憑神
「お、さっきの森だ」
どうやら先ほどの森に戻って来たようだ。
昼間なのか、木漏れ日がみえる森。
(夢って自覚があるからなのか?かなり意識がはっきりしてるみたいだ。)
周りを見渡しながら屈伸してみたり、ジャンプしてみたりした。
(…なんか夢じゃないレベルで意識がはっきりしてる気がする。)
先ほど軍人に追いかけられたことも鮮明に思い出せるし、夢ではなく、現実の事も問題なく思い出せる。
現実なら知らない森の中を歩くなんて絶対にしないが、夢を見ているだけだから大丈夫だろうと、特に危機感もなく森の中を歩いて行った。
「森の中を歩くだけなのかな?特に何も起こらないな。」
夢の中であれば、よくわからない展開があるもんだよなと歩きながら考えていた。突然景色が変わったり、アニメやゲームの敵キャラが出てきて襲いかかってきたり、知り合いが突然出てきたりと何かが起こるのではないかと思っていた。
「ん?」
少し遠くで人の声と、何か大きなものが倒れる音が聞こえたような気がした。
「あっちか?」
聞こえた音の方角へ走って行った。
「うわっ!何だありゃ!」
森の中を音の聞こえた方角に進んでいくと、巨大な赤い体毛の熊と、腰が抜けたのか尻餅をついて起き上がれない少年が少し離れて向かい合っていた。
(でっかー!何だあの、熊? デカすぎだろ! あの子、襲われてんのか!?)
3mをゆうに超える大きさの獣はゆっくりと少年に近づいていた。
獣の後方にはへし折られた木々が転がっていた。
(助けないと!えーと、夢の中なんだから何でもできるはず! 剣剣剣!俺は今、剣を持っている!)
夢であれば出来るはずと、自分に暗示をかけるように剣をイメージした。
ゲームや漫画等の知識から剣のイメージに当たりをつける。
「あ、足が…!」
少年は涙を浮かべながら必死にその場から逃げようとしていた。
「なんで、憑神が…!」
憑神と呼ばれた獣は唸りながら少年に近づいてくる。
「いやだ、死にたくない!」
少年が叫んだのと同時に、突然現れた乱入者は無骨な剣で切りかかっていた。
「く、らえ!!」
力任せに剣で斬りかかる。
憑神の腕に少し裂傷ができたが、有効打にはなっていないようだ。
(この剣の一撃じゃ倒せない!)
憑神は少年からこちらに狙いを変えたようだ。
攻撃してきた人物を威嚇するように咆哮をあげる。腕を振り上げて、鋭利な爪を出して勢いよく振り下ろしてきた。
間一髪、バックステップで攻撃を躱しつつ距離を取った。
(あんなの食らったら即死だろ!デカい剣!デカい剣!!)
さらに大きなダメージを与えるために、目の前の敵より大きい剣をイメージして自分の剣の形を変えていった。
「よし、これなら!斬れるか!?くらえ!!」
イメージから作られた巨大な剣を上段の構えから獣に振り下ろした。
「はぁ!?」
剣は両腕でガードされていた。
獣は巨大な剣を両腕で振り払い、こちらに咆哮をあげ威嚇し、突進してくる。
(そうだ、ここは夢だ。『斬れる』って思い込まないとだめか!?)
獣がもう目前まで迫ってきていた。
(一旦回避!!後ろに回り込む!)
横に思いっきり飛んで回避、地面を掴んで方向を無理矢理変えて獣の背後に回り込む。
できると思って無我夢中で回避して背後に回り込んだが、常人の速さと動きではないことに本人は気付いていない。
背後に回り込んでからすぐに剣をイメージする。
次こそは斬れるように、『斬れる』と思えるようにイメージを固めていった。
「あいつを両断できるほどの巨大な剣、斬れる、斬れる、斬れる、…これなら、斬れる!!!」
先ほどより更に巨大になった剣を獣に振り下ろす。
獣は同じように両腕で受け止めようとするが、剣は失速することなく獣を両断した。
「よし!斬れた!」
両断された巨大な体は大きな音を立てて倒れた。
(やっぱり夢の中なんだなぁ。不安なこととか考えるとそれが実現しちゃうし、できると思えば何だってできるもんな)
現実では到底不可能である巨大な獣を討伐して、ここが夢の中であると実感する。
巨大な剣は消えるように念じたらしっかり消えていた。
周囲を見回し危険がないことを確認して、襲われていた少年の下に向かった。
「おーい、大丈夫かー。」
少年はまだ立ち上がれないようであった。
見た目は黒髪の日本人、服装も特に気になる感じではない。
(こんな夢だからか、てっきりRPGに出て来そうな服装かと思ったけど、割と変わらない感じかな?)
1人で色々と考えている間に、少年は何とか立てるようになっていた。
「あ、ありがとうございました!」
少年は勢いよく頭を下げた。
「間に合ってよかったよ。」
少年の様子から、とりあえず大丈夫そうだなと安心した。
「マナ拾いをしにこの森にはよく来るのに、熊が出て、しかも運悪く憑神になるなんて…」
少年は先ほどの事を思い出して震えていた。
「でもあなたのような強い討伐師の方が駆けつけてくれて助かりました。」
(熊、だったんだアレ…めっちゃデカかったけど。あと、なに?『つきがみ』?『とうばつし』?)
「つきがみって?」
今まで聞いたことの無い言葉だったので何も考えずに尋ねた。
「え?」
「ん?」
静寂が生まれる。
「さっきのは、憑神になった熊だったじゃないですか。ほら、マナの結晶が…」
少年は憑神と呼ばれた熊が倒れた方を指差した。
少年が指を指した方を見てみると、そこには熊の両断された体ではなく、拳より大きな透明な石の塊が落ちていた。
(斬った熊の体が石?水晶?になってる…。ファンタジーだなぁ…。)
……
「アレ?」
気が付くと自宅の部屋で目覚めていた。
(あー、これで終わりかぁー。でも続きは見れたなぁ。)
ある程度満足したのかベッドから起き上がりスマホを見る。
「おい!!時間やばいじゃねぇか!寝坊した!」
いつもよりかなり遅れて目が覚めたせいで大学に遅刻しかけた。
ギリギリで間に合ったのを友人に揶揄われたが、最初の講義に問題なく間に合った。
その日の講義を終え、帰宅の電車の中で夢のことを考える。
(そーいえば、今回の夢って覚めても覚えているタイプだったんだなぁ。不思議な感じの夢だったなぁ。)
家に帰りいつも通りに過ごし、課題を済ませて、ゲームして、明日も大学なので眠りにつく。
(あー、明日の講義めんどくさいやつなんだよなー。現場で絶対役に立たないやつだし…。いやだなぁ…)
そんな事を考えながら眠りについた。
…
「あの、聞いてますか?」
「へ?」
視界に映るのは森、拳より大きい透明な石、そして夢の中で見た少年であった。




