第60話 浮かれる者たち
セレナに告白をした日、俺はリヒトベルク侯爵家にユリウスとセレナを連れて突撃し、許可を得た。
そして今日は朝一番で、陛下への謁見を申請した。もちろん、リヒトベルク侯爵とセドリックにも同席してもらっている。
俺は緊張しながらも、セレナと並んで陛下の前に立つ。
「セレフィーナ・フォン・リヒトベルク侯爵令嬢との婚約を、お許しいただきたく存じます」
近衛騎士団長らしくきっちり申し出ると、セレナも緊張した面持ちで口を開いた。
「私も、レオンハルト様との婚約を望んでおります」
俺と一緒にいるために、しっかりと自分の意思を伝えてくれたことに心の中で感激する。
威厳たっぷりに黙って俺たちを見つめていた陛下は、俺の緊張が限界まで膨れ上がったところで、ひと言だけ告げた。
「許す」
そのあと少しだけ表情を緩めた陛下は、大きなため息をついた。
「ようやく、だな」
陛下の隣では、ユリウスが満足そうに頷いている。
謁見の間の端で見守ってくれていた侯爵は、目を潤ませながら微笑んでいた。
「娘が自ら選んだ相手です。異存はございません」
昨日、侯爵から許しを得てはいたが、陛下の御前で正式に婚約を認められるまでは、どうにも心が落ち着かなかった。
俺は侯爵に無言で深く頭を下げた。
「僕もレオンハルト殿なら安心です」
微笑みかけるセドリックに、セレナは嬉しそうに小さな声で「ありがとう」と礼を言った。
こうして婚約は、驚くほどあっさりと認められた。
しかし、本当に大変だったのは、その直後だった。
「宰相! 母ちゃんに『鳥』を飛ばしてくれ! 『今からレオンハルトの嫁を連れて帰る』とな!」
「……は? 親父、今からか?」
「そうだ、今からだ。昨日、俺が一人で浮かれて帰ったら、母ちゃんにしこたま怒られたんだからな! 今日は連れて帰って紹介するって約束しちまったんだ。さあ、行くぞ——!」
浮かれた親父は、セレナに満面の笑みで近づいた。
「えっ……?」
事情を飲み込めずにいるセレナを、親父がひょいっと抱き上げる。
固まってしまった彼女を抱いたまま、スタスタと廊下へ出て行ってしまった。
「おい、待ってくれよ親父! 陛下、御前失礼します!」
「ははは! 頑張れよ、レオンハルト。勝負はここから……かもしれんな?」
「くくっ、さすがは総長と奥方だ。祝いの酒でも届けさせましょう」
背後では、陛下とユリウスの笑い声が聞こえた。
扉を飛び出した俺は、親父を追いかけながらも安堵する。
——セレナとの婚約を認められた。
それだけで、俺はすっかり満足してしまっていた。
このあと実家で、さらなる大騒ぎが待っているとも知らずに……。




