと考える。
(始まりは、あの鐘のある時計塔だった。あれからずっと同じ夢の続きを見てるんだ…。こんな事は今まで無かった事だ)
思い当たるのは最初に逃げ出した時計塔。あの場所にいる誰かであれば原因がわかるのではと考えた。他に思い当たる事は特に無かった。
(今の状態を何とかするには、あの場所に行かないと!)
夢の中では背中の傷を治す前に痛みがあったが、現実では痛みと出血が無かった。つまり夢でのダメージは全く同じものが現実に反映されるわけではないようであった。少しだけ軽減されている。
しかし、このままでは命の危険があるのではないかという疑念は晴れない。
ユウは何とかしてあの時計塔の場所を目指そうと決めた。
「とにかく、今日は大学だ。早めに行こう」
大学に行き、講義を受ける。いつもは気乗りしない講義でも、気を紛らわすためにも全力で受ける。
実習も終わり、レポートを書いて帰宅する。
就寝の時間になり、ベッドに入る。必ず問題を解決してみせる。そう思いながら眠りにつくのであった。
「…んあ?」
夢の続きにやってきたようだが、いつもと違い朝になっていた。いつもであれば完全に続きから始まるので、夢の世界で眠りについた夜から始まると思っていた。
(違いはなんだ?夢の世界で眠ったからか?)
時間経過の原因も気になったが、情報収集に出かける事にした。
役所に行き、魔獣対策課へ向かう。対策課付近でザンダが職員と話しているのを見つけた。
「大きな時計塔があって、軍隊がいるような場所ですか?」
ザンダに心当たりのある場所がないか聞いてみる。
「どこかで見たり聞いたりした事はないですか?」
役所の討伐師であれば一般人より詳しいかも知れないと思い聞いてみることにした。
「時計塔…軍隊…。うーん…その軍服の特徴だったらこの国の昔の軍隊っぽい気がするけど、そんな大きな時計塔がある所は聞いた事ないなぁ」
薄々気付いていたが、やはり近くにある施設ではないようだ。理由は雪だった。あの場所には雪が降っていたがこの町の周辺は暖かく、雪が降った形跡はない。
追跡者から逃げようと強く念じた結果、夢の世界で場面が急に変わるような展開が発生したのではないかと閃いた。
今回の場合はどこか遠くに逃げたいと強く思って走っていた。そのイメージが偶然にも転移のような力を発揮してしまったのではないか。その結果かなり遠くまで逃げる事に成功してしまったのではないか推測した。
場所の特定はできなかったが、あの場所にいた連中について少し分かった。
今この国には自治するための組織が勿論あるが、服の特徴からして昔の軍の特徴があるそうだ。
ドラゴンにより文明が滅びかけたとされている時の軍であった。
「旧軍の施設の跡地なら西にあるって話だけど、細かい場所まではわからないなぁ。旧軍の歴史に詳しい人か、西の方の町にある文献からなら何かわかりそうだけど」
ここから西だと富士の方となる。確か現実でも富士山周辺に基地があったはずだ。
(…行ってみるか?)
ショウと出会った森も西だった。方角だけなら合っている。
「ザンダさん!」
魔獣対策課の職員がザンダに駆け寄ってくる。
何やら緊急の伝達のようだ。
状況を聞いたザンダは職員に何かを伝え、職員は急いで対策課の中に戻って行った。
「ユウ君、君はフリーの討伐師、って事でいいのかな?」
ザンダがユウに問いかける。
「えっと、は、はい」
討伐師ではない、というか資格制なら絶対違うけど話を合わせる。
「西の町、正確には富士の方から救援要請があった。強力な魔獣が近づいているらしい。君に同行してもらえたら心強い。一緒に来てくれないか」




