異形の憑神
岩石猪の討伐は完了した。
周囲に危険が無くなったと確認すると、3人は地面に腰を下ろす。
岩石猪はマナの結晶と岩ではなく鉱石の素材に変わっていく。
巨体の割にマナの結晶は炎魔より小さいようだ。
回避を1回でも失敗したら致命傷になる戦いだった為、3人心身ともに消耗していた。
ユウは炎魔のようになっていた状態から元に戻っていた。
髪の毛も元の長さに戻っている。
(炎魔になりきるようにイメージして攻撃力と機動力を高める事ができた…。これなら次はもっと簡単に扱えそうだ)
ユウは立ち上がって岩石猪の素材を見にいく。鉱石が数個落ちている。
「何の鉱石なんだろう?」
ユウが鉱石を1つ拾って観察する。
張り付いていた岩のようにゴツゴツしているというより、少しツルツルした見た目になっている。色は茶色で大きさの割に重かった。
「マナを高濃度に含んだ貴重な鉱石だね。これで作った魔道具は魔法の効率がかなり上がると言われているよ」
ザンダも鉱石を拾って観察している。
(そういうことならザンダの武器にくっつけちゃえば良いんじゃないか?岩の魔法も使えるようになったりしてな)
ユウはザンダにマナクラフトを使って剣を強化してみるか確認する。
「是非頼むよ」
ザンダは自分の剣をユウに渡す。
(ザンダの剣は刀身の幅が広いブロードソードというやつだよね?)
ザンダの剣をどのように強化するか、実は既に決めていた。
下手に剣の形や大きさを変えると使いにくくなる可能性があり危険だった。
純粋に強度を高めるか魔法を使いやすくするようなイメージがあった。
(刀身の色は鉱石の色を混ぜたいな。炎と障壁の魔法だけじゃなく、岩の魔法も使えると良いな。ザンダが魔法を使うところをイメージして、この剣がザンダの魔法の効率を良くしてるように…)
ザンダの使用する魔法を補助するような剣のイメージを固めると、剣と鉱石が融合する。
刀身が赤銅色になったブロードソードは少し幅が広くなったようだ。
柄の先端も鉱石で強化されたのか赤銅色になっている。
ユウは完成した剣をザンダに返す。
「炎と鉱石の頑強さをイメージした色にしたよ。炎と障壁の魔法が使いやすくなってると思う。…たぶん」
ザンダの魔法を補助するような機構の具体的な内容はわからないが、イメージ通りに作る事が出来ていれば魔法が使いやすくなっているはずであった。
「あと、もしかしたらさっきの岩の魔法とかも使えるかもしれない。…たぶん」
岩石猪の岩の魔法も使えるようにイメージして作ったが、ザンダの岩魔法を見た事がなかった。
「これは…」
ザンダが集中して剣を構える。守りの障壁、炎を纏う剣を順番に発動する。
共に問題なく、今までより素早く魔法が発動した。
魔法に使う集中力が軽減しているので、魔法を使った戦闘を長く続けられそうだ。
ザンダは岩の魔法を使った事がなかったが、剣を握っていると何となく使えそうな気がしていた。
剣を地面に突き刺して先程の猪が使った岩の棘を思い出す。自分が串刺しにされそうになったので鮮明に覚えている。
剣を突き刺した場所から一直線に岩の棘が突き出す。
「出来た…」
「おお!うまくいった!」
威力は下がっているが先程の岩石猪の岩の棘を再現する事に成功した。
ユウのイメージした通りに炎と障壁の魔法は効率よく素早く発動するようなっていた。
岩の魔法も問題なく再現できているため、ザンダのできる事は増えたようだ。
「岩の棘だけじゃなくて、他にも色々できるかもしれない。これはすごい剣だよ!ありがとう、ユウ!」
岩石猪を討伐し、ザンダの強化も完了した3人は報告をするために役所に向かう事にした。
坂を下りて町を見渡せる崖まで来た所で異変に気付く。
海の方が赤く光っている。
岩石猪だけではなく、海岸の方から強大な敵が来ている事を知った3人は走って海岸へ向かうのであった。
sideシエナ
シエナ達海軍は海から現れた半魚人のような魔獣『海鬼』の討伐と空から現れた異形の存在と交戦していた。
海鬼は既に交戦していた海軍によって制圧しつつあったが、空から新たに現れた異形に翻弄されていた。
人間のようであるが、背中に風切りのような羽、手足の鉤爪、体の露出している部分は何かの鱗のようなもので覆われている。
見た事ない化け物であったが、シエナ達海軍は憑神である事を確信していた。
「そんな弾当たらねぇぞ!」
海軍の隊員達が銃剣の魔道具、魔銃剣から弾丸を放つ。宙にいる異形の憑神は全て難なく回避している。
空を飛ぶスピードが速すぎて捉えきれないようだ。
異形の憑神は、時折急降下して隊員を鉤爪で掴んで上空に舞い上がる。ある程度の高さまで上昇すると、そのまま上空で手放し地面に落とす。
地面に叩きつけられた隊員達は魔法で受け身を取るが、ダメージが大きく再起不能に陥っていた。
さらち異形の憑神は上空から風の刃を放って隊員達の陣形を崩す。
「ははははは!上手く避けねぇと体が千切れちまうぞ!」
遊んでいるように隊員達を攻撃していく。隊員達は回避に専念しているため攻撃できていない。
「調子に乗るなよ」
異形の憑神にシエナの魔銃剣から放たれた特製の弾丸が直撃する。魔法を付与できる弾丸は命中した瞬間から対象を凍らせていく。
「がぁぁぁ!」
異形は全身から四方八方に風の刃を撒き散らし抵抗する。
体の表面の氷を剥がしてシエナを睨みつける。
「1人できる奴がいるみたいだな。楽しくなってきたぜ!なあ、おい!」
異形は急降下してシエナに掴みかかる。
シエナは魔銃剣から水の刃を出して鉤爪を防ぐ。
魔銃剣を振り抜いて異形の憑神を引き剥がす。間髪入れずに魔銃剣で発砲して追撃する。
異形の憑神は左右に飛んで回避する。シエナの狙撃の正確さとスピードにたまらず上昇して距離を取る。
「クソが!!!潰す!!」
異形の憑神の体が岩に包まれる。鱗だと思っていたものは岩でできたものだったようだ。
目の部分は穴が空いているが、他の部分は岩で覆われる。
その状態で異形の憑神が急降下して突っ込んでくる。シエナや他の隊員の銃弾が当たるが岩の鎧に弾かれて勢いが止まらない。
「副長!!!!」
シエナに突っ込んでくる岩の塊と化した異形の憑神の勢いが止まらなかった。
シエナに直撃してしまったと思って叫び声を上げた隊員達が見たものは、赤黒い狼が異形の憑神を弾き飛ばしている光景だった。




