憑神:ショウ
ショウは異様なプレッシャーを放っている。
(憑神化!?何でいきなりそんな事に…)
ユウは突然の事態にどうしたらいいのかわからない。
「ザンダ!憑神化っていうのは解除できるのか!?」
憑神が乗り移っているのであれば、それを引き剥がせば正気に戻らないかと思って確認する。
「元に戻ったという話は数が少ないが、ある。でも情報が少ないんだ。トドメを刺す直前に憑神が剥がれたっていう話もあれば、剥がれなかったって話もある」
瀕死にならないと剥がれていかないという事なのか、それとも何か他に条件があるのか、試すには賭けのような方法であった。
「どちらにせよ、覚悟しなければならない。人が憑神化すると、厄介なんだ」
ショウが目の前から消える。物凄いスピードで肉薄してきていた。
「っ!!障壁!」
ザンダの障壁に何かが当たる音がする。ショウがどこから出したのか、少し大きめの短剣を振り抜いて障壁に攻撃を加えたようだ。
ノットリに操られていた時の動きとは全く違っていた。
「スピードが段違いだ!」
ショウは後ろに飛び退き、短剣を構える。その場から短剣を振り抜き風の刃が障壁にぶつかる。
風の刃は一撃だけで終わらず、連続して短剣を振り抜いて風の刃を飛ばしてくる。
「魔法まで!?」
障壁にヒビが入り始める。
ショウも魔法を元々使えはしただろう。しかしこの威力は尋常では無い。
「まずい!障壁もだが、こんなデタラメに魔法を使っていてはショウの体が保たない!」
ユウは障壁から飛び出して炎魔の力で接近する。
炎魔のスピードは捉える事が難しいのか、ショウの風の刃を回避して短剣を炎魔の爪で折る。
「やめろ!ショウ!」
武器を破壊したショウに呼びかける。
ショウは笑いながら折れた短剣を地面に落とす。そのまま右手を振り抜いてくる。後ろに回避するが鋭い痛みがユウを襲う。
左腕の辺りを斬られたようだ。血が流れている。
ショウを見ると先程と同じ短剣だが、折れていないものを握り、構えている。
(っな!武器を作り出せるのか!?)
ユウは傷を治しながら驚いていた。武器を作り出せるなんて自分と同じことをショウがやっていた。
武器を壊して無力化する事は不可能のようだ。
「ユウ、憑神化した人間の魔法は予測不能だ。ある話では、正体不明の光線を放って一帯を消滅させたというものもあるぐらいだ。…瀕死とまでは言わない、失神させる事を狙って戦おう」
ザンダと短く打ち合わせをし、ユウがショウに接近戦を仕掛ける。ショウの短剣を炎魔のスピードで回避していく。
「くそっ!くそっ!当たれ!当たれ!」
ショウの顔は焦っているように見える。
焦って短剣が大振りになっていく。ユウが大振りになった短剣を回避して再び爪で折る。
ショウの背後に回り、羽交締めにする。
「ザンダ!」
ザンダが剣を構えてショウに突っ込んでいく。
ショウはとても子供とは思えない力で拘束から逃れようとするが、ユウは全力で捕まえたまま離さない。
「やめろ!来るなぁぁー!」
憑神化したショウが抵抗しながら叫ぶ。
ザンダがそのままショウの鳩尾に剣の柄の部分を強く打ちつける。
ショウの力が抜けてその場で倒れ込みそうになるがユウがそのまま抱える。
するとショウから黒いモヤが飛び出して霧散していく。
「やった、のか?」
意識を失ったショウを見てユウが呟く。
「おそらくは…。あの黒いモヤは憑神だろう。あれが抜けたって事は大丈夫だと思う」
賭けは上手くいったようだ。ザンダが肯定する。
周りから戦闘音は無くなったようだ。
「とにかく、対策課の救護所にショウを連れて行こう!」
ザンダに言われ、ユウはショウを抱えて役所に向かうのだった。
救護所で職員にショウを診てもらう。
失神させるためとはいえかなり強めに鳩尾を突いたので、かなりのダメージがあったが傷はすぐに治った。
ザンダが魔獣・憑神対策課に報告に行き、ユウがショウが目覚めるのを待つ事にした。
少しするとショウが目を覚ました。
「ここは…救護所?」
対策課で手伝いをしていたからか、ショウは自分のいる場所がすぐにわかったようだ。
「気が付いたか。どこか苦しいとか痛いところはないか?」
ユウは体に異変がないかショウに確認する。
目の色は金色から茶色に戻っているようだ。
「ユウさん…。体は、特に問題ないみたいです。倦怠感がすごいですが…。僕、一体何が…」
ユウは事の経緯を説明した。町に魔獣が出た事、魔獣が住民を操っていた事、ショウも被害者だった事、ショウが一時的に憑神化したこと、憑神化は解除された事。
「僕、僕が憑神に…?」
ショウは信じられないと驚いていた。操られている時、憑神化した時の記憶はないようだ。
「ああ。俺とザンダで解除できたからもう安心していいよ。ちょっと強引にやるしかなかったから、体も問題なさそうで良かったよ」
ユウはショウが不安がらないように問題は解決していると再度伝える。
とはいえ、憑神化した人は助かるかどうかわからない状態というのが一般的な認識であった。自分がそのような危険な状態になっていたショウが不安になるのは当然であった。
「僕は、操られたり、憑神になってから誰か傷つけてませんか…?」
ショウは自分が住民の誰かを傷つけてしまったのではないか怖かった。
状況からして、1番最後にノットリに襲われたのがショウと考えられた。
「大丈夫。俺とザンダが止めた」
ショウの周りに傷ついた住民はいなかった。ユウとザンダが間一髪間に合ったので被害は出なかったのだ。
「良かった…。本当にありがとうございます…」
ショウは安心したようだ。強張っていた表情が解けていく。
「ショウ、襲われる前に何があったか覚えているか?」
ショウは最後に襲われた可能性がある。あの場では複数の人がノットリに操られていた。何かを見た可能性が高いのでユウは尋ねた。
「最初は遠くの方で叫び声が聞こえて、通りの人も何事かという感じでザワついていました…」
ショウが何かを思い出すようにポツポツと話し始めた。
「そう、少し経って、近くで何かに驚く声が聞こえて振り返ると緑の何かに包まれている人が苦しそうにもがいてたんです。何が起こってるのかわからなくて、怖かったんです」
緑の何かは間違いなくノットリであろう。ただ、犬型の魔獣があんな町の通りに出たらその時点で騒ぎになるはずなのだが、ユウはどこかおかしい気がしていた。
ショウは話を続ける。
「少し離れた所にいた人が近くの人に掴み掛かるのが見えて、掴み掛かった人が緑の何かに姿を変えて掴んだ人を包み込んじゃったんです。その後、緑の何かが無くなった人が暴れ始めて。皆んなその人達から逃げるのに通りがパニックになってました」
(今、なんて言った?魔獣じゃなくて、人?)
ユウは自分達が考えていた状況と決定的に違う事があり驚いていた。
今の話の再確認をしたかったが、ショウの話が最後まで終わってからにする事にした。
「僕も逃げて、物陰に隠れたんです。ユウさんとザンダさんが来て、暴れていた人を無力化してくれたのを見て物陰から出ようとしたら誰かに声をかけられて…。その後は思い出せません」
ショウは誰かに狙われたのかもしれない。ユウはそう考えていた。無差別に操られたのではなく、誰かが意図的に襲わせている。
声をかけられたという事と、ショウ以外は憑神化していない事が偶然ではないように感じる。
ノットリを使役している可能性のある何者かは憑神化の実験をしていた。これは旧軍基地跡で分かった事だ。
「何て言われたかとか、顔とか思い出せないか?」
ユウは敵の正体に繋がる何かが無いかショウにもう一度聞く。
「顔は…すいません、わかりません。何て言われたんだっけ…。ユウさんとザンダさんの所に行こうとして、走ろうとしたら、そうだ。『君は彼らの知り合いかな?』だったような…」
ユウはその言葉に血の気が引いた。
狙われたのはショウじゃない。ユウとザンダが狙われたのだ。ショウは知り合いだと思われて利用されたのだ。
ユウとザンダは相手に認識されてしまっているようであった。
そして、ショウもこれからは同じような危険があるのかもしれなかった。
ザンダが報告から帰ってくる。今のショウの話をザンダにも共有する。
「まさか、人型のノットリもいるというのか…。それに、どうやら僕とユウはマークされてしまったと…。そして、おそらくショウも…」
正体不明の敵に狙われている。ノットリが魔獣の姿をしているとは限らない。人を憑神化して暴れさせる事もできてしまう。
時計塔にも関係しているであろう敵の、得体の知れない恐怖が3人にのしかかっていった。




