第41話 明かされた真実
静まり返った陛下の執務室で、皆が真剣な表情になる。
「彼女……聖女セレナは、貴族の出身だった」
「「「「……」」」」
その場にいた誰もが、すぐには状況を飲み込めずに固まっていた。
「貴族、ということは……ご両親がいらっしゃるはずですよね」
私は気を取り直して視線を向けると、陛下は鷹揚に頷き、説明を続ける。
「それがな、光の侯爵家のご令嬢である可能性が高いのだ」
「可能性、ですか……」
「ああ、そうだ。彼女のご両親が事故で亡くなったのは事実なのだが、不可思議なことが起こっていてな」
「不可思議?」
皆が首を傾げる。陛下は「ふう——っ」と大きくため息を吐いてから話し出した。
「事故に遭った当初、セレナ嬢のご両親は生きていたらしいのだが、救助が間に合わずに死亡している」
「辺鄙な地域だったのでしょうか?」
「それがな……首都からそう遠くない、ガルザ村での事故だったようだ」
「ガルザ村には神殿がありましたよね? なぜ助からなかったのでしょうか。まさか……」
私は顔を青くして、最悪の事態を想定する。
「ああ、ユリウスの考えている通りだろう。ガルザの神官が、故意に助けなかったと思われる」
「……人が助けを求めていたというのに、見殺しにしたというのか!」
レオンハルトが拳を握りしめ、奥歯を食いしばっていた。怒りに任せて大声を出したくなる気持ちも分かる。
「……しかし、それと聖女様の話はどう繋がるのでしょうか。光の侯爵家は聖女様の従兄弟叔父にあたる方が継いでいらしたかと」
「ああ、それがな。直系でなければ魔法水晶での血筋判定が出来ないらしい。元々、光属性は生まれにくいが、光の侯爵家を継ぐからには光魔法を使えねばならぬ。そのため、少し血縁は遠いが、彼が選ばれたようだ」
「つまり、直系の血を受け継いでいるのは、セレナ嬢ただ一人ということですか」
「そうなるな。血筋判定が行えない今、彼女が光の侯爵家の血を引いていると証明する方法は一つしかないそうだ」
「あるのですか?」
皆が心の中で思ったであろう言葉を紡いだのは、宰相だった。彼女が光の侯爵家出身であることさえ分かれば良いのだから、方法は何でも構わない。
彼女を傷つけるような方法であれば、レオンハルトが怒り出しそうだけれど。
「ああ。彼女が聖女だからこその方法……セレナ嬢本人の『聖女の紋』で確認するしかないのだ」
レオンハルト親子は「何だそれ」という顔をしている。一方で、宰相と私は王国に伝わる『御伽噺』を思い出していた。
「手の甲に浮かぶと伝えられている、あの紋ですか?」
「そうだ。あれは眉唾ではないのだと、魔導師団の団長から説明を受けた。光の侯爵家だけが神殿に縛られないのは、魔導師団の管轄になるからだそうだ」
知っているべきであろう総長に視線を向けると、「ああ!」と今思い出したような素振りを見せた。
「そういえば、犯人を生け捕りにする理由を説明された時に聞いた記憶があるぞ」
「物騒だな……」
ぽつりとつぶやいたレオンハルトに心の中で同意しながら周りを見渡すと、宰相や陛下は難しい顔をしていた。
「不明な点もまだ多いな。事故は偶然だったようだが、助けなかった者がいたこと。そして、神殿の関係者に犯人がいる可能性が出てきたこと。それは審判までに調べておくことにしよう」
「教皇と枢機卿はまだいらっしゃるのか?」
総長の言葉に皆が反応する。
「……そういえば、ガルザに向かうと言って昨日発たれましたな」
宰相が答えると、陛下と視線が合った。
「急使を出して呼び戻し、ガルザの調査を続けてもらいます」
私の言葉に、渋い顔をしていた陛下がしっかりと頷いた。
幼かった彼女の運命を狂わせた事件が、ようやく動き始めようとしていた。




