第38話 国王への報告
重厚な扉を抜け、威圧感の塊のような陛下の前に跪く。
百戦錬磨の騎士団長と言われる俺ですら、陛下の圧には勝てる気がしないのだから恐ろしい。
だが、俺はセレナを守ると決めた。必ず、彼女が不当な扱いを受けることだけは阻止してみせる。
そう意気込んでいたのも束の間、陛下の声が頭上から降ってきた。
「よい、面を上げよ。教皇、久しいな。枢機卿は痩せたか?」
「国王陛下へご挨拶申し上げます。枢機卿はよく働いてくれておりますので、心労で痩せてしまったのでしょう。ほほほ」
「国王陛下へご挨拶申し上げます。お気遣いありがとうございます。その節はお世話になりました」
どうやら、お二人は陛下と顔見知りのようだ。まあ、国のトップと神殿のトップが知り合いである可能性は高いだろうが、もっと深い関係がありそうだな。
「構わんよ。それで、辺境はどうだったのか話してくれるか」
陛下の言葉を受け、コンラートが辺境で起こったことを一通り説明する。
このあとは、陛下からの質問にひたすら答えることとなる。
「ふむ。その聖女見習いだった彼女が聖女として覚醒し、その翌日にはユリウスのいる前線へ送られたと……」
「……はい」
「なんという話だ。神殿側は把握していなかったのか?」
「はい、お恥ずかしながら……。ユリウス殿下とレオンハルト殿からご連絡をいただけなかったら、いまだに辺境は苦しむ患者たちで溢れ返っていたことでしょう」
「そうか。スタンピードを解決したのもセレナという聖女だとユリウスから聞いているが、レオンハルト、間違いはないか」
「……間違いありません。毒霧に侵され、死にかけの俺を救おうと全魔力を使って祈ったことで、土地まで浄化されたと報告を受けております」
「なるほど。そなたがそこまで肩入れする理由も分かる。……ふむ。神殿側は、今後の運営に関する話し合いが必要だな。国が介入しても問題ないか?」
「はい、よろしくお願い申し上げます」
神殿の聖騎士は騎士団から派遣される者も多い。辺境では国の騎士団が守り、神殿が治療を担う。それが王国の仕組みだった。
だからこそ、守ってもらう側の神殿と、治療を任せる側の国は、お互いに協力し合って共存しているのだ。
「聴取が終わったあとの審判では、神殿で治療を受けていた患者たちにも証言してもらえることになっています」
「おお、そうか。それならセレナ嬢が濡れ衣を着せられることも回避できそうだな」
「陛下、俺はセレナに命を救われました。民のために命を懸けて助けてくれた彼女を守る許可をください」
「ああ、そうだな。騎士団長としての仕事を全うするなら許そう。……よし、彼女は騎士団の管轄に置くか?」
「神殿側の許可をいただけますか?」
俺にしては珍しく、とても丁寧に言葉を選んで懇願した。ユリウスが俺だけに分かるようにニヤリとして見せたが無視した。教皇は目を細め、嬉しそうに微笑みながら頷いてくれた。
「はい、許可しましょう。セレナさんには後ろ盾がありませんからね。誰かが守って差し上げなければならないだろうと考えていたのです」
それを聞いた陛下が威圧感を緩め、一瞬だけ好々爺のような笑みを見せると、再び国王としての威厳をまとい、静かに告げた。
「セレナ嬢一人に、この国を支えさせるつもりはない。膿を出し、真に守るべき者を、今度こそ守れ」
「「「かしこまりました」」」




