第9話 祈りの先に
今日も朝から怪我人が大量に運ばれて来た。
廊下には血の匂いが漂い、礼拝堂からは苦しげなうめき声が絶えず聞こえてくる。
「次を運べ!」
「こちらは足の骨折だ!」
神官たちの慌ただしい声が飛び交っていた。
礼拝堂は怪我人で溢れ、浄化魔法を使える見習いと聖女だけが治療にあたり、私たちは日常の仕事を任されていた。
「お嬢ちゃん、今日もありがとう」
トーマスさんが笑顔でお礼を言ってくれる。私も微笑みを返したがそれ以上に、レオ様が運び込まれる大量の怪我人に心配そうな顔をしていることの方が気になっていた。
先日から少しずつだが、包帯を替える時に見える傷が快方に向かっているようだった。しかし、すぐに動けるほどではなく、普通に生活するには、まだ時間がかかりそうなのだ。
ましてやレオ様は騎士様なのだから、傷は完治してからでなければ前線には戻れないだろう。
「はあ……。また運ばれてきたのか……」
苦しそうに眉を寄せたレオ様は、窓の外を見つめていた。
きっと仲間たちのことが心配なのだろう。
私は彼が早く大切な主君の元に戻れたらと、強く思った。
その時だった。
「くっ……!」
苦しげな声に顔を上げる。
レオ様が傷を押さえていた。私は慌てて彼の元へ向かい、腕をさすりながら強く願った。
——どうか。
レオ様がまた剣を振れるようになりますように。
大切な人たちの元へ帰れますように。
苦しむ人が少しでも減りますように。
私の体の奥から熱く、大きな力が溢れ出すのを感じた。その瞬間、部屋は光に包まれ、私の左手の甲に『聖女の紋』が浮かび上がった。
分からず呆然としているといきなり腕を引かれ、部屋の外へ連れ出された。
強引に私を連れ出したのは上位司祭のローレンツ様だった。
「黙ってついてこい」
低い不機嫌な声。それは有無を言わさぬ態度だった。
私は掴まれた腕をさすりながら、ローレンツ様の後ろをついていくことしかできなかった。




