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第53話 懺悔という名の証言

「次の証人、元神殿職員――フリードリヒ」


 あからさまにアウグスト総大司教が動揺を見せた。フリードリヒはアウグストの部下で、いつも近くに置いている人材だからだ。


「……なぜお前がそこにいる!? お前はこちらの人間だ!」


 自分の足元を指差すアウグストに、彼は覚悟を決めた顔を向けた。


「リヒトベルク侯爵家の転落事故の真相を、私がお話しします」


「だっ、黙れ! ローレンツ! あいつを引きずり降ろせ!」


「えっ!? い、いや、さすがにそれは無理です!」


 慌てて断るローレンツと、フリードリヒを睨みつけるアウグスト。どう考えてもフリードリヒの登場は想像だにしていなかったようで、神殿側からすると証言をさせたくない人物なのだろう。


「フリードリヒ司祭。あなたはリヒトベルク侯爵家の事故をご存じでいらっしゃるのですね?」


「はい。あの日、私はアウグスト総大司教と共に、『聖オーグ孤児院』へ向かっておりました。王都からガルザの道を通る途中で、崖下へ転落した馬車を目にしました。そして……息のある侯爵夫妻を……ううっ、アウグスト総大司教に命令され、見殺しに……っ!」


 会場が、悲鳴や驚きの声で騒然となった。それすらも上回る音量で叫んだのは、アウグスト総大司教だ。


「嘘をつけ! そんな昔のことを、しっかりと覚えているはずもないだろう!」

 

「十年以上前のことですが、昨日のことのように覚えております。日記にもしっかり記録してあります。私は……アウグスト総大司教から黙っている見返りとして、金貨を握らされました。あの時の私は弱みを握られており、断る勇気が持てなかった。リヒトベルク侯爵家のご令嬢には大変申し訳ないことをしたと……ずっと思って生きてきました。本当に申し訳ありませんでした」


 セレナに向かって深々と頭を下げるフリードリヒは、その日からずっと良心の呵責に苛まれていたのだろう。

 自分にも責任があると認めた上での彼の証言は、会場の者たちの心に響いたようだ。 


「あのご令嬢が侯爵家の生まれだと知っていて、孤児院に預けたということかしら」


「リヒトベルク侯爵家の力は素晴らしいのだと聞いたことがある。それを神殿が独り占めしたかったのではないか?」


 憶測が飛び交う。観覧している者たちは好き勝手に神殿の裏側を噂した。何も知らされていなかったローレンツは呆然としている。アウグストは苛々した表情のまま、「黙れっ! うるさい!」と怒鳴り散らしているが、誰も聞き入れていなかった。


「アウグスト総大司教。貴方は総大司教という立場を利用し、セレフィーナ嬢のご両親を見殺しにし、彼女を孤児院で育てた。そして、光属性が示現した途端、辺境の神殿へ送り込み、命が尽きるまで利用するつもりだったな」


「そ、そんな事実はない! その聖女が侯爵家の人間だったことを知っている証拠はあるのか! 大体、事故に遭ったのがリヒトベルク侯爵家だったかすら知らなかった!」


「事故現場には、私も総大司教も降り立ちました。馬車にリヒトベルク侯爵家の家紋があることも確認しております。そして、聖オーグ孤児院へセレフィーナ嬢を送り届けたのは、アウグスト総大司教に命じられた……私なのです」


 彼の懺悔のような証言に、会場の者たちだけではなく、アウグスト総大司教もローレンツも、言葉を失うしかなかった。


「アウグスト総大司教。貴方の罪は、一人の少女の人生を狂わせたことにある。それは、極めて重い罪だ。沙汰を待たれよ」


 アウグストは力なく膝をついた。

 もはや反論する気力すら残っていない。

 

 騎士たちは無言でその両腕を拘束し、引きずるように審判場から連れ出していった。

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