鏡界
目の前に桜の木が見える。横穴から下をみると小川が流れているようだ。たまに流れる風が心地いい。
ユウは洞窟にある天然の露天風呂に入っていた。
前を見れば桜と小川。光を発する水晶のようなものが周りに生えていてなぜか明るい。
横を見ればドラゴン。温泉に入って満足気だ。
「風流〜風流〜」
上機嫌そうに温泉に入っているドラゴン。なぜか大きさがユウくらいまで縮んでいる。
先程のドラゴンの言葉に困惑してしまったユウだったが、まぁそこの温泉にでも入って落ち着けとドラゴンに言われるがまま温泉に入っているのであった。
「この景色を観ながら入る温泉は格別でな!向こうに見える桜がまたいいのだ!たまに桜の花びらがこちらに入ってくる事があってな、それもまた良いのだ!」
温泉の事となるとやたら饒舌になるドラゴンが温泉ドラゴンと呼ばれたのは当然の結果であった。
この温泉は洞窟内の湖の水が流入して温度が調節されているようだ。
湯は温かく、空気は涼しく、ドラゴン以外は静かで、そして素晴らしい景色。
温泉ドラゴンが自慢するだけあるなとユウは温泉に浸かっていた。
「少しは落ち着いたようだな」
ドラゴンに言われた通り、温泉で気持ちが幾分か和らいだようだ。
ユウは温泉に入りながらドラゴンに質問していくことにした。
「俺が憑神って、俺は誰かに取り憑いているって意味なのか?」
緊張もなくなり、話し方がいつも通りになる。
「いや、違うな。誰にも取り憑いておらん。憑神そのものなのだ」
ユウにはまだよくわからなかった。その様子を察してドラゴンが付け足す。
「あの黒いモヤモヤしている憑神。あやつらと同じだ」
自分の体は黒いモヤモヤしたものではないと抗議しようとするが、ドラゴンの話は続く。
「お前達の世界とこの世界は鏡に映ったもの同士のような関係でな、こちらの世界にマナと一緒に引っ張られてしまうとたまに憑神として出現してしまうのだ」
マナと一緒に引っ張られてしまう。ユウはどうやら巻き込まれてしまっただけのようだ。
「憑神として夢の世界に来てしまったということか…」
ユウはまだ理解できていなかった。その事実をドラゴンが突きつけてくる。
「夢の世界?何を言っておるのだ!ここは現実だぞ。もちろんお前達の世界も現実だがな」
ドラゴンがユウの言葉に可笑しくなったのか笑いながら答える。
「でも眠るとこの世界にやってくるんだ!俺たちにとっては夢の中の世界さ」
自分は眠っていて、この世界はあくまでも夢。自分にとっては夢という認識だった。
「ふーむ…。まぁいいだろう。今お前達の世界でお前は確かに眠っている。しかし、この世界に魂が繋がってしまってこの世界にも存在しているのだ」
ドラゴンは世界の成り立ちを話し始めた。
最初に作られた世界があった。その世界ではマナの力で魔法を使う事ができた。
しかし、1つの世界で作られるマナだけでは十分なマナを確保できなかった。
次は世界が2つ作られた。鏡に映ったかのように似ている世界。
1の世界はマナの使用を禁じた。
2の世界はマナの使用を禁じなかった。
1の世界で作られたマナを2の世界に送り続けた。
「世界のマナは自分たちで賄うには量が足りないのだ。
そこで創造主は世界を2つ作った。1つはマナを作れるが消費できない世界。もう1つはマナを作れて消費もできる世界。お前達の世界はマナを使えぬが、魔獣の脅威は無く文明が発展しやすい。こちらの世界はマナを受け取り、魔法を問題なく使えるようになり、魔獣や我らドラゴンのような生物が生きる事のできる世界となった」
マナを消費できない世界から、マナをもう1つの世界に送り込んで補うという方法はうまくいったのだった。
マナを消費できない世界は、代わりに文明が発達してして、魔獣被害もなく人口が増えた。
マナを供給された世界は、魔法等の力を使える・動植物の成長が促進されるが、代わりに魔獣や憑神といったものの被害で人口は減り、文明の発展は遅くなった。
「マナは色々なものから生まれるが、人の強い感情や魂からも溢れて生まれている。マナをこちらの世界に送る時に魂も巻き込んでこちらの世界に引っ張ってこられてしまう事がある。それが憑神だ」
憑神はもう1つの世界から引っ張って来られた魂や意識そのものであった。偶然この世界に来る可能性が誰にでもあった。
「憑神はこちらの世界で自分の体が無いのでな、自分の形を保てず、マナを放出しきったら魂や意識は元の世界に帰る。その後続けてこちらの世界に引っ張られる事などないのだが…」
ドラゴンはユウを見る。
ユウは何回もこの世界に戻ってきてしまっていた。
何回かはタイムラグも無く戻ってきていた。
「最初にこちらの世界に来た時に何かされたのかもしれんな。自分の形を保てるほど意識が鮮明になり、何回も戻ってこれるようにしてしまう何かを」
心当たりがあるとしたら、それは時計塔であろう。時計塔に来た時点で何かをされていた、そうであれば辻褄は合う。
ノットリからは逃げ切ったのだから、あの場で目を覚ました時には既に手遅れだったのだ。
「この状態から解放されるにはどうすればいいんだ」
ドラゴンは明らかに人類より高位な存在に思えた。何か解決策を知らないか聞いてみた。
「簡単な事だ。その体が消滅すればいい」
それを試すには恐怖があった。炎魔の件がある。最悪、向こうの体に影響がでたら死ぬかもしれない。
「もしくは、その状態にした者を探し出して解除方法を聞き出すかだな」
解除方法を聞き出す。それしか方法はないようだ。
北の大地に憑神が不自然に集中しているところがあるのだ。そこに解除方法を知っている誰かがいるはずだ。問題はどうやっていくか…。
ユウは温泉に浸かりながら今後のことを考えるのだった。




