西の戦い
色々悩んで書いていたら少し長くなってしまった…
ザンダからの要請を受け、急遽西の町へ行く事になった。
「必要なものがあったら窓口で言ってくれ!対策課から持ち出すから!」
そう言うとザンダは準備に対策課へ入って行った。
特に必要なものも無いかとロビーで待つ。
「ユウさん?」
ショウがやってきた。
「今日も魔獣対策課でお仕事ですか?」
魔獣対策課近くの椅子に座っていたので魔獣絡みの仕事だと思ったようだ。
対策課が忙しくしている様子が遠くからでもわかる。
「いや、そのつもりはなかったんだけどね。ショウこそ役所で会うなんてどうした?」
今日は情報収集をしに来ただけだったがザンダの要請を受けて西へ行く事になった。元々西へ行こうかと思っていたのでちょうど良かったのだ。
ショウのような子供が役所にいるのはあまり見ないので気になって聞いてみた。
「僕は魔獣と憑神の両方の対策課の中でお手伝いさせてもらってるんですよ」
ショウはまだ10代前半という所だろう。自分が同じくらいの年齢の時は遊ぶ事しか頭になかったユウは、目の前の少年が立派だと思ったと同時に、寂しい気持ちになった。
「そうなのか…」
子供であっても役所で手伝う世界。現実の世界とは随分と事情が違うようだ。
「おーい、ユウ君!準備ができた!ついてきてくれ!」
ザンダが対策課から出てきてこちらに向かって手を振っている。
「どこかに行かれるんですか?」
ショウはユウに尋ねる。
「西から救援要請があったみたいでね。ザンダさんに同行する事になった。呼んでるから行ってくるよ」
椅子から立ち上がり、ショウに手を振って別れる。
「気をつけて!!」
ショウは手を振って見送った。
ザンダと町の門から出ていくとトラックのような機械が1台ほど停まっていた。
見た目は現実の自衛隊が使っているような形をしている。
(うおーー!ゴツい!イカついな!)
ユウはゴツゴツした見た目の車両が好みだった。
物資は積み終わっており、いつでも出発できる状態だ。
「僕とユウ君が先遣隊として現場に急行する。他の討伐師達はこちらの防衛と、あとはまだ怪我が完全に治っていないからね」
そういうとザンダが運転席につく。ユウも助手席に乗りシートベルトをつける。
「じゃあいくよ!」
そういうとザンダはトラックを発進させる。
思ったより振動の少ない走り心地でホッとする。
道はあるが舗装はあまりされていない。それでなぜこんなに乗り心地に問題が無いのかわからないが、おそらく魔道具が関係してるんだろうなと考えるのはやめた。
「1時間くらいあれば着くと思う。念のため外を警戒して魔獣がいないか確認を頼むよ」
ザンダに言われて窓の外の確認をする。
現実よりも自然が多い。高速道路はなく、車通りはほぼ無い。
途中いくつかの町の前を通ったが、その町からも援軍が派遣されて行ってるのだろうか。ザンダに聞いてみる事にした。
「おそらく他の町からも援軍はあると思う。聞いた情報だとセンサーは赤を示したらしい。炎魔ほどの個体は滅多に現れないんだけど、なんなんだろうね、いったい…」
自体はかなり緊迫しているようであった。炎魔と同じセンサー赤。
あの強力な魔獣と同じレベルの何かがいる。窓の外の警戒も自ずと力が入る。
警戒をしながらの移動はかなり神経を使い、思ったよりも体力を消耗するのであった。
周囲に魔獣のような存在は確認できずに目的地に近づく。
「門が見えてきた!あれが目的地だよ!」
門に近づいてくると何か様子がおかしい事に気がつく。
「ん?門はあるけど建物がない?」
目を凝らして門の方を見てみる。
「あれは…不味いかもしれない」
ザンダはアクセルを強く踏み込み、トラックのスピードを上げる。
門の外に着くと他にも何台かトラックが停まっていた。人はいないようだ。
門の内側に入ると、戦闘の形跡があった。入り口の建物が壊れている。
住民のシェルターへの避難は済んでいるのか、誰もいないようだ。
「妙だな、住民がいないのはわかるが、後から来た援軍まで何故いないんだ?」
ザンダに続いてユウも周囲を警戒しながら町の中へ進んでいく。
町の中心まできたが特に異常はない。
シェルターを目指してさらに奥に進もうとするとザンダが何かに気がついた。
「待て、何かいる…!」
ザンダの目線の先には見たことのある犬型の魔獣がいた。
(アイツはあの時の!)
それは時計塔の中にいた、捕まると緑色のネバネバになって体を包んで擬態してしまう化け物。ユウにあの時の恐怖が蘇る。
「ザンダ!アイツに近づかせてはダメだ!障壁を張って!」
ザンダは言われてすぐに障壁を張る。魔獣は障壁に激突する。怯んだところをユウが剣を出して縦に両断する。
魔獣は緑色の液体になり崩壊する。
「な、なんだこいつ…」
切った後に緑色の液体になった得体の知れない魔獣にザンダは驚く。
「こいつに捕まると体を乗っ取られるのかもしれない。前に見た事がある。」
崩壊した魔獣をみながら時計塔から脱出した時の事を思い出す。あの時はこの魔獣に捕まった男が緑のネバネバに包まれて、男に擬態してその場から何事もなかったように去っていった。
「ユウ!」
ザンダの声に反応して顔を上げると建物の物陰から魔獣が飛びかかって来ていた。咄嗟に剣で牙を防ぐが、掴み掛かられてしまった。
魔獣が緑色のネバネバに姿を変えて体を包み込む。
(まずい…息ができない!この、離れろ!!)
剣で攻撃しようにも体に密着されているのでできない。
(くそ!やばい!何とかしないと!…炎魔!)
最近同化してしまった炎魔を顕現させる。右腕が炎魔の右腕になった途端、緑のネバネバは燃やされていった。
「はぁーー。助かった…」
魔獣を焼き払い、息を整える。事なきを得たようだ。
炎魔の右腕に初めて感謝をした。
「ユウ!大丈夫か!」
ザンダがユウの安否を確かめる。
「なんて厄介な魔獣なんだ…。あんなに密着されたら周りから手出しできない。自衛手段が無かったら、相手が火傷するのを覚悟で炎の魔法を使って燃やすしかない…」
ザンダには守りの障壁を自分の体を中心に展開する事ができ、ユウは炎魔の右腕で焼き払う事が出来るので対処できる。
2人は周囲を警戒して見渡す。他に魔獣はいないようだ。
役所に向かおうとした時、1人の男が声をかけてきた。
「援軍ですか!」
メガネをかけた細身の中年くらいの男は物陰からこちらへ駆けてきた。
「この町の方ですか?」
ザンダがメガネの男に声をかける。
「いえ、私も援軍の1人でして、魔獣に詳しいということで同行してきたのですが…」
メガネの男の他には誰もいないようだ。
「他の援軍は?」
どこかに待機しているのかもしれないと思いザンダが聞く。
「それが、正体不明の魔獣に襲われて…。犬型の魔獣のようでしたが、人に飛びつくと緑色のスライムに姿を変える見たことも聞いたこともないタイプでした。」
それは先ほど排除した魔獣のようだった。
やはり入り口の戦闘の形跡は先程の魔獣と戦った後のようだ。
「その後、スライムは飛びついた人に擬態してしまうんです。私以外は全員捕まってしまって、その後擬態した魔獣は北の方へ向かいました。」
メガネの男はセンサーで赤くなっている方を指差した。
「他に魔獣の気配は?」
襲って来た魔獣は先ほどの個体が群れで現れたようであった。街に入り込んでいるのか確認した。
「魔獣はいないようですが、住民の方は念のためにシェルターに避難してもらってます」
メガネの男が言うには住民の避難は完了しており、住民の命の問題はなさそうだ。
「わかりました。ユウ、北に向かってみよう。センサーがまだ赤く光っている。警戒していくよ!」
ザンダはセンサーで赤く光っている北へ向かう事を決める。センサーの反応から、そちらに元凶がいるのは間違いないようだ。
「わかりました!行きましょう!」
ユウはセンサーで赤い北の空を見る。
「お恥ずかしながら、私は戦闘がからっきりでして…。私はここで他の援軍の方がきたら事情を説明してそちらへ向かってもらいます。申し訳ありませんが、よろしくお願いします!」
メガネの男は戦闘タイプではないようなので町に残って伝令を請け負う事にした。
ザンダとユウは了承しメガネの男と別れる。
門から出てセンサーで赤い北に向かう。少し山に登るような道がある。
「入り口付近の建物が壊れていたのは、そのスライムに姿を変える魔獣との戦闘の影響だろうか…」
ザンダは入り口の損壊が激しかった事が気になっていた。あの魔獣との戦闘であそこまで建物に影響が出るのだろうか。
疑問に思いながら先を急ぐ。
「いた!」
ユウが少し開けた場所に誰かいる事に気がつく。
センサーが赤く光っているところに1人の討伐師と思われる人が立っていた。動く様子もなく佇んでおり、周りには誰もいないようだ。周囲を警戒しながら2人は駆け寄る。
「大丈夫ですか?うわっ!」
駆け寄ったユウに討伐師が剣を振るう。ユウはバックステップで何とか回避した。
斬りかかってきた討伐師は無表情で正気なのかわからない。
「この人、さっきの魔獣に乗っ取られてるのか!?」
討伐師は剣を構えてこちらを見ている。攻撃の姿勢を変えようとはしないようだ。
「援軍です!意識はありますか!!」
ザンダは大きな声で呼びかける。しかし、討伐師からの返答はない。
「だめだ。魔獣に乗っ取られてると見ていいと思う。僕も炎の魔法は使えるけど調整が難しい。ユウの炎魔で何とかできないかい?」
ザンダは炎の攻撃魔法を使えるが弱くするといった調整は試した事がないので危険が伴う。
ユウが炎魔でスライムになった魔獣を燃やした時は体に大きな火傷もなくできていた。
「やってみます!」
ユウは炎魔で討伐師を乗っ取っている魔獣の排除をイメージする。討伐師に触れるために距離を詰めようとした時、討伐師が剣に力を込めて構えを変える。水平に剣を構えた。
「っ!!ユウ!僕の近くへ!」
ザンダが障壁を張りユウも一緒に包み込む。
討伐師が剣を水平に振り抜くと障壁に剣が当たるような硬質な音が響いた。
「乗っ取った対象の魔法まで使えるのか!?」
討伐師は再び構えをとったが、ユウがすでに後ろに回り込んでいた。走った地面が焦げている。
「少し我慢してくれ!炎魔!!」
炎魔の右腕で討伐師の腕を掴む。討伐師の体が瞬く間に炎に包まれるが、何かが剥がれ落ちるように炎が消えた。討伐師は軽い火傷を負っているようだ。
「持って来た物資の中に火傷治しがある!任せてくれ!」
ザンダは腰につけているバッグからドロドロの液体が入った瓶を取り出し、討伐師の火傷部位にかけていく。火傷が泡を立てながら治っていく。
「何とかなりそうだ。」
2人はホッと胸を撫で下ろした。意識を失っている討伐師の呼吸も確認できた。
「でも何でここで停止してたんだろう…。それに他の人はどこに…」
屈んでいた2人は周りを見渡す。誰もいないようだ。センサーはまだ赤い。警戒は解かれていない。
「何かいるっていうのか?でも周囲にはいないな」
ザンダは注意深く周囲を見渡して確認している。
ユウもザンダと背中合わせに周囲の警戒をしている。
(…もしかして、こういう時って大抵…)
ユウは上を見た。はるか上空なのか、黒い点がすごいスピードで大きくなっていく。
「ザンダ!!!上だ!!障壁!!」
反射的にザンダが障壁を展開する。ユウもその障壁に被せるように障壁を見よう見まねでイメージして補強する。
「くっ!」
「ぐぁっ!」
何かが激突したのか障壁が上から押しつぶされるように地面に押し込まれる。2人は全力を出して踏ん張って堪える。
地面が陥没するほどの威力。障壁との激突の余波で周囲が土埃に包まれた。
2人は障壁を維持しながら体勢を立て直す。
凄まじい突風が吹き、土埃が吹き飛ぶ。
2人の眼前には巨大な鷹のような魔獣が威嚇するように声を上げていた。




