第55話 釣書と真実
裁判の翌日から、セレナのもとには大量の釣書が届くようになっていた。
目を通してみても、「上位貴族で聖女」という価値しか見ていない者ばかりに思えた。
セレナは光の侯爵家の令嬢として正式に認められたのだ。
今日は実家に届いた釣り書を現侯爵が城に持ち寄り、今後について話し合うことになっていた。
「姉さま!」
現侯爵がセレナに挨拶をしようとした瞬間、彼の後ろから小さな男の子が飛び出してきて、セレナに抱きついた。
「……まさか、セドリック!?」
セレナはぎゅっとしがみついてくる彼を、しっかりと受け止め、抱きしめた。
「セレナ、弟がいたのか?」
「はい。弟が生まれたと聞いた記憶はあったのですが、私も幼かったので会った記憶がなかったのです。なので、本当に存在するのかさえ分からなくて」
「先代侯爵夫妻が亡くなったと聞かされた時、セドリックは私と侯爵家の乳母とで預かっておりました」
現侯爵は、セドリックへ静かな眼差しを向けた。
「彼は生まれたばかりでした。光の侯爵家では、以前から子どもを狙われる事件が続いていたため、存在を伏せて育てることになっていたのです」
「では、両親はセドリックを守るために……」
「最悪の事態を想定していたのだろう」
ユリウスが苦しげに答えた。
「神殿から呼び出された前日、二人は現侯爵にセドリックを託している。自分たちに何かあった場合、彼が成人するまで侯爵家を守ってほしいと」
偶然の事故を恐れていたわけではない。二人は、神殿から何かをされると予測していたのだ。
「な、なんてことだ……。まさか、事故に見せかけて崖から突き落とされたんじゃないだろうな?」
俺は震える手でセレナの背を撫でた。こんな話を、子どもたちに聞かせてよいものだろうか。
「セレナ、セドリック。あちらでおやつでも食べておいで」
「僕は知りたいです」
セドリックは迷うことなく答えた。
「両親の遺体は戻ってきました。でも、姉さまは魔物に食われたのだと聞かされていました。僕には、本当のことを知る必要があります」
「……私も知りたいです。前に進むためにも」
二人のまっすぐな眼差しを受け、俺は返す言葉を失った。
「二人とも当事者だ。傷つくからと、いつまでも遠ざけておくわけにはいかない」
ユリウスは現侯爵へ視線を向ける。
「セドリックが侯爵家を継ぐのだな?」
「はい。そのために、私は侯爵家を預かっております」
「ならば、なおさら知っておくべきだろう。セレナも成人している。自分の意思で決めるのがいい」
ぐうの音も出なかった俺は、渋々頷いた。
セレナの隣に腰掛け、俺たちは侯爵から、あの日の真実を聞くことになった。




