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第42話 二人の願い

 解散しようと、皆が立ち上がろうとした瞬間、レオンハルトが声を上げた。


「俺がガルザに行く」


「神殿のことは教皇たちに任せてもよいのではないか?」


 陛下の言葉を受け、少し考えてから言葉を発するレオンハルト。どうやら折れるつもりはないようだ。

 

「神殿の調査ではありません。セレナのご両親の件です。彼女に関わることなら、私自身の目でも確かめたい」


「レオンハルト、セレナはどうするんだよ。お前がいないと寂しそうにしているらしいじゃないか」


「……」


 レオンハルトが黙り込んだ時、控えめに執務室をノックする音が聞こえた。


「入れ」


 陛下の威厳のある声の後、そーっと扉が開く。


「レオ様……私も行きます」


 少しだけ開いた扉の隙間から、彼の元へ駆けつけたのはセレナだった。どうやらこれまでの話を聞いていたらしい。


「セレナ! なぜここへ……! だっ、駄目だぞ、わざわざ辛い思いをする必要はないんだ!」


「レオンハルト、まずは落ち着きなよ。セレナ、どうしたんだい? 何か気になることでもあるのかな」


「ごめんなさい、侍女の方に無理を言って連れてきてもらったのです。その、私は嫌な予感が当たることが多くて……」


 それは初耳だ。聖女としての能力だろうか。


「ほお……。セレナ嬢と言ったな。私はこの国の王なのだが、その話を詳しく教えてくれるかな?」


 陛下がセレナの目線に合わせて、優しく声をかける。本来、挨拶がないのは不敬なのだが、小さな彼女の姿に、皆の目尻が優しく下がっているから大丈夫だろう。


「あ、えっと……」


 チラリとレオンハルトを見上げるセレナに、彼は屈んで彼女の背中を軽く撫でた。


「セレナ、ゆっくりで良い。俺がそばにいるから、陛下に教えて差し上げてくれるか」


「はい」


 コクリと頷いた彼女は少し眉を下げて、考える素振りを見せながら話し出した。


「私は、事故の前のことは記憶がないので分からないのですが、馬車の事故があったあの日、とっても外に出たくなくて、何度も両親を引き止めた記憶があります」


「それなのに、ご両親と外に出ることになったと」


「はい。一時間も経たずに馬車は事故に遭いました……」


 私も、勘が働くことは確かにあるが、はっきり『危険』だと分かるわけではない。

 それにしても、ここにいるということは、レオンハルトが危険な目に遭うと思っているのか?


「ねえ、セレナ。今回は君自身の危険じゃなくて、レオンハルトの危険だと、なぜ分かったんだい?」


「レオ様が毒霧に向かって走り始める前に、いつもとは違う嫌な予感がしたんです。すぐにレオ様に悪いことが起こるのだと理解しました」


「今回は、レオンハルトに関する『嫌な予感』がしたから、ここまで来たってことかい?」


「……はい。レオ様がまたご無理をなさって、怪我でもしていたらと思うと我慢できなくて……」


 うっすらと涙を浮かべるセレナを、レオンハルトが抱き上げてあやし始めた。


「だ、大丈夫だぞ、セレナ! 俺は丈夫だからな? わーっ、泣くなって! おやつ! おやつ食べに行こうな? 陛下、御前失礼します!」


 彼女を抱き上げ、バタバタと執務室から退場したレオンハルトに、陛下はぽつりとつぶやく。


「……相思相愛だな?」


「本人たちは何かと理由をつけて、それを認めようとしませんが、周りから見ればバレバレですけどね」


 その場にいた一同から笑い声が上がる。できるならば、セレナが寂しくならないようにしてあげたい。


「ユリウス、ガルザの件はどうなると思う」


「レオンハルトが折れて、セレナを連れて行くと思いますよ」


「だろうな。あれだけセレナ嬢に甘いんだ。折れるだろう」


「前回、辺境に行った時も、『レオンハルトと一緒なら』と、許可を出していましたからね」


「ユリウス。レオンハルトにはセレナ嬢を同行させる許可を出そう。ガルザの手配は任せる。他の者は大神官とその身辺の調査を進めてくれ」


 陛下の号令に、その場がピシリと引き締まった。

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