炎魔の傷痕
背中の傷の痕をみて固まる。思考が停止する。
すぐに我に帰るが、今度は恐怖と焦りでパニックになる。
(なんで!?コレじゃあまるで…)
これではまるで、炎を纏った狼に爪で攻撃された痕のようであった。
(嘘だろ!ゆめ、夢だったじゃないか!今、起きたはずだろ!)
慌てて自分の部屋に戻る。ベッドを見るが出血した様子はない。
(血は出てない、なんなんだ、いったい…)
理解し難い背中の傷痕への恐怖と、出血はしていなかった安心感で感情がごちゃ混ぜになった。
どっと疲れてベッドに腰掛ける。
「あんた…どうしたの?」
姉は弟の焦った様子に心配しているようだ。
「…いや、何でもない。もっかい寝るわ」
今自分に起きていることをうまく伝える自信がなかった。自分でもどうかしてると思ってしまう内容だ。確証が欲しかった。
「そう…体調悪いなら早くいいなさいね」
姉は無理には聞かずに部屋を出て行った。
(訳がわからない。夢で怪我したら現実の体が影響を受けるなんてあるのか?)
動揺していたが、少しずつ落ち着いてきた。そして、あることに気がついた。
(怪我をしたのは背中だけじゃなかったはずだ。でも他は何ともない…)
狼から受けた攻撃は、捨て身で受けた正面のものもあったはずだった。
しかし、顔や腕、手足の傷は見当たらない。
背中以外の傷痕はないようだ。
(違いは…背中の傷は治してる最中に目が覚めた?…いやいや、それじゃあ夢の中で背中の傷を治しきれば傷痕が消えるってのか?そんなアホな)
確かめようにも目が冴えてしまい、とても眠ることはできそうにない。
(とにかく、命に別状はない、と思う。痛みもないし。傷のことは一旦考えないようにしよう…)
気持ちを必死に切り替え、休日を過ごすことにした。
昼なのか、夜なのか、睡魔がやってくるまでは確かめようがないのだ。
休日を買い物、ゲームなどで消費していく。しかし、背中の傷痕が頭から離れてくれない。眠気が来たのは結局深夜だった。
また同じ夢が見れるとも限らないはずなのに、何故か夢の続きの始まる予感がしていた。
満身創痍な男side
センサーが反応した地点にて赤黒い体毛の魔獣と会敵する。
即座に討伐師のメンバーと陣形を組んで対峙する。魔道具でもある大剣に集中して周囲に守りの障壁を展開する。他の者達は各々の魔道具を使い魔法の準備を始める。
しかし、魔法が放たれることはなかった。
魔法を放つ前に、重い衝撃が前方から襲い掛かり気が付いたら討伐師達は吹き飛ばされていた。
周囲に展開した障壁は破られていたが、障壁のおかげでダメージは軽減されているようだ。
致命傷は避ける事ができたが、陣形はバラバラにされてしまった。
吹き飛ばされた討伐師達は魔法を行使しようとその場で集中し始めるが、魔法を行使する前に狼の追撃により戦闘不能に陥っていた。
狼の目にも止まらぬ突進が直撃して吹き飛び起き上がらない者、爪の一撃で引き裂かれて体が千切れてしまっている者、体は千切れてはいないが酷い出血で血溜まりに倒れている者、皆一様に火傷を負っているか燃えてしまっていた。
目の前にいる赤黒い狼は個体名『炎魔』と推測された。いくつかの街を滅ぼしたとされている魔獣であった。
魔獣対策課から出動した討伐師達は1人を残し戦闘不能に陥っていた。
まだ息のある者もいるが、炎魔が退却させてくれるような甘い相手ではないことは明白だった。
(炎魔は、全員動けなくしてからゆっくりトドメを刺すつもりだ…)
炎魔はあえてトドメは刺さずに重傷者を放置しているようであった。過去の文献からも滅びた街の生き残りは無く、焼け焦げた街と赤黒い体毛が残されているのみだった。
最後の1人となった自分が動けなくなったら1人残らずトドメを刺していくのであろう。
最後に残った男は守りの障壁を自分に限定して展開すれば数撃は防ぐ事はできるであろうと推測していた。しかし、自分の集中がいつまで保つのかわからない。攻勢に出ることができなければ結末はかわらないのだ。
あとは自分が耐えている間に他の町から強力な討伐師の援軍が来ることを祈るしかない。
最後まで諦めるつもりはなかった。
剣を構えて対峙していると視界の端から炎魔に向かって駆けていく影が映った。
(!?)
自分が最後の1人だと思っていた男は咄嗟に声をかけた。
炎魔に向かっていった見知らぬ男は到底信じられない事をしていた。
炎魔の攻撃を剣で受けてまだ動けていた。
同じように剣で攻撃を受けた討伐師は剣をへし折られて、吹き飛ばされて上半身が焼け焦げてしまっていた。
(何だあの剣は!焦げているが曲がってすらいない!体に至ってはほとんど無傷か!)
次は炎魔の爪を背中に受けていた。
同じ攻撃を受けた討伐師の体は2つに千切れて燃えてしまっている。
(何であの程度で済んでいる!?あの服が特別な素材の防具なのか!?…炎魔から受けた傷が、もう治ってる!?)
炎魔に捨て身で反撃をする見知らぬ男。
炎魔が本気を出したのか攻撃方法を変えて後ろから渾身の一撃を加える。
(ダメか…!くそっ、間に合わない!)
吹き飛ばされた見知らぬ男の元へ助けに入ろうとしたその時、炎魔が無数の刃に貫かれた。
見知らぬ男は立ち上がり一本の刃を掴む。凍れと叫ぶと炎魔は氷壁に包まれた。
「かった、のか?あのような技を…なんて無茶を…」
強引に発動したかのような氷壁をみて息を呑む。
動かなくなった氷漬けの炎魔に向かって見知らぬ男は大きな剣を構えていた。
剣を横に振り抜き、氷壁ごと一閃する。
死を振り撒いていた炎の災害、炎魔の首が胴と離れていった。




