脅威は迫る
炎魔の一撃を受け、異形の憑神の軌道が逸れる。
岩の塊と化した異形の憑神はシエナを素通りし、後ろの誰もいない砂浜に着弾する。
あまりの衝撃に砂浜の一部が抉れて吹き飛ぶ。シエナに直撃していたらひとたまりもなかったであろう。
「副長!無事ですか!」
シエナの所へ部下が駆け寄ってくる。
「ああ、なんとかな。それよりも今の赤い魔獣のようなやつは…」
シエナは周囲を確認するが、横から乱入してきた赤黒い魔獣のようなものが見当たらない。
「加勢します!状況は!」
ザンダとショウがシエナ達海軍の所へ走って合流した。
「すまない。助かる!」
シエナは現在の状況を説明する。
「海からの魔獣は殲滅完了。正体不明の憑神と交戦中。空を飛び、体に岩を纏って突っ込んでくる。遠距離からは風の刃で攻撃をしてくる。足に掴まれると上空から叩き落とされるから捕まらないように注意してくれ!」
憑神の情報を聞いたザンダとショウは、憑神が着弾した所を向き武器を構えて警戒した。
「なんだぁ、今のは?」
砂煙が晴れてくると岩がボロボロと剥がれ落ちる憑神と、その目の前に赤黒い髪になったユウがいた。
「お前の仕業か?」
異形の憑神はユウを見て何かに気付いたようだ。
口元がニヤリと歪む。
「そうか、お前が…。探す手間が省けたな」
異形の憑神はそう言うと、剥がれ落ちた岩が再び鎧のように生成されていく。
間髪入れずにユウを掴もうと飛びついてくる。
風の魔法でも使っているのか、ユウに肉薄するほど距離を詰めている。
「っ!」
ユウが炎魔の高速移動で躱す。憑神の側面を抜けながら炎魔の爪で側面の岩を砕く。通り抜けてすぐに反転し憑神を警戒する。
躱されると思っていなかった異形の憑神はユウの反撃に受けて動きが止まっていた。
(危ねぇ!かすった!)
岩の爪が頬をかすめたのか、ユウの頬から血が流れている。
(何の挙動もなく急に目の前まで距離を詰めやがった…。反応がもう少し遅れてたら首あたりを鷲掴みにされてるぞ)
異形の憑神はゆっくりとユウの方を振り向く。
「まさか躱されるとはな。そして、通り抜けざまに一撃まで加えるその胆力…。面白い。お前、面白いな。この力を存分に使っても問題なさそうだ…」
異形の憑神はそう言うと禍々しく口角をあげて笑った。
ユウは嫌な気配を感じて身構える。
「冗談じゃない。俺はお前のおもちゃになる気はない!」
瞬間、1発の弾丸が異形の憑神の足下に命中した。憑神の足は氷に包まれて身動きを封じられた。
シエナが魔銃剣による魔法弾を撃ち込んだようだ。
ザンダが剣を地面に突き立てる。生じた岩の棘が憑神に直撃して岩の鎧を剥がす。
「ユウさん!憑神から出来るだけ離れて!」
ショウがユウに駆け寄り2人で憑神から全力で離れていく。
「ショウ!あんな氷じゃすぐに動き出すぞ!」
ザンダの岩の棘の衝撃で一瞬怯んだかのように見えたが、またすぐに動き出すことをユウは確信していた。
あの異形の憑神は尋常ではない。
「良いんです!シエナさんが、巻き添えを喰らいたくなければ離れろって言ってました!」
「シエナさんが?それってどういう…」
「来るぞ!!もっと離れろ!!」
シエナが叫んですぐ、空気を震わせる轟音が響いた。
元々音が反響しやすい地形であったため、音だけで心臓にまで響くと感じるほどであった。
発射音とほぼ同時に憑神のいた所に着弾し、土煙が立っていてよく見えない。
地面もかなり吹き飛んでしまっているようだ。
「直撃しました!」
シエナの部下が現況を報告する。
「よし、土煙が消えるまで警戒を怠るな!」
シエナは部下に命じ、土煙に向かって総員が銃口を向けていた。
「ッ〜!!耳が痛ぇ!!何しやがったアイツら!」
音の注意は受けていなかったユウは、まともに発射音と着弾の音を聞いてしまい耳にダメージを負っていた。
「すいません。耳を塞ぐように言われたのを伝え忘れてました…。シエナさん達の戦艦から主砲を撃ったんです」
耳を何とか治して海上の戦艦を見ると、巨大な主砲がこちらを向いて煙を上げていた。
「あんなもん町に向けて撃ったのかよ…!」
着弾したところを見るに、人に当たったらひとたまりもないだろう。
「憑神をその場で足止めできたら砲撃するって戦艦に残っている艦長から連絡があって…」
よほど狙撃に自信があるのか、作戦はすぐに実行されて見事命中したのであった。
土煙が少しずつ晴れていく。着弾の結果を確認しようと全員が見ていた銃口が向けられた先から、突然暴風が吹き視界を塞ぐ。
土煙の中心から上空に飛び出た影を追って全員が空を見上げる。
そこには腹部の右半分がえぐれて風穴があいているが、まだ息のある憑神がいた。
羽もボロボロだがまだ飛べるようだ。
「油断したぞ…まさか主砲を撃ってくるとは思わなかったわ。まだまだ戦い足りないが、流石に今回は退かせてもらおう。だが、この借りは必ず返させてもらうぞ!」
憑神は何かを取り出して左手で握り潰す。
青く眩しい光が憑神を包み込み、光が収まった時には憑神の姿は消えてしまっていた。
(今の光は何だ?まさか…どこかに転移したのか?)
ユウは周囲を警戒して見渡す。脅威は完全に去ったようだ。
シエナが隊員達に指示を出しているようだ。隊員達が周囲へ散っていく。
「先程の援護、感謝する」
シエナがユウとショウのいる所に来て感謝を伝える。
「こちらこそ助かりました。でも、逃げられてしまいましたね…」
ユウは憑神が消えた空を見上げる。どこに転移したかもわからない憑神を追う事は不可能であった。
「いや、それは問題ない。早速ですまないが情報を共有してもらえないだろうか」
ユウ達は対処した憑神についてシエナに共有するのだった。
side ???
「まさかこれほどの傷を負うとはな…」
暗い地下室に転移した異形の憑神は自分の抉られた腹部を見ながら呟いた。
出血は治っているが傷は塞がっていないようだ。
「お疲れ様、リュウ。あの主砲を受けてその程度で済んでいるのだから十分成果はあったよ」
異形の憑神、リュウを地下室で待っていた男は満足気だ。
「まだ未完成の状態で期待した以上の力だ。仕上げをするのが楽しみだね」
男は嬉しそうに話しながらリュウに歩み寄っていく。
「すいません。あの憑神を捕獲できれば良かったのですが…」
リュウは男に自分の失態を謝罪する。
「いやいや、捕獲出来なくても問題ないよ。それがわかった事も今回の収穫だったね」
男の言葉にリュウは安堵する。
「君の待ち望んだ仕上げまであと少しだ。探し物も見つかった今、やつらが餌に食い付くのを待つだけさ」
男は地下室に置かれた赤い玉を見ながら口角を上げる。
リュウは男に跪いた。
「私に更なる力をお与え下さい。シロセ様」




