温泉ドラゴン
ザンダが運転するトラックの助手席からユウは窓の外を見る。
(わかりやすい手がかりは無かった…。でも、ノットリを使役してる奴等が絶対にどこかにいるはずだ。町で情報収集しないと…)
時計塔に関しては何もわからなかった。分かったことは『憑神化』という実験をしていた者がいた事。
ドラゴンという単語が出てきた事。
「帰ってきたよ」
ザンダが町が見えてきたとユウに声をかける。
東部の町、現実では田方郡の辺りか。魔獣被害もあるからか、全体的に人口自体が少ないようで現実の世界の町の位置とは違うのと、町の数も少ないようだった。
ユウ達は帰還すると今回の援軍の報告を対策課にて報告する。
持ち帰った素材も一旦魔獣対策課に預けて確認してもらう。
対策課で風切りの素材の確認をしてもらっていると2人に声をかけて来る者がいた。
「おや、ユウさんとザンダさんではないですか。この町の方々だったのですね」
眼鏡をかけた細身の男、シロセが役所に来ていた。
「シロセさん、この町へいらしてたんですね」
つい先日富士にて別れたシロセは、魔獣に関しての知識を深めるために各地の対策課へ出向いて新しい情報がないか収集していた。
今回は炎魔が討伐されたこの町へ炎魔の情報を収集しにきたそうだ。
「炎魔のように有名な魔獣の情報はとても貴重なのです。今後の魔獣の研究・対策のためにも現地で情報を集めようかと思いまして」
シロセと同じような目的で研究者が東部の町に何人か来ているらしい。
魔獣・憑神対策課の窓口での待ち時間が長いようだ。
「おっと、噂をすれば窓口に呼ばれたようです。では…」
シロセは窓口に向かって行った。
「ユウさん!ザンダさん!」
ショウが2人を見つけて駆けてくる。
「戻ってたんですね!お疲れ様でした!」
無事に戻った2人をみて安心したようだ。
「ああ、今回もバッチリだったぜ!」
ユウは自信満々に答える。
正体不明の魔獣が出てきた事、風切りの大型と戦った話をショウに話す。
「大変でしたね…。でも2人だけで倒しちゃったんですね!」
大きな憑神は町の討伐師が大勢で対処するのが一般的であった。2人だけで討伐してきたユウとザンダが英雄のような気がしてショウの目が輝いている。
「倒しはしたんだけどね、行方不明の討伐師達の手がかりがなー。…ドラゴンかぁ」
行方不明の討伐師達の手がかりが少ない事も確かだが、それと同時に時計塔につながる手がかりも少なかった。
憑神化の研究をしていた形跡。そして、ドラゴン。
少ない手がかりに、ため息と一緒に口からドラゴンの単語が出てくる。
「ドラゴンがどうかしたんですか?」
ショウがドラゴンという言葉に反応する。
「いやさ、ドラゴンってみんな見たことあるのかなーって」
ドラゴンの正式な目撃例はなく、図書館の歴史書にも真偽は定かではないと記載されていた。
「伝説のドラゴンなんて誰も見た事ないよ!殺されちゃうよ!」
ザンダは笑いながら答える。ドラゴンは文明を滅ぼしかけたとされている。現れたらそれは壊滅的な被害が出るだろう。本当に存在するのであれば。
「あ、でも院長先生の御伽話の温泉ドラゴンなら友達になれるかもですね!」
ショウも笑いながら答える。
「温泉ドラゴン?」
ゆるキャラみたいな名前のドラゴンだなとユウは思った。
ザンダの方を見るがザンダも知らないようだ。
「孤児院の院長先生がよくドラゴンの御伽話をしてくれたんですよ。温泉ドラゴンの話で、どこかの町が舞台になってるって言ってました」
ショウの住んでいる孤児院の院長が知っている御伽話らしい。
ユウはその話がどうにも気になってしまった。
「院長先生なら喜んで御伽話を教えてくれると思いますよ」
ショウにそう言われて孤児院に行く事にしたのだった。
孤児院に尋ねると院長は外で子供達を見守っていた。
「温泉ドラゴンですか?喜んでお話ししましょう!」
むかし むかし
真っ黒なドラゴンがいました
ドラゴンは 悪い人間達が作った 危ないものが大嫌いでした
ドラゴンの炎は 悪い人間達と 危ないものを 全て燃やし尽くしてしまいました
疲れたドラゴンは 温泉を見つけました
ドラゴンは 温泉が大好きになり 自分の家にしました
ドラゴンがいるおかげで 悪い人間も 怖いものも 危ないものも 温泉の近くにこれなくなりました
悪くない人間達にとって ドラゴンのいる温泉の近くは とってもいい場所になりました
ドラゴンを温泉ドラゴンと呼んで みんな平和に暮らしましたとさ
(御伽話というか、絵本みたいな内容だな…)
ユウは院長の話を聞いて絵本のような、紙芝居のような印象を受けた。
「この話はね、私が小さい頃に祖母から聞いたお話しなんですよ」
ザンダは温泉ドラゴンについては何も知らないようだった。
この土地の話ではないようだ。
「院長先生が子供の頃はどちらにいらしたのですか?」
ドラゴンに繋がるかもしれない話なのでなんとか情報が欲しかった。
「私はね、熱海に住んでたのですよ」
熱海は現実と同じならここから割と近くにあるはずだった。
そして、これはかなり有力な情報だとユウは思った。
(こんな話聞いた事ない。この世界のオリジナルだ。これは、いるだろドラゴン)
ユウは熱海出身だった。
熱海で長く住んでいるので、熱海の話だとしたらドラゴンの異物感が凄かった。
(これは実際に調べに行かないとな…)
ユウがうんうんと頷いていると院長が口を開く。
「ユウさん、あの時はショウの事を救ってくれてありがとうございました」
院長は頭を深く下げた。
「あの子の両親は討伐師でした。亡くなった両親のように皆を守る討伐師になりたいと、今から対策課の手伝いをしながら学んでいるのです」
ショウは自分から進んで討伐師になる気のようだ。
熊の憑神の件があっても対策課に通っているということは、その決意は固いのであろう。
「このような世界です。何があるかわかりません。もし、またあの子に何かあった時はどうか、力を貸して下さい」
院長はユウに頭を下げる。
「任せて下さい!いつでも力を貸しますよ!」
ユウの力強い返事に、院長は嬉しそうな笑みを浮かべる。
次の目的地が決まり、院長にお礼を述べて孤児院を出た。
いつのまにか日が落ちている。今日の所は宿に戻って、明日ザンダに熱海にはどうやっていくのか相談する事にした。




