脱出
「今後の事を話そう」
ザンダが重苦しい空気に切り出した。
「3人で行動を共にした方がいいと思う。誰かに狙われている可能性があるのなら一緒にいた方が対処しやすい。それと、一旦この町から離れた方がいいと思う」
ザンダの提案にユウも同意であった。騒動が収まったとはいえ、まだ敵は潜んでいるかも知れない。それならば他の町へ行った方が安全と考えた。
「それなら、熱海に行くなんてどうだろう。院長先生の出身は熱海らしい。そこでドラゴンの御伽話を伝え聞いたって言っていた。もしかしたらドラゴンと、今回の騒動に関係している奴等の事が何かわかるかもしれない」
温泉ドラゴンの話だけが頼りだったが、ユウはかなり期待している。
ちょうど町を離れなければならないのであれば都合が良かった。
「熱海か。それならこの町の魔獣対策課から熱海の方へ予定があったから、その車に乗せてもらおう」
ザンダが言うには熱海に向かう途中の小屋に届けるものがあるらしく、対策課から車が出るらしい。
町に潜んでいる敵に気付かれぬよう、その車に潜ませてもらい移動しようという事だ。
「ショウ、突然だけど行動を共にしてほしい。今ここに留まるのは危険だ」
ユウはショウに同行するように話しかける。
ショウはまだ状況を完全には把握していなかったが、危険がまだ去ったわけでは無いということは何となく分かった。
「はい。よろしくお願いします」
ユウとザンダを信頼して同行に了承する。
討伐師になりたいショウは、この2人と行動を共にできる事に少し胸が高なっていた。
「できるだけ早く出発した方がいい。準備をしよう。僕が対策課と孤児院に行って事情を説明してくる。ユウ、対策課に確認してもらっている素材を半分買い取ってもらって路銀にしよう。十分な金額になるはずだ」
ザンダが対策課と口裏を合わせてなるべく目立たずに準備する間、ユウとショウはこの場で待機する事になった。
「そういえば、ショウは風の魔法が使えるのかい?」
ユウはショウに確認する。
「使えはしますけど、集中して少し強い風を出す程度です…」
ショウはそう言って軽く風を起こそうとすると割と強めの風が出た。
「あれ?何だかいつもよりかなり魔法の威力が高い…」
想定より魔法の威力が大きくなったようだ。
(憑神化した時に風の刃を連発していた事が関係しているのか?でもこれなら自衛もできるかも…)
ユウはショウと魔法の発動に変化はないか、室内でできる範囲で確認していった。
ザンダが戻ってきた。熱海の方へ向かう対策課の車の荷台に荷物を積んできたそうだ。孤児院の院長にも対策課から連絡して了承を得ていた。
救護所から表に出ないで裏口から車で待っている職員と合流する事になっているとザンダは説明した。
「それならすぐに裏口から出て車に向かおう。ショウ、いけるか?」
ユウはショウが倦怠感を訴えていたので動けるか確認する。
「はい、体の怠さも消えてもう大丈夫です。いけます」
3人は救護所の裏から出て車へ向かう。
東の門から対策課の車が出ていく。運転席に1人、対策課の職員が乗っていて荷台には荷物がかなり積んであるようだ。
町から十分離れた頃、運転手は荷台に話しかける。
「もう大丈夫っすよ!」
荷台のシートが被せてあった荷物の3つからシートが外れる。
ユウ、ザンダ、ショウが出てくる。
敵がどこで見ているかわからないので、荷台に隠れて町から離れたのだった。
「さて、とりあえず町からは問題なく離れる事ができた。これからこの車は熱海へ向かう山道に入り、その山道の途中にある魔獣対策課の小屋に向かう。そこで当番の職員と入れ替わるのと、物資の補給をする事が本来の目的の車だからね」
どうやら熱海までではなく途中の山小屋までは車で、その後は歩きで熱海に向かうようだ。
車は山小屋で人員の交代と物資の補充をしたら町へ帰るらしい。
「今日のうちに熱海に向かうか、それとも山小屋で休んで夜が明けてから行くかどうかだな」
時間的には昼くらいだった。現実ではあの山を越えたら熱海に入るはずなのでそんなに遠くないであろうとユウは考えていた。
「そうだね、山小屋に着いたら1日休んで明日の早朝に出発の方がいいと思う。山小屋から歩きだと半日くらいは見ておいた方がいい」
半日だと日が落ちてしまう可能性があり、魔獣も出る山道を行くのはリスクが高かった。
追手もない様子からリスクを取らずにいく事にした。
「そういえばユウ、羽と爪の素材がそこの袋に入ってるよ。お金はこれだけ手に入ったから大丈夫そうだ」
ザンダは素材の入った袋を指差し、さらに路銀の入った袋を懐から出して2枚のカードのようなものをユウに見せる。金額が書いてあり、1枚はザンダ、もう1枚はユウの名前が書いてある。
「結構な金額になったんだね…。これならお金の心配はしなくてよさそうだ」
大型の憑神の素材は高値で買い取ってもらえる。金額が高すぎると持ち運べないので、討伐師はカードに金額が記録されたものを対策課で申請してもらう事ができる。
素材の金額は半々でカードに分けられていた。
「あと、ショウに使えそうな武具を対策課から貰ってきた」
短剣と、動きを阻害しないように軽装の防具が箱の中に入っていた。
「すごい!ありがとうございます!」
ショウは喜んで武具を確認する。
討伐師になろうとしていたショウはまだ武具を身につけた事がなかった。訓練は対策課でしていたが、見習いとして討伐師になる事ができるのは来年からであった。
「対策課での訓練では短剣に適性があるっていう話だったから短剣にしたよ。一応魔道具でもあるから魔法の補助もしてくれる」
短剣は柄の部分に何かの魔獣の素材が使われているようだ。
「こういう魔道具の武器ってどうやって作ってるの?ザンダ」
子供の頃は剣や刀等が大好きだったユウは興味が出て聞いてみた。
「え?魔道具師が素材を魔法で同化させたり、爪とか牙とかだったら武器の素材として鍛えたりするんじゃないかな?」
ザンダは自分の知っている魔道具武器の加工方法について述べた。
魔法でくっつける事も出来るらしい。
「へぇ〜。じゃあこの風切りの爪と羽を使って魔道具にする事も可能なんだ!」
袋から風切りの羽と爪を出す。半分売ったので一つずつしかないが結構大きい。
(風を使う憑神だったしなー。風を意識するような色合いの刀身がいいな。大きさは少し大きな短剣で、羽は鞘に使ってー)
ユウはうんうん唸って何か考え始める。現実では剣や短剣を実際に見る事がないので変なスイッチが入ってしまったようだ。
ショウの武具が入った箱から短剣を取り出して実際に手に持って握った感じ、重さなどを確かめる。
(実際に持つとこんな感じなんだー。自分で作った武器は何故か重くないんだよな。この短剣に素材を魔法でくっつければ魔道具武器になるんだ!すごいなー)
ユウは先程自分の中で短剣のイメージを固めていた。手には素材と武器。
素材は光る玉となり短剣にぶつかる。短剣は形状を変え、先程ユウがイメージした通りのデザインになった。
刀身の銀色に淡いエメラルド色が重なっている。
短剣と鞘のサイズそのものが大きくなっており、ロングダガーくらいになっていた。
どうやったのか不明だがミニチュアになった羽が鞘に嵌め込まれているようだ。
「あ。…ザンダ、ショウ、ごめん。素材、ないなった。あと、短剣変わっちゃった」
ユウは冷や汗をかいている。夢中になってやらかしてしまった。
「ま、マナクラフトまで出来るのかい?」
ザンダは特殊な魔法を難なく行使したユウに驚いている。
魔道具の作成にはマナクラフトという特殊な魔法の訓練が必要で、使えるものは少なかった。
「素材の事はしょうがないよ!…そのかわりに、次にもしも僕に合いそうな素材があったらマナクラフトをお願いしていいかな?」
素材には相性というものがあった。ザンダの場合は炎や障壁関係だろう。
強かにも次に良い素材が手に入った時、ユウにマナクラフトをしてもらう予約をするザンダなのであった。
「ホントすまん!…ショウ、この短剣を使ってやってください」
ユウは申し訳なさそうにショウに短剣を渡す。
平凡な短剣であったものが魔改造されてしまった。
「一応、刀身には爪を使って強度を上げてあるのと、風を使う憑神だったからそれをイメージした刀身のデザインにしてあるよ。鞘にも羽を使ってあるから鞘単体でも魔道具として使えると思う」
ショウは受け取った短剣を見る。鞘から抜くと、見たことのない美しい刀身。大きいのに重すぎないのでこれなら無理なくショウでも振れる。
これは紛れもなく強力な武器であった。
柄を握ると魔法をいつもよりスムーズに使えるような感覚がある。魔道具としてもかなり強力のようだ。
「いいんですか?こんな高価なもの…」
貴重な素材を使用した短剣はどう考えても高価であるのでショウは遠慮していた。
「貰って大丈夫だよ。僕はこの剣があるし、風の魔法に適性があるショウが使うのが1番いいと思う。山小屋に着いたら使用感を試してみよう」
ザンダは障壁が使いやすくなる今の剣が自分に合っている武器なので問題ないとショウに言う。
ショウの魔法についてもユウから報告を受けており、風魔法の適性があると考えていた。
ショウは嬉しそうに短剣を受け取った。
ユウも短剣と素材が無駄にならずにホッとしている。
山小屋に車が着いた。
ユウ、ザンダ、ショウは荷台から降りて物資の搬入を手伝う。
山小屋から町へ帰る職員は、交代の職員に引き継ぎをしてから車に乗り込み町へ帰って行った。
山小屋には元々何人か寝泊まりできるようになっているのでユウ達が居ても問題なく休む事ができる。
ユウとザンダとショウは山小屋の外で体を動かせる場所を探し、短剣の使用感を確認するのだった。




