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第35話 笑顔の約束

 神殿にお嬢ちゃんが来てから三日目の早朝。

 朝の祈りを終えた彼女は、残り少なくなった患者の治療を始めた。患者たちは「朝食の後でも良いんだよ」と優しく声をかけてくれているが、お嬢ちゃんはゆるく首を振って譲らない。


「朝食前には皆さんの治療が終わると思いますので、どうか治療させてもらえないでしょうか」


 そう上目遣いでお願いされては、誰一人として駄目だなんて言えないだろう。

 それに、初日とは違って神殿全体が協力体制にあったため、治療も後片付けも、あっという間に終わっていくのだった。


「セレナちゃん、ありがとう! 助かったよ」


「あ、いえ、治療が遅くなってしまいました」


「何言ってるんだ。セレナちゃんが来てくれなかったら、未だに完治せず、家族に迷惑をかけていたと思うよ」


「そうだよ、嬢ちゃん。君の力は、我々の希望だったんだ。本当にありがとう」


 患者たちや騎士たちが皆、笑顔で感謝の言葉をかけると、いつもよりふんわりと笑うお嬢ちゃんの美しさに、誰もが息を呑んだ。

 

「セレナ、もう治療は終わった。俺と王都に帰るぞ」


 慌てた様子のレオンハルト殿がお嬢ちゃんを背中に隠す。彼の気持ちはバレバレだったため、皆は温かい目で見守るのだった。


「それじゃあ、セレナちゃん。元気でな」


 治療や手伝いを終えた患者たちが手を振る。


「皆さんも、お元気で」


 皆が笑顔で手を振り合う。その穏やかな光景を見ていると、張り詰めていた気持ちがようやくほどけ、儂は「ふぅ」と息を吐いた。

 神殿を振り返った儂は、静かに佇むこの建物での生活を思い出していた。


「本当に助かりました」

 

 声のした方に視線を向けると、教皇聖下がお嬢ちゃんに頭を下げていた。

 

「神殿は必ず立て直します。王都でもどうかお力添えをお願いできますでしょうか」


 申し訳なさそうに背中を丸くして乞う彼に、お嬢ちゃんは静かに答える。

 

「私は皆さんが笑顔になってくだされば、それだけで十分です。そのためのお手伝いでしたら……今度はちゃんと休みながら頑張りますね」


 初めて見る、お嬢ちゃんのはにかんだ笑顔に、レオンハルト殿が彼女の頭を撫でる。


「そうだ、それで良い」


 嬉しそうに彼女を愛でていたレオンハルト殿が、急に儂に向かって視線を寄越した。


「トーマス殿、ひとつ頼みがある」

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