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夢現〜眠りの鏡界  作者: ヴィトー・シームルグ


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憑神:炎魔

煙の量が増えていく。

町の外で何かが次々と燃えているようだ。


(あの煙のところに今回の原因がいるのか?)


一向に良くならない状況に走る速度が上がる。

門から町を出て煙の方角へ急いだ。


煙の下へ到着すると、そこは戦場と化していた。

燃えた木々と焼け焦げた地面、折れたり曲がってひしゃげている剣などの地面に散らばる武器、装備が焼け焦げて倒れている者、たった1人になっても剣を構えて敵を睨みつけている者、そして、赤黒い体毛の大きな狼がいた。


(なんだ、あのオオカミ?)


狼は大きかったが、大きさだけなら以前倒した熊の憑神の方が大きいようだ。

しかし、狼の放つプレッシャーは比べ物にならないほどであった。

心臓を掴まれるような感覚、狼を中心に空気が重くなっているような錯覚をしてしまうほどだった。



(あいつ、絶対にヤバい。周りの倒れてる奴ら、死んでるのか!?)


焼け焦げた者たちは明らかに息をしていなかったり、体が千切れていたり、息がある者でも出血が酷かったりと酷い状況だった。


(酷い火傷だ…。あの狼がやったってのか?)


狼から火が出ているようなことはないが地面の至る所が焼け焦げているのと、燃えている木もあった。

狼以外の周囲に惨状を起こすような存在はいないようだ。


(火でも吹くってのかよ)


鎧が凹み、その凹みを中心に焼かれたのか上半身に酷い火傷を負って倒れている討伐師を見る。

火傷は酷いがこの世界には魔法があるはずだ。現実ではあり得ない回復も見込めるかもしれない。


(アイツさえ何とかできればまだ助かる命もあるかもな…)


赤黒い狼を見る。

大人しく怪我人を回復させてくれるとは到底思えない。

今この場を支配しているあの狼を退ける、もしくは討伐しないとここにいる人達はもちろん、町にも被害が出る可能性がある。

震えていたショウ、泣き叫んでいた人々を思い出す。

覚悟を決め、遠くに見える赤黒い体毛の狼に向かって駆けて行った。


「…っ!!おい!やめろ!死ぬぞ!」


狼と剣を構えて狼と睨み合っていた男は満身創痍だった。視界の端からものすごい速度で飛び出す影への反応が遅れ、声で制止する事が精一杯だった。


(一撃で決める!あの時と同じ巨大な剣のイメージで…)


赤黒い狼に接近しながら熊の憑神を両断した剣をイメージして出現させる。


「防御しろ!!」


男の叫ぶ声が聞こえた。

反射的に剣を目の前に構えて防御の姿勢をとった瞬間、とてつもない衝撃を受け吹き飛ばされる。


「いってぇ!」


横に弾き飛ばされたが何とか受け身をとり体制を立て直す。


狼から自分がいたところの直線上の地面が焼け焦げて抉れていた。

狼の突進で弾き飛ばされたようだ。

巨大な剣をイメージして剣の腹で受けたおかげか、剣が盾のように機能してくれたのが幸いした。

突進を受けた剣の腹の部分は黒く焦げていた。


「そいつは炎魔だ!!体毛に触るだけで燃やされるぞ!!」


(えんま?個体名があるのか?いや、それより問題は…)


炎魔と呼ばれた狼は自分の一撃を防いだ獲物を睨み唸っていた。


(この狼、速すぎる!)


一撃を防げたのは偶然に過ぎなかった。もう一度同じように防ぐには常に防御の構えをとらなければならない。


「!!!」


再び前方から同じような衝撃がくる。吹き飛ばされるが致命的な攻撃は受けていない。そう思っていた矢先に、背後から追撃がくる。


「ぐぁ!!」


地面にぶつかり跳ねながら吹き飛ばされる。突進をした炎魔はすぐに方向転換をし、背後から高熱を帯びた爪で引き裂いてきたようだ。


「いっってぇ…!」


背中が爪で引き裂かれる痛みと背中が燃えるように熱い。炎魔の攻撃には全て炎が纏われているようだ。周りに転がる焼け焦げた者たちが脳裏に浮かぶ。


(くそっ!呑まれるな!コレはあくまで夢だ!傷が出来ても治せばいい!!治れ!治れ!)


自分の傷が治るイメージをする。傷がすぐ治るゲームや漫画のキャラを想像して自分に当てはめる。痛みは落ち着いたようだ。


(よし、いける!)


立ち上がり狼を睨みつける。


狼は仕留めたはずの獲物が起き上がったことが不快なのか、低い唸り声をあげている。


(あの狼、絶対に許さん。次で仕留める。イメージだ、アイツを仕留めるための一撃の…)


剣を構えるとすぐに狼が突っ込んできたようだ。

気がつくと吹っ飛ばされているので受け身を取る。

しかし追撃はなかった。


「くそっ!捨て身でコレか!!」


狼は右の前足から少し血を流していた。剣の腹で防御するのではなく剣を突き出したのだが少し傷をつけるだけであった。ユウは体に火傷を負ってしまったが、必死に治れとイメージして治す。


(傷はつけられるけど、致命傷にはならない!それなら…!クソっ!覚悟を決めろ!)


傷を負った狼の周囲の景色が歪む。怒りで体の熱が上昇しているようだ。

狼が視界から消える。今度は正面からの衝撃はなく、少し遅れて後ろから強烈な一撃が来る。フェイントをいれて方向転換してきたようだ。

前足による強烈な一撃で吹き飛ばされ木に激突する。

背中に酷い火傷と爪の裂傷による重傷を負い倒れると、狼はトドメを刺しに近づいてくる。

傷を治される前に、しぶとい獲物の頭を噛み砕こうと大きく口を開ける。


「ブッ刺せ!!」


血を吐きながら力の限り叫ぶ。

地面から生えた無数の刃が狼に刺さる。


「ガァ!!!」


狼は痛みに驚き後ろに下がろうとするが動けない。

刃は手足を貫通した瞬間に刃先が捲れて『返し』が出来ており簡単には抜けなくなっていた。


(まだだ!)


背中の痛みを堪えて立ち上がる。

左肩あたりを貫いている刃の一つを掴みイメージした。


「体の中から凍っちまえ!!!」


イメージしたのは凍りつく狼。

刃から冷気が伝わり狼が体の中から凍っていく。


「グガァ!!」


狼は暴れて抵抗する。右前足を刃から引き抜く。

渾身の力で前足を振り下ろす。


「おとなしく、凍れ!!!」


瞬間、狼が大量の氷壁に包まれた。狼が最後に振り下ろした右前足は氷壁から突き出して止まっている。

あと少しでユウの頭を直撃していたであろう。


「…うまくいったのか?」


背中の傷が治るようにイメージしながら氷壁の中の動かない狼を見る。目はまだこちらを見ているようだ。


「うわっ!!」


氷壁からでた前足がまだ動いていた。

ユウを引き裂こうとしているのか手をこちらに向けて動かそうとしている。


(しぶとい…でもこれなら)


背中の治療は一旦やめて、狼の首を両断できる剣をイメージする。

氷壁ごと断ち切る剣のイメージを。


(斬る。)


命のやり取りの影響で余計なことを考えずに集中できていた。狼の首に目掛けて剣を振る。

氷壁が横に崩れる。首の無くなった狼は右前足を残して巨大なマナの結晶になるのであった。


………


「しゃあーー!勝てたぁー!」


ベッドから起き上がりながら叫んでいた。


「あれ?……あー、起きたのかぁ。」


ベッド横の時計を見る。今日は休日なので特に急ぎの予定はなかった。


(とりあえず着替えるか)


現実ではありえないほどの強敵を撃破。休日から目覚めも良く、朝からいい気分で過ごせそうだと服を着替え始める。


(それにしても最後はやばかった…。でもアイツが至近距離で油断するにはアレしか思いつかなかったからな…。うまくいってよかった。)


狼の一撃を受けて、狼がトドメを刺しにきた所を狙うという博打のような作戦だった。狼の攻撃に耐える事ができなければ、こちらがやられていたであろう。


「ちょっと朝から何叫んでるの?」


弟の部屋から大きな叫び声が聞こえて心配した姉が部屋のドアを開ける。


「着替え中だぞ!!ノックしろや!」


反射的に前を隠して背中を向ける。


「うるっさい。いきなり大声が聞こえたせいだろが」


姉は威圧を使った。

弟の威勢は無くなった。

姉は威圧感の残る眼差しのまま弟をみる。弟の精一杯の抵抗に少し腹が立っていたが、弟の背中を見て怒りは心配に変わった。


「…あんた、背中のそれなに?火傷なんていつしたの?」


「へ?」


背中を火傷するなんて身に覚えがなかった。

洗面台の鏡で自分の背中を確認すると、大きな爪で焼き裂かれて、裂傷と火傷が治ったような痕が3本の斜線を作っていた。

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