眠りの停滞 蠢く影
温泉に入るドラゴンは楽しそうで、穏やかだった。
町を破壊したりするようには見えない。
だからユウは聞いてみたくなった。
「昔、人間と敵対していたのか?」
この世界の歴史書に書いてあることは本当なのか気になった。
「我らに攻撃してきたのでな。応えてやっただけよ。少しやり過ぎて本拠地近くの海岸線を抉ってしまったがな!」
ドラゴンは当然のように答えた。
やっぱり東京あたりの地形が少し違うのはドラゴンの仕業だったのかと、昔見たこの世界の地図を思い出す。
「どこでも同じような反応だったらしくてな、この世界に来た我らは攻撃してくるもの全てを薙ぎ払った。今となっては攻撃してくることはないようだがな」
文明を滅ぼされかけたことを知るものはドラゴンを恐れ手出しをしなかった。
今となっては御伽話の中の空想の生物として考えられているのであった。
「何もされなければ我らも手出しは禁じられているのでな」
ドラゴンはこちらから何もしなければ良き隣人として付き合えるのかもしれない。
ふと、以前見た白昼夢のような映像を思い出した。
燃えている町と空飛ぶドラゴン、あれは何だったのか。
「この世界に何回目か来た時、不思議な映像を見たんだ。偉そうな誰かが何かを完成させている場面、何かに手を伸ばして倒れている誰か、燃える町と空飛ぶドラゴン。まるで現実に起きたような感覚だった」
ユウの話を聞きながらドラゴンは少し考えた。
「…予知夢のようなものでも見たのだろう。憑神の力は自由自在なのでな。そう気にするものでもあるまい」
予知夢のようなものと言われたが、ユウにはどうもしっくりこなかった。
夢のような曖昧なものでは無く、もっとはっきりとした印象を受けた。
「今のところ我らの出る幕は無い。安心するがいい」
ドラゴンと別れ宿屋に帰る。
北の方角に憑神が集中しているところがある。場所までは教えてくれなかったが、新しい手がかりだった。
自分は憑神で、この世界も現実。今の状態を解除できる方法を探す。
突然の話でまだ実感が湧かない。
宿屋で布団に入り眠りにつくまでドラゴンの話を考え続けるのであった。
「…朝か」
ユウは自分の世界の自分の部屋で目を覚ます。
夢だと思っていた世界で、どちらも現実だと言われたがまだ信じられないでいた。
「何かの設定だろ…。この世界からマナを送っている?」
しかし、炎魔の傷や髪の色のこともある。ただの夢ということにするには無理があった。
「あ!炎魔の事聞いとけばよかった…」
何故こちらの体に影響が出ているか、ドラゴンに聞いたら教えてくれるだろうか。
またドラゴンの所へ聞きにいくか迷うユウなのであった。
いつもの日常を過ごし、眠りについて異世界に行く事を数日繰り返す。
ザンダに北について話を聞いた所、乗り合いの大型車を乗り継いでもかなりの期間がかかる事と、特に目立った事件も報告されていない事、場所が絞れていない等の理由で北に行く提案はできずにいた。
ドラゴンに会ったことは2人にも話したが、入り口の階段は3人で行くと何故か無くなっていてドラゴンには会えなかった。
数日の間、ユウ達は熱海に滞在することになった。
ノットリの事件も無いので狙われる危険は少ないと判断したのだ。
体を適度に休める事と、いつもより頻繁に現れる魔獣の討伐、ショウの訓練も兼ねての滞在であった。
ユウは夜になるとドラゴンの所へ行き、親交を深めた。
自分の世界の話をしたり、ドラゴンの昔の人間の友の話をした。時には酒や肴を持ってきて酒盛りをすることもあった。
その間、ユウの世界では悪夢を見る人が増えていた。
突然悪夢を見なくなる人もいて、そこまで大きな問題になっていないが、少しずつ増えていっていた。
ある日、変わらず同じ宿屋で目覚め、ザンダとショウと共に訓練と巡回に行こうとした時、宿屋に3人ほど見知らぬ者たちが入ってきた。
「ここにショウという子供が宿泊していると聞いている。面会したいのだが可能か聞いてもらえないだろうか」
先頭の背の高い銀髪ショートカットの女性が受付にて話している。
「あれは国軍だね。ショウに何の用だろう」
ザンダ曰くあの3人の服装は国軍のものらしい。
ユウが以前見た軍服の集団とは違い、服の上にレザーアーマーのような何らかの皮の素材で加工してある装備を付けていた。
ショウは受付の軍の者達に声をかける。
「僕がショウですが、どのようなご用件でしょうか」
女性を副長と呼んだ部下のような男が、女性に何かを耳打ちしている。ショウの情報と合致しているか伝えているのだろうか。
背の高い女性はショウを見つめると優しそうな顔で答えた。
「君がショウか。私は軍に所属しているシエナという者だ。今日は君の保護を打診しにきたのだが、今時間はいいか?」
「保護…ですか?」
ショウは軍の突然の申し出に困惑した。
「君は憑神化の被害者だと聞いている。力を扱う為の訓練は勿論、君を狙う者達から守る必要がある。そこで軍の施設で保護をするという話だ」
シエナはショウに丁寧に状況を説明していった。
軍の力がどれほどのものかわからないが、国がショウを守ってくれるというのであれば悪い話ではなかった。
「僕は、軍で保護されたらどのような生活になるのでしょうか」
ショウはシエナに実際にどういった生活になるか確認した。
ショウはユウとザンダの2人との訓練や生活が好きであった。2人と離れてしまうのであれば嫌であったが、話を聞くことにした。
「特に不自由なく暮らせると思っていい。衣食住は全て軍が面倒をみる。外出に関しては問題が片付くまでは施設内限定になってしまうという点は了承してもらいたい」
問題というのはノットリ関係であろう。裏で糸を引いている者達を捕まえるまでは安全を確保できないため外出はできない。それはつまり、外に出られるのはいつになるかはわからないということであった。
「…少し、考えさせてください。ユウさんと、ザンダさんと相談してから決めたいです」
ショウはユウとザンダを見ながらシエナに告げる。
シエナは鋭い目つきでこちらを見る。
ショウに目線を戻した時は優しい顔つきに戻り優しく話しかける。
「あの2人が君の保護をしているのか。…いいだろう。私達は役所に滞在しているからいつでも来るといい」
(え、こっわー。ショウと話している時と目つき違いすぎだろ。あ、こっち来るわこれ)
シエナがこちらに歩いて向かってくる。目つきの鋭さもあってかなり迫力がある。
「わかっているとは思うが、お前達は狙われている可能性が高い。判断は誤らないことだ」
シエナはユウとザンダにそういうと部下を連れて宿屋を出ていった。




