憑神:風切り
巨大な鷹は一撃で蹂躙できなかったこちらを見ながら羽を広げ、大きな鳴き声で威嚇している。
羽を広げるとトラック並みに大きい。
上空からものすごいスピードで降下して、両足でザンダかユウをつかもうとしたのだろうが障壁に阻まれて押しつぶすような形になった。
耳が痛くなる大きな鷹の咆哮に2人は怯んだ。
「アイツは鷹の魔獣か?ザンダ、アイツも名前があるのか?」
ユウは目の前の大きな魔獣は炎魔と同じように個体名があるほど有名な魔獣なのか確認した。
「おそらく風切りという鷹の魔獣だと思う。けど、それは種族名だ。これほど大きい個体はいない」
風切りという鷹の魔獣は複数存在し、割と出没するのでザンダも見たことがあった。しかし眼前の風切りと思われる魔獣は今まで見てきた個体より遥かに大きく、別の生き物のようだ。
「来るぞ!」
風切りが羽を広げる。羽から何かが飛んできて障壁にあたる。剣で斬ったような音が鳴る。
「風の刃!?」
風切りの翼から何かが発せられて障壁に斬撃のような攻撃をしている。それが何発も連射してきている。遠距離から障壁を削る気のようだ。
通常の風切りの個体であれば小さい風の刃を単発で放てる程度であるが、この巨大な風切りは明らかに能力が上であった。
「このままじゃジリ貧だ。俺が障壁の後ろから飛び出して鷹の背後に回り込んで攻撃してみる。隙があったら攻撃してくれ」
ユウは消耗する前に攻勢に出ないと押し切られると感じた。自分だけなら回り込むことができると判断した。
「わかった」
ユウは障壁を盾にするように後ろから飛び出す。炎魔の右腕を出して回り込む。炎魔の力なのか速度が上がっている気がする。地面を焦がしながら物凄いスピードで風切りの背後に回り込む。
「炎魔!!」
炎魔の爪で引き裂くように振るう。風切りの背に爪が傷をつけて傷口が焦げる。
「ギィぃ!」
たまらず風切りは背後に回ったユウの方を向こうとする。
翼の背部から発生した風の刃がユウに向けて発射されるが狙いが不十分で体に数箇所浅い切り傷ができる。
(こいつ!!後ろにも魔法使えるのかよ!!)
「今!」
ザンダが渾身の力で剣を振り落とす。風切りの胸の部分に斬撃が入る。
風切りが怯む。2人は返す爪と刃で追撃を加えようとするが空を切る。
風切りが飛び上がったようだ。
上空を旋回している。
「また上から攻撃してくるつもりだ」
ユウは先程の急加速して突っ込んできた攻撃を思い出す。
「さっきの降下攻撃は力を緩めたら押し切られる。体力的にも何回も防げないぞ」
最初の一撃が風切りの持つ攻撃の中で最も強力なものなのだろう。障壁を使っていて1番消耗した攻撃だったとザンダは感じていた。
「次、防いだらすぐに俺が飛び出して致命傷を与えてみます」
風切りが油断する時、それは絶対的に自分に自信がある攻撃をして相手を弱らせると確信している時だと思った。その隙を狙ってみようとユウは考えた。ザンダの剣と炎魔の爪の攻撃は問題なく風切りに通用していたので防御力はそんなにないようだった。
「わかった。それならユウは攻撃に集中してくれ。次の一撃はこちらが全て請け負う!」
ユウの作戦に乗ったザンダは守りは全て自分が請け負うと言った。守りの障壁は自分中心に無駄な部分を無くしてさらに小さくすれば更に強力なものになる。自分たちに必要な最小限の範囲で強力な障壁を張るために集中する。
風切りが旋回をやめて急加速して突っ込んでくる。
「障壁!!!」
全力の障壁を張る。風切りは足から激突し、障壁が押し込まれはするが破られはしない。
風切りがすぐに飛び立とうとしたその時、ユウが風切りの喉元にめがけて飛び上がり、炎魔の爪を突き刺し首につかみかかる。
「焼き切れ!炎魔ぁぁぁー!!」
傷口から炎が噴き出す。声にならない鳴き声をあげる風切り。
炎魔の赤熱した爪がつかんだ喉の部分を焼き潰す。
風切りは後ろによろけている。
着地したユウは再び飛び上がり、振るった炎魔の爪が風切りの首を焼き切った。
首を失った風切りはその場に倒れた。
「やった…」
2人はその場に座り込んだ。センサーの赤色も消えて、脅威は去ったようだ。
炎魔の時のような大怪我もなく討伐することができ、紛れもない大勝利だった。
風切りは素材を残しマナの結晶に姿を変えるが、炎魔より結晶は小さいようだ。
素材は爪が数本と羽数枚が落ちている。
「素材だけ拾って、一旦戻ろう。意識が戻らない討伐師も置いていくわけにはいかないから」
ザンダは他の討伐師達の捜索は危険と判断した。意識の戻らない討伐師を町へ運ばなければならないのと、他の討伐師達も同様に攻撃を仕掛けてきた場合は意識不明の者を守りながらの対処となってしまう。
「同感です、これ以上は危険かと。この方を町へ運びましょう」
ユウもザンダの意見に賛同し、風切りの素材を集めてから下山するのであった。
マナの結晶は流石に運べないので町の者に伝えて対処してもらうことにした。
2人が下山準備をする中、影から見つめる者の姿があった。
「炎魔、ですか。随分と強力な討伐師がいたものですね…」
そう呟くと山の闇に潜んで消えていくのであった。
町に着くと、センサーの反応が消えたからかシェルターから人が出てきていた。
「お二人とも!無事だったんですね!」
伝令係を引き受けていた眼鏡の男が2人を見つけて駆け寄ってくる。
「センサーの反応が消えたのでもしやと思っていたのですが…。そこの討伐師の方は魔獣に乗っ取られて北に行った方では?」
眼鏡の男はザンダが背負っている討伐師をみて質問してくる。どうやら顔見知りではないようだ。
「はい。戦闘になりましたが魔獣から解放できました。しかしまだ意識が戻らないので一旦町に…」
ザンダはことの成り行きを説明した。
まずは意識の戻らない討伐師を安静にできる場所に移すためにシェルター付近の魔獣対策課の救護所に向かう。
「センサーの反応の元凶は巨大な風切りの魔獣であったと。そしてお二人だけで討伐して帰還されたということですか…」
眼鏡の男はザンダの説明を聞いて考え込んでいた。
「他の討伐師達の行方も追いたかったんですが、これ以上は危険と判断し帰還しました。お仲間を連れ戻せず申し訳ない…」
ザンダは眼鏡の男と一緒に来たであろう討伐師を見つけることが出来なかったので気を落としていると思い頭を下げた。
「いえいえ!2人だけで巨大な魔獣を討伐して、無事に1人救助できたのです。あなたが謝ることではないですよ!」
眼鏡の男は2人の功績を称えた。
「それに、魔獣から解放されたこの方も生きているのです。他の討伐師達もまだ望みはあると信じましょう!」
意識の戻らない討伐師を救護所に運び、救護所の職員に治療を任せる。
眼鏡の男は自分が所属する町へ連絡しにいくということでここで別れることになった。
「申し訳ありません。私としたことが今まで名前も名乗ってませんでしたね。私はシロセと言います。お見知り置きを」
「ザンダです」
「ユウです」
ユウとザンダはシロセと握手を交わし別れた。
ユウ達は魔獣対策課・憑神対策課で今回の大型風切りの件と、人を乗っ取る魔獣について報告した。マナの結晶はこの町に譲ることになり、回収はこの町の者で行うそうだ。素材に関してはこちらで貰っていくことになった。
ザンダはその後、自分の町へ対策課から報告を済ませた。
魔獣対策課から出て外に出ると日が落ちかけていた。ここからの探索は危険なので魔獣対策課から提供された宿で休むことになった。
「明日はあの山の先に行ってみよう。対策課で聞いたんだが、あの先には旧軍の基地があるらしい。もしかしたら他の討伐師達はそこに向かったのかもしれない」
ザンダは対策課の職員から情報収集していた。
戦闘地点の先に旧軍の基地がある。そして、人を乗っ取るあの魔獣。
ユウの探している時計塔に無関係とはとても思えず、明日の探索に期待を寄せて眠りにつくのであった。
「…ん?」
ユウが起きると現実の自分のベッドであった。
どうやら戻ってきたらしい。
(…よしっ!時計塔につながってきた気がする!)
この夢が続く状態の原因と考えられる時計塔に順調に近づいた事に喜びが溢れる。
今日の夜眠りについて、あの夢の続きを見る事ができれば時計塔の事がわかるかもしれない。
ユウは上機嫌に大学へ行く準備を始めるのであった。
ユウと洗面台近くですれ違った姉は弟が元気そうなので少し安心した。
(なんか嬉しそうだし、心配なさそうね。…それにしても赤黒いメッシュを後ろ髪に入れるなんて珍しいわね。禿げるから絶対髪はいじらないって言ってたのに。)
姉の目線の先には後ろ髪に少しだけ赤黒い毛が混じっている弟がいた。




