第52話 反論を論破されて
次々に積み重なる証言に、ローレンツは青くなっていたが、追い打ちをかけるように、騎士団や現地調査員、神殿職員などがさらに証言を重ねていく。
アーサーが「次の証言を!」と声を上げた時、もう限界だったのだろうローレンツが「嘘だ!」 「皆、セレナに騙されている!」 と必死で反論してきた。
「幼くて可愛らしい見た目になったからといって、そいつが平民で孤児だということは変わらんだろう! 下賤な人間が、出しゃばるんじゃない!」
セレナをギロリと睨むローレンツに、俺は一歩下がろうと体を縮めた彼女の前に立ち、背中に庇った。
アーサーは「はははっ!」と声を上げて笑うと、急に真面目な顔になり、先ほどより低い声で説明を始めた。
「何を言っているんだ。彼女のフルネームは、セレフィーナ・フォン・リヒトベルク。光の侯爵家、唯一の後継者であらせられる」
「はあ……?」
会場がざわざわと騒がしくなった。俺は、全く動きのなかったアウグスト総大司教が動揺し、ピクリと動いたことを見逃さなかった。固まっていたローレンツはようやく動き出し、大声で怒鳴った。
「嘘だ! リヒトベルク侯爵家は、ガルザ近隣の崖で転落事故を起こし、家族全員が亡くなったのだ!」
「ああ、そうだ。その日にガルザで事故が起こり、ご両親が亡くなっているのは事実だ。彼女が聖オーグ孤児院に引き取られたのは、その事故の翌日だと確認が取れた」
さらに会場が騒がしくなる。
「そ、それは偶然の可能性もあるでしょう! たまたま事故の翌日に、そいつが孤児院に入っただけでは証拠にならんでしょう!」
「その通りだ」
そこで口を挟んだのは、ずっと黙っていたアウグスト総大司教だ。彼はわざわざ、その場に居合わせた者たちに分かりやすいよう説明を始めた。
「状況証拠だけでは、彼女がリヒトベルク侯爵家のご令嬢であるという根拠にはなりません。リヒトベルク侯爵家の直系の血筋が残っていれば、魔道具で調べることも可能でしたが、現侯爵は直系ではなく、傍系の血筋だったはずだ」
「ほお。よくご存じですな、アウグスト総大司教。その通り、彼女の親や祖父母はすでに亡くなっており、魔道具では調べようがありません」
「ふんっ。であれば、彼女が光の侯爵家出身であるとは断定できまい」
「ええ、通常の貴族であれば調べようがなく、八方塞がりだったのですが、彼女は聖女なのです」
「……何が言いたい」
「リヒトベルク侯爵家の聖女には、ある特徴が現れます。これまで神殿とリヒトベルク侯爵家は接点がなかったのでご存じないかもしれませんが、彼女の手の甲に浮かぶ『聖女の紋』は、リヒトベルク侯爵家の家紋そのものになるのです」
「な、なんだと!?」
「セレフィーナ嬢、見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「……はい」
俺を見上げて小さく頷いたセレナはアーサーの隣に立ち、左手の甲を掲げて見せた。
「光よ……」
彼女が祈り始めると、手の甲に『聖女の紋』がはっきりと浮かび上がった。それも、リヒトベルク侯爵家の家紋に間違いなかった。
これで、セレナがセレフィーナ・フォン・リヒトベルク本人であるということが証明されたのだ。
「くそっ……!」
アウグスト総大司教が悔しそうに膝を叩いた。
なぜ、彼はセレナの出自に固執するのだろうか。
「くくっ。これで正式に、セレナは神殿に関与できなくなったな」
ユリウスの呟きに、なるほどと納得してしまった。彼女の力は貴族の中でも治癒能力が高い。その力を、これまでのように好き勝手に使われずに済むのだ。
そんな中、まだ諦めていない男が声を上げた。ローレンツだ。
「だから何だと言うのだ! 孤児院で暮らしていたそいつに仕事を与え、飯も食わせてやっただろう!? 恩を仇で返しているのはそいつの方ではないか!」
「……それだけなら、まだ良かったんだがな」
アーサーの意味深な物言いに、一言一句聞き逃すまいと、会場は静寂に包まれるのだった。




