第48話 初めての我がまま
早馬の報告が王子である私に届いてから数時間後、まだ意識の戻らないレオンハルトたちが帰って来た。必要な治療は現場で終わっているらしい。セレナの必死の声かけにもレオンハルトは答えない。隣には涙を流す彼女がいるのに、それでも彼は目を開けないのだ。
「レオ様……」
マティアスからは、怪我によるショックのせいで眠りから覚めないのだと説明された。当然セレナにも説明をして、用意してある部屋で休むように促したのだが、彼女は彼の手を握ったまま離れようとしない。
いつも世話をしてくれていた侍女たちが「どうか、休んでください」と懇願しても彼女は首を横に振る。
「目を覚ますまで、私はここにいます」
そう言うと、セレナは何時間も座ったまま祈り続けた。
★★★
レオンハルトが倒れてから二日。 窓の外では朝日が昇っていたが、セレナは一度も彼の手を離そうとはしなかった。
セレナは祈り続けていたが、さすがにうつらうつらと舟を漕いだりもしていた。
「セレナ、一度ちゃんとベッドで休むんだ。きっと、君が少しでも離れたら、レオンハルトは心配になって必ずすぐに追いかけてくるだろう?」
「……そうでしょうか?」
どうやら彼女は、まともに考えられないほどに疲れているようだ。あと一押しだろうか。
「ああ、そうさ。レオンハルトはいつでも君の後ろを追いかけては世話を焼いていただろう?」
「……そうですね」
「それに君が倒れたら、目を覚ましたレオンハルトは自分を責め続けるだろう。だから少しだけでいいから休むんだ」
「……はい。レオ様……」
セレナは白く細い指で、レオンハルトの頬を撫でた。そして小さな声で「いってきます」とつぶやいた。
……その瞬間。
「どこへ行くんだ!?」
ガバッと起き上がったレオンハルトに、部屋にいた者たち全員が驚き、一斉に彼の方を振り向いた。
そんな中、彼に向かってセレナが走り出す。
「レオ様っ!」
レオンハルトの胸に飛び込み、声を上げて泣きじゃくった。
「うお!? どうした、セレナ! 嫌なことがあったのか?」
いつものように頭を撫でながらなだめているレオンハルトに、何か言いたげだが安堵で涙が止まらないといった様子のセレナは、精いっぱい泣いたあと、彼に向かって抗議した。
「レオ様は、どうして……っ」
「え? 俺のせい?」
「私は……私のためにレオ様が傷つくのが一番嫌なんです!」
セレナの必死の訴えは、レオンハルトにはものすごく刺さっているようだ。
「守っていたつもりだった。でも、一番悲しませていたのは俺だったのだな……。セレナ、俺が悪かった。だがな……、もう一度同じことが起こったら、咄嗟に同じ行動をしてしまう気がするんだ」
「ううっ、レオ様なんてもう知らないっ」
「わ、分かっているから! できるだけ、俺も怪我をしないようにするから!」
「……本当ですか?」
「ああ、約束する! だからな、もう泣かないでくれ……」
レオンハルトは気付いていただろうか。
「自分を犠牲にしないで」という願いは、セレナが初めて自分自身のために口にした、たった一つのわがままだったことに。




