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夢現〜眠りの鏡界  作者: ヴィトー・シームルグ


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憑神:岩石猪

岩石猪(がんせきじし)の突進を3人は横に飛んで回避する。完全に見つかっていたわけではなかった事と距離があったおかげで何とかなったが、次は簡単には回避できないであろう。

岩石猪が通過したところは見晴らしが良くなってしまった。岩石猪は突進の勢いを緩める事なく崖の岩壁に激突する。

崖が崩れるがものともせず頭を引き抜く。


「あんなの喰らったらひとたまりもないぞ!」


岩の鎧の棘が壁に幾つかの穴を開けてしまっている。


「何とか岩の隙間を狙って攻撃してみる!2人は突進に注意してくれ!」


ユウは炎魔の力で岩石猪の側面まで一気に距離を詰めた。

炎魔の腕に力を込めて思いっきり腹部を切り裂いた。


「っ!かったいな!」


岩の部分は少し砕けた程度だが、岩の隙間をうまく攻撃できたようだ。

岩石猪の皮膚が焼き切れているが致命傷ではない。


岩石猪は痛みに反応してその場で暴れてユウを蹴り飛ばそうとする。

ユウは少し距離を置いて常に側面に回り込むように走る。


「何とかユウさんの攻撃は通るみたいですね!」


ショウは突進に警戒しながら岩石猪の様子を見る。


「少しずつ弱らせていくしかない。こちらも岩の隙間を狙って攻撃を…いや、待て。さっきの傷はどこだ?」


ザンダはユウが先ほどつけた傷が見えなくなった事に気がついた。

腹部につけた傷は岩に覆われて見えなくなっている。


「こいつ…!傷を岩で隠したのか!?」


自分のつけた傷が岩で見えなくなってしまったが、それなら何故最初から岩で体全体を覆っていなかったのかと疑問に思った。

その答えはすぐに分かった。

傷があった部分の岩が崩れたが、傷は治ってしまっていた。


「…まずい。岩で治癒できるのか。少しずつ削るだけだと倒せない。一気に致命傷を与えないと」


ザンダとショウの攻撃でも岩ではなく生身だったら致命傷を与える事が可能だろう。

しかし、岩の隙間を狙って渾身の力を振るうのは危険すぎる。

そう考えていると岩石猪の岩の鎧から棘が崩れ落ちる。

嫌な予感がしてザンダは障壁を咄嗟に張る。

地面から岩の棘が突き出して障壁に突き刺さる。

障壁を貫通するが速度が落ちたのでザンダは刺される前に回避する。腕に切り傷が出来ている。


「ザンダさん!」


ショウの所には棘が伸びてこなかったので怪我はないようだ。

ザンダは自分の腰につけている鞄から傷薬を出して腕につける。簡易的な止血と痛み止めだ。


「問題ない!それより2人とも見たか!アイツが操れる岩の量は限界があるみたいだ!」


ザンダ達に向かって伸びた岩の棘が崩れ落ちたと同時に岩石猪の体の岩から棘が生えた。

どうやら今纏っている岩の量が操れる限界の量のようだ。


(それなら、カウンターを狙うのか?いや、岩の生成速度が速すぎる。それにカウンターを狙えるほど簡単な攻撃じゃない。とか考えてる場合でもない!)


全身の岩の棘が崩れ落ち、今度はユウとショウに目掛けて岩の棘が伸びる。

ユウは咄嗟に氷の壁を出して棘の速度を落としつつ、炎魔のスピードで走り回り回避する。氷の壁から突き抜けた岩の棘がショウに向かって伸びていく。ショウは横に飛んで回避するが宙にいる状態で更に別の棘が氷の壁を貫通して伸びてくる。


「「ショウ!」」


「大丈夫です!」


ショウは上空に回避していた。

ユウとザンダとの訓練で身につけた、風の魔法を使った空中移動だ。

魔道具として利用可能な短剣の鞘は風切りの羽を使って製作しているので空を飛べるのではないか、というユウの思いつきから生まれた技であった。直線的な移動だったらできたので実戦で使えるように訓練していた事が幸いした。


ショウは上空から風の刃を岩石猪の目に向かって放つが、少し顔の角度を変えられて岩の鎧に防がれる。岩には少し切れ目が入るがすぐに塞がる。


今度は地面にいるザンダに目掛けて岩石猪が突進する。ザンダは横に回避しようとするが、さっきと違って完全に狙われているので追尾してくる。

ザンダの体に岩の棘を引っ掛けながら一気に通り抜けていく。


「今までの障壁なら致命傷だったが、これなら大丈夫そうだ!」


ザンダの体に怪我はない。

ザンダも自分の限界を超えて障壁を強化していた。

障壁は自分から範囲を広げれば広げるほど薄くなって強度が弱くなる。

今はショウも上空にいるため自分に障壁を張るだけで良いため、自分の体のサイズとほぼ同等の最小限の範囲で障壁を張っていた。この状態であれば障壁の強度はかなりのものであり、突進も直撃を受けなければ問題ないであろう。

障壁を自分に張りながら身動きできるように鍛錬を続けて、ザンダは自分の可能性を広げたのだった。



まだ何とか岩石猪の攻撃を凌げているが、いつまでも今の状態を維持するには集中力がもちそうになかった。

このままでは決め手がなく、こちらが消耗していくだけで勝ち目ない状態であった。

集中力が切れて魔法が使えなくなった時、一撃で致命傷を受けてしまうであろう。

何か手はないか、ユウはドラゴンと何回か話に行った時の事をふと思い出す。





「炎魔という憑神化した魔獣を吸収してしまってから向こうの世界の体にも影響がでている?」


ユウはドラゴンにこちらの世界で傷を残した状態で向こうの世界に戻ると傷痕が現れる事、髪の一部が炎魔の体毛の色になってしまった事を相談していた。

ドラゴンはユウを見つめる。何かを調べてくれているようだ。


「ふむ、お前の魂はこちらの世界にかなり強く定着してしまっているようだ。向こうの世界に影響が出るほどの威力、つまり少し魂にも影響がある攻撃を受けたようだな」


炎魔の攻撃は普通の威力ではなかったようだ。魂まで影響があるという言葉が恐ろしい。

魂に影響があると向こうの自分の体にも影響があるということのようだ。


「お前の炎魔とかいう憑神化した魔獣は、どうやらお前の魂と同化して形はとうに失われておるぞ。炎魔の腕が使えるのは、腕が同化したことが当然の理由だが、最早お前の思い込みだけで再現しているに過ぎないな。腕を再現できると思うから出来ている、ということだな」





ドラゴンはヒントを与えるようにユウに話していたのだった。


(俺の思い込み…だったら)


ユウは自分の中の炎魔をイメージする。

岩石猪の腹部に炎魔の爪で斬撃を加えて注意を自分に向けさせる。


「ザンダ!ショウ!俺が岩を剥がし続けて怯ませてみせる!岩が無くなった所を狙ってくれ!」


ザンダとショウはユウが何をするか分からなかったが、ここまでの日々で3人の信頼は強固なものとなっていた。

ユウの事を信じて攻撃の機会を待つ。


(炎魔…。俺の思い込み…。それなら、出てこい!炎魔ぁぁぁー!)


感情を爆発させる。


ユウの右手が炎魔の右手になっていく。左手も、右足も、左足も。

目が赤くなり、髪の毛が伸びて赤黒くなっていく。


ユウの変化した姿を見て岩石猪は気圧される。次の瞬間、ユウは岩石猪の視界から消える。

岩石猪の牙と右の顔面にある岩が削り剥がされる。

地面を焦がしてユウが岩石猪の横を爪で削りながら駆け抜けていた。

岩石猪は岩の鎧を生成しながら後ろを振り向くがユウはもういない。

すでに折り返して左側の岩肌が剥がされている。岩肌が削り剥がされるのと同時に岩石猪の体は傷ついていった。


(まだだ!止まるな!コイツの鎧を全て剥がしてやる!)


赤黒い炎が目にも止まらぬ速さで岩石猪の周囲を駆け巡る。

岩石猪は皮膚を焼かれながら岩の鎧を剥がされ続けて回復も岩の生成も間に合わない。

岩が殆ど無くなるほど削られ、岩石猪が苦し紛れに自分の周囲に岩の棘を出現させて棘の壁を作る。

次の瞬間には岩の棘は砕け散り、岩石猪の目の前には赤黒い狼の化身がいた。


ユウは岩石猪の無防備な顔面に炎魔の爪で斬撃を加える。

左右の手から放たれる炎熱を帯びた赤黒い爪は、岩石猪の顔面を十字に切り裂いた。

顔面に重いダメージを受けた岩石猪が怯む。


「今だ!」


「はい!」


ザンダの合図でショウが特大の風の刃を放つ。

集中に時間をかけた特大の刃は岩石猪の首に深傷を負わせる。


ショウが風の刃を放つと同時に走り出していたザンダは砕けた岩の棘を飛び越え、ショウがつけた傷に炎を纏った剣を突き刺す。


「はぁ!!」


ザンダは突き刺した剣に渾身の力を加えて首を更に切り裂く。


岩石猪は怒り狂ってザンダの方を向こうとするが、炎を纏ったユウの赤黒い爪が首の傷に追撃を加えて駆け抜ける。

首を深く焼き切られた岩石猪はその場で倒れ、その巨体が動く事はもうなかった。

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