眠りの故郷
坂を下って町へ向かう。自然が現実より多い。
他の地域と同様に、魔獣の影響で現実より人口も少ないようであった。
更に下っていくと、遠くに海が見えてきた。崖のような地形から町並みが見える。
町の様子は現実と似通っているが、やはり高さの高い建物は多くない。
その反面、湯煙がたっている所は少なくなく、現実の同じ場所を知っているユウには違和感があった。
「すごいですね!あの湯気が全部温泉なんですね!?」
ショウは見た事がない光景に目を輝かせている。
「天気もいいし、いい景色だね。もう少し下っていけば宿もあるはずだから、まずは宿をみつけようか」
ザンダは何回か討伐師としてこの町に来た事があったが、久しぶりだった。
(この道を下っていくと、あるのかな…)
現実ではユウの父の友人が経営している旅館が近くにあるはずだった。
周りの建物は違うが、見知った坂を下りていく。
しばらくして、一軒の建物が見えてくる。
「あったよ…」
ユウの知っている建物とは違うが、同じ場所に宿屋が建っていた。名前も同じようだ。
「あ、宿屋みたいですよ!」
ショウも気づいたのか指を指して2人に知らせる。
「それじゃあ空き部屋があるか聞いてみようか。…ユウ?どうかしたかい?」
ユウは夢の世界で自分と関係のある建物を見て不思議な気持ちだった。その何とも言えない気持ちが表情に出ていたのか、ザンダが気付いて声をかける。
「いや…何でもない。宿屋にはいってみよう」
宿屋に入って受付で宿泊できるか確認すると3人で泊まれる部屋が空いていたので即決する。
部屋に案内してもらい、食事も注文する。朝早く山小屋を出て、今は昼過ぎだった。
海鮮が魅力的な食事を食べ終わってから、3人は今後の予定を決める。
「この町の魔獣対策課へ行って何か情報がないか聞いてみよう。無事に着いた事を報告しておきたい」
ザンダが言うにはこの町の役所にも対策課はあるようで、何か異変が無いか、ドラゴンについて情報が無いか聞き込みしてみようということらしい。ついでに問題なく熱海に着いた事を自分の町に報告しておくそうだ。
「この宿の受付の人とか、役所に向かうまでのお店の人とかにもドラゴンについて何か伝え聞いていないか聞いてみるのはどうかな」
孤児院の院長のように口伝で伝わっている話もあるかもしれないので住民にも聞いてみようとユウは提案した。
「ドラゴン、ですか?」
受付の男性に何でもいいからドラゴンについて何か伝え聞いていないか聞いてみる。
「悪い事をすると温泉ドラゴン様が怒るぞとか、温泉を止められるぞ、とか祖父によく言われたけど、そんなもんですかねぇ」
子供を躾ける時の文句として使われていたようだが、何となく内容が具体的だった。
(温泉止められるって何だよ。まぁ、温泉が売りの町だったら重大か。実際に現実の町とは状況がかなり違うし、本当にいそうなんだけどなぁドラゴン…)
宿屋から出て役所に向かう。
通りにある魚屋、豆腐屋等から同じように話を聞きながら向かうが、皆同じような話であった。
ドラゴンの話は今の世代では薄れてきているのかもしれない。
役所の場所は現実とはズレていて、間欠泉が近くにあるようだった。
何故間欠泉が近くにあるとわかったか、それは役所に向かう途中で温泉が吹き上がるのが見えるからだ。
「わぁ!あれは何ですか!?」
ショウは吹き上がる温泉を見て2人に聞く。
「間欠泉だね。周期的に温泉が噴き出しているんだ」
ザンダはショウに間欠泉の説明をしている。
(いや、絶対におかしいだろ)
ユウは父から、間欠泉は大きな地震の影響で止まってしまったと聞いていた。今はポンプで汲みあげて定期的に出ているように見せているということだった。
明らかに温泉が出過ぎている。
役所に入り、魔獣対策課へ向かう。対策課へはザンダが報告も兼ねて向かう。ショウも討伐師の勉強になりそうだからとついて行った。
ユウは待っている間に役所内に掲示されている町の歴史やイベントについてのポスターを見る。
(へぇ、あの神社とかも夢の世界で存在してるんだ。お祭りも規模は違うけどあるみたいだ…)
現実との違和感を探していく。
「おや、ユウさんじゃないですか」
ユウは声をかけられて振り向くと、そこには見知った人がいた。
「あれ?シロセさんじゃないですか。熱海にきてたんですね」
炎魔の情報を聞きにきていたシロセは次に熱海に来ていたようだ。
「私は元々東京の研究室に向かっている最中だったのですよ。富士の件では有識者として西へ同行しましたが、今は予定通り東京へ向かっているのですよ」
シロセは移動するついでに、対策課で何か研究に役立つ新しい情報が無いか確認しに来たようだ。
「乗り合いの大型車で移動するのは疲れますからね…この後はこの町の温泉で疲れをとってから明日出発しようかと。ユウさんも魔獣絡みですか?それとも温泉ですかね?」
一般の人々は町から町への移動に大型車を利用するようだ。バスのようなものだろうかとユウは勝手に想像する。実際にはもっと小型で、結構席も狭いので移動で疲れる人が大半であった。
「まぁ、そんなもんです。聞き込みをしてる時に温泉ドラゴンとかいう話を住民に聞いて、そっちの方が気になってますけど」
魔獣に関しては特に用はないが、シロセからも何か聞けないかと話を振ってみる。
「ああ!御伽話の!確かにこの町が舞台ですもんねぇ。かの英雄も一緒に温泉に入ったとかいう記述があって、その文献を読んだ時に笑ってしまったのを覚えてますよ」
(そんな文献が存在するのか…)
「そんな文献が存在するなんて面白いですね!他にも何か面白い事が書かれてなかったんですか?」
新しい情報だったので、聞き漏れがないようにシロセに更に聞いてみる事にした。
「他にですか?…うーん、英雄は会ったと言ったドラゴンですが、他の者も探してみたが見る事も叶わなかったとか。それでも皆が信じた理由が、英雄が持ち帰ったドラゴンの鱗だったとか」
「ドラゴンの鱗ですか?」
「ええ、そう書いてありました。でも、現時点でドラゴンの鱗が保管されている所など無いため、本当の事かどうかの証拠がありませんが」
英雄はドラゴンに会った。他の者が見る事もできなかったのは何か条件でもあるのかわからないが、有益な情報である気がした。
シロセは温泉に入るといってユウと別れて自分の宿屋に向かって行った。
ザンダとショウが対策課の窓口から帰ってきたので、シロセとの話を共有する。
ザンダとショウも窓口で収集した情報を共有するのであった。




