第47話 咄嗟の行動で
火薬が爆発したような音と、焦げ臭い匂いが馬車の中にまで漂っている。聖女様を守るため、私は腕の中に彼女を抱きすくめていた。スタンピードでも前線に突っ込んで行ってしまわれる聖女様の安全を第一に考えた結果だった。
平静を装ってはいたが、心臓が耳元に移動してきたかのように鼓動が響き、辺りは静まり返っていた。
ほんの数秒しか経っていないはずなのに、永遠のように感じられた次の瞬間、何かが倒れる「バターン!」という大きな音がした。
「離して……扉を開けてください! お願いです、マティアス様! レオ様がっ!」
悲痛な叫びに、つい力を緩めてしまう。私の腕の中から飛び出した彼女は、馬車の扉を開けて立ち尽くした。
「聖女様! 私の前には出ないでください!」
「……っ! レオ様っ!」
「うん……? なぜでしょう、静かですね」
馬車の高さから周りを見渡す。爆破と同時に襲撃者たちは森へと散ったのだろう。姿はすでになく、騎士たちは身を伏せたまま周囲を警戒していた。追う余裕など、今の私たちにはなかった。
ふと下に視線を向けると、血だらけのレオンハルト殿が大の字で倒れていた。
なんてことだ。彼は聖女様を守るため、自ら盾になったのか。
大きく息を吸い、止める。私が慌ててしまっては彼女を守れる者はいなくなるのだ。そう言い聞かせて、ゆっくりと息を吐いた。
「聖女様、落ち着いてください。まずは止血をしましょう。先ほどの爆破音は『火筒』だと思われるので、鉄の塊が体の中に残っている可能性があります。それを取り除いてから治癒しなければなりません」
「……っ、はい、止血して傷口を洗います!」
驚きと恐怖に顔色を白くさせていた聖女様だが、治療と聞くとキリリとした顔つきとなり、一気に集中力を高められたのが分かった。
私も周りの音が消えるほど集中することはあるが、こんなにも幼い彼女がすぐに切り替えられるなんて。何度見ても感心してしまう。
手際良く治療を終わらせた聖女様は、レオンハルト殿に声をかける。必死さが伝わってきて切なくなる。
「レオ様! レオ様っ! 起きてください……一人にしないでっ!」
彼に縋り、はらはらと涙を流す姿は美しい。
しかし、このまま聖女様を神殿にお連れすることはできない。
ガルザ地区に入り、事故現場からすぐの場所で襲われたのだ。無関係だとは思えない。
「陛下には私が『鳥』を飛ばしておきます! 誰か、馬で城に戻り、ユリウス殿下に報告を! 残りの騎士たちは、予定通りに神殿に向かってください。何も起こらなかったふりをするのです」
「かしこまりました!」
小隊長が返事をし、二手に分かれて出発した。
ここで下手に騒ぎ立てては聖女様が危ない。そう直感した私は、レオンハルト殿と彼女を乗せ、木陰に馬車を隠したのだった。




