挟撃
ショウはユウとザンダの所へやってきてシエナから受けた話の相談をする。
「いい話ではあるとは思う。軍は強いから安全はある程度保証される、だけど…」
ザンダは安全に関しては問題ない話だというが、ユウの方を見る。ユウも同じ事を考えていると思ったのだろう。
「自由が無くなるのは辛いと思う。しかも問題が片付かないと解放されないなんて期限がないようなもんだ。軍がある程度相手の目星をつけていて、すぐに解決するかどうか分からないからな」
ユウはザンダ言葉に続けて言う。ザンダも同意見だったので頷く。
話を決めるにしても教えてくれるかわからないが、軍に詳しい事をもっと聞いてから考えることになった。
3人は当初の予定通り巡回と訓練に向かうのであった。
巡回は魔獣が入ってきそうなルートを順番に回って確認していく。
何箇所か回って特に問題はなく、次は神社の方へ行く。
3人は最近、この神社に寄ってお参りをしていく事が日課になっていた。
今日もお参りをして境内から出ようとしたとき、白髪の神装束を着た老人が話しかけてきた。
「いつもありがとうございます」
優しげな老人は、以前ユウにドラゴンに続くおみくじを勧めてくれた霊的な何かであろうとユウは考えていた。
今回も何かユウ達に伝えたいようだ。
「今日はいつもより山が騒がしいので、行かれる際にはお気をつけなされ」
老人はそう言うと境内の奥へ去っていった。
「…2人とも、きっと何かが起こる。気を引き締めていこう」
ユウは老人の話を聞いて警戒レベルを上げた。ドラゴンの件からも老人の話は信頼できるものであった。
「あの方、知り合いなんですか?」
ショウは不思議そうに尋ねてくる。
「ドラゴンに辿り着いたのはあの人のおかげさ。きっとこの神社の霊的な何かなんだろう」
ユウは不思議な老人の事を2人に教えた。
「神聖な場所には超常的な存在が現れる事があるというからね…。ユウが以前もお世話になっているようなら、きっと良い存在なんだと思う。言われた通り、警戒していこう」
ザンダも老人の忠告を素直に受け入れることに賛成であった。
2人の言葉を聞き、ショウも気を引き締めて警戒していく。
神社の裏の坂を上っていく。牙野猪は出てこない。
山は静かであったが、それが不気味であった。
もう少し上って行くと、急に空が赤くなる。
センサー赤。
3人の近くのセンサーが高濃度のマナを検知して空が真っ赤に光った。
センサーの反応した場所に3人は急行する。
センサーの反応した場所に着くと、1頭の牙野猪がいた。
しかし体は巨大で羽を広げた風切りくらいある。
問題は巨体だけではなく、体にまとわりつくように尖った岩が生えているのだ。
全身所々岩に包まれている体は、重装歩兵か戦車のようであった。
「なんだアレ。岩が防具みたいに纏わりついてて、首とか体を守ってるぞ」
「それにあの岩、凄く尖っていて鋭利ですよ。突進なんてやられたら体が穴だらけになっちゃいますよ」
あの頭の岩は絶対に喰らってはいけないようだ。巨体を使った突進もあって、まともに当たったら再起不能であろう。
「あの個体、どう見ても憑神だろう。あんな牙野猪見たことない…。岩石猪といったところか。どう討伐するか…」
岩で体が包まれているせいで、攻撃が通りそうな場所はかなり少なそうに見える。
上手いこと岩の隙間を狙うしかないのか悩んでいると、憑神は咆哮をあげる。
3人はあまりにも大きな咆哮に耳を塞ぐ。
咆哮が収まり顔を上げる。
岩により強化された巨体が、こちらに物凄いスピードで迫ってきていた。
3人が岩石猪と戦闘開始する頃、海の方からもセンサーの反応があり空が赤くなっている。
「山の次は海からもか!」
山に向けて部隊を編成しようとしていたシエナは海の方を見る。
港にはシエナ達の軍艦が停泊していた。
シエナの部下から伝令が来る。
「副長!海から多数の魔獣が襲来!町に向かってきています!」
海岸に大量の魔獣が押し寄せてきて町に侵入してこようとしているようだ。
シエナ達は海軍であり、海の魔獣との戦闘の経験が豊富であった。
山のセンサーも赤くなっているが海の方が町に近いため、すぐに対処しなければ魔獣の侵入を許してしまうだろう。
艦に残っていた部隊は艦長の指示で魔獣の討伐を開始していた。
「まずは海の魔獣から制圧する!海の方が片付いたら次は山の方へ向かう!厳しい連戦になると予想される。皆、気を引き締めて対処するぞ!」
シエナは役所に来ていた部隊に号令をかけて海岸へ向かっていった。
役所はシェルターの準備と、緊急の結界をシェルター周辺に展開する。
すぐに住民に向けて避難を呼びかける放送をして、シェルターに誘導するのであった。
「さて、お手並み拝見というところかな」
町を一望できる崖から、センサーが赤くなっている所を見ている者がいた。
「捕獲できるか…。いや、捕獲出来なくても排除はしておきたいが」
何かを考えながら山と海の赤く光っている方を見る。
「試作品の最終テスト開始だ…!」
海からは半魚人に亀の甲羅がついたような魔獣が大量に押し寄せてきていた。
海軍の装備である魔道銃剣による攻撃で数がみるみる減っていく。
海岸の制圧もすぐに終わるかと思われた時、海岸で応戦していた部隊が衝撃波で吹き飛ぶ。
上空から何者かが攻撃を加えたようだ。
海岸に後少しで到着するところであったシエナ達は空から攻撃してきた敵を見る。
大きな翼をつけた人の姿をした何かが空を飛んでいた。
手足はかぎ爪がついており、体は鱗のような物で覆われて鎧のようになっている。
「アイツも…奴等の作り出した憑神だというのか…!総員、戦闘準備!目標、海岸の魔獣と憑神!いくぞ!」
空に浮かぶ異形をみながら、シエナの部隊は海岸の戦闘に加勢するのであった。
「いい感じだ…!素晴らしい力だ、この力で海軍など捻り潰してくれる!」
空に浮かびながら、自分の手にした力に溺れる人語を話す何か。
海のセンサーを赤く染めた元凶は、海岸にて抵抗している海軍に向けて急降下していく。
ユウ達が戦う山と、シエナが所属する海軍が戦う海。
熱海はかつてない危機に見舞われていた。




