第59話 不器用な告白
セレナの授業が終わる頃、ユリウスが俺の前に現れた。
「レオンハルト、すまない。私では父上や現侯爵を抑えることはできなかった。その場には、君の父上である総長までいたんだ。分かるよな?」
なんだって? ユリウスが抑えきれなかったと謝ってくるなんて、これまで一度もなかったことだ。
まさか、セレナの婚約者が決まりそうなのか!?
「ユリウス、俺はどうしたら良いんだ!?」
「セレナ自身にお前を選んでもらうしかないだろう。本人が選んだ相手なら、陛下たちも認めてくださるんじゃないか?」
「そうだな、それしかない。セレナは今どこだ?」
「部屋に戻った頃じゃないか?」
「行ってくる!」
俺は急いでセレナの部屋に向かう。なぜかユリウスもついてくるが、今はそれに構っている暇はないから放っておこう。
「セレナ!」
部屋に着くなり、扉を叩く。慌てたせいで、大きめの音がしてしまった。「しまった」と思うも、俺の声にセレナが慌てて扉を開け、俺を部屋へと迎え入れてくれた。
「レオ様……大丈夫ですか? お怪我なら治療しますので、おかけになってください」
セレナに手を引かれ、彼女の部屋の真ん中に置かれた可愛らしいソファに腰掛ける。
「セレナ、大事な話があるんだ」
俺の神妙な声に不安を覚えたのか、彼女は俺の隣に座って、手を握ってくれた。
「レオ様、どうなさったのですか? 私はしっかりと受け止めますので、おっしゃってください」
セレナの目は、何かを覚悟したかのように真剣だった。その目に俺の方が戸惑ってしまった。何か言い間違えたか?
だが、しっかりと話を聞こうとしてくれているのだ。言うなら今だろう。
「セレナ……俺は不器用で、剣を振るうしか能のない人間だ」
俺は俯いた。よく考えれば、俺の取り柄など剣を振るうことくらいしかない。
こんな俺で、セレナを幸せにできるのだろうか。
「そんなことはありません。レオ様はお優しくて、強くて、とっても格好いい……です……」
途中で言っていることが恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして俯いてしまったセレナ。
俺が優しくて、強くて……とっても格好いい、だって?
セレナの言葉を頭の中で反芻していると、ギュッと手に力が込められた。セレナが俺の手を握る力を強めたのだ。
「レオ様、私……その……」
それ以上は駄目だ! 俺が……俺からちゃんと言わねば!
「セレナ! 俺と……、その、け、け、結婚……は早いな。えっと、俺の、婚約者になってくれないか」
セレナがポカンと口を開けたまま固まっていた。
俺の思っていた反応と違うな……まさか、俺が勘違いしていたのか!?
しかし、ここはもう押し通すしかないだろう。しっかり俺の気持ちを伝えねば。
「俺は、これからも君のそばにいたい」
セレナの潤んだ瞳を見つめて、しっかりともう一度伝える。
「セレナ、俺と婚約してほしい」
「……」
セレナからの返事が返ってこない。俺は振られるのだろうか……。
不安になり、見つめていた彼女の瞳から視線を外す。
どれだけ時間が流れたのだろう。俺の手に、ポタポタと落ちる水滴に顔を上げると、セレナが大粒の涙を次々と零していた。
「なっ!? セレナ、ごめん、嫌だったか!? 悪かった、頼む、泣かないでくれ……」
視線を外してしまったことを後悔しながら、セレナの背を撫でる。彼女は俺の胸にしがみつき、無言のまま時間だけが過ぎていく。
「……ありがとう……ございます」
いまだに涙の止まらないセレナに、どうしたのかと聞くのも憚られる。
そうか、俺は振られるのがこんなに恐ろしいのか。
覚悟を決めて、俺はセレナに声をかける。
「セレナ、落ち着いてからで良い。その、返事も今じゃなくて良いから、何が辛いのか教えてくれるか?」
俺は恐る恐る彼女の瞳を覗き込んだ。
すると彼女は満面の笑みで首を横に振った。
「そ、その、嬉しくて……。私も、レオ様のことが……す、好き……なんです」
顔を真っ赤にして俺を見つめるセレナを、俺は勢いよく抱きしめた。
「ありがとう、セレナ! これからは守るだけじゃない。俺が必ず幸せにするからな!」
「……はい、レオ様」
嬉しそうに俺へ抱きつくセレナの頭を、そっと撫でる。あまりの愛おしさに、そのまま抱き上げようと手を伸ばした――その時だった。
「おめでとう、セレナ、レオンハルト。あとは父上たちへの報告だな!」
「……なっ、ユリウス!? いったい、いつからそこに……」
「……最初からいらっしゃいました」
セレナの答えに、俺は固まった。
そういえば、部屋へ来る途中も、ずっと後ろをついてきていたような……。
「私が少し背中を押してやらなければ、いつまでかかったか分からないからな。さあ、報告へ行くぞ」
「……は?」
放心状態の俺はユリウスに腕を引かれ、満面の笑みを浮かべたセレナとともに、陛下の執務室へ向かうことになった。




