第34話 真の聖女
一足先に昼食を終えた私と枢機卿は、聖女セレナに声をかけるため、彼女たちが食事を終えるのを待っていた。
彼女は食が細いのか、大した量を口にしていなかった。これまでの神殿での扱いがどういったものだったのか、想像に難くない。
申し訳ない気持ちを抱えたまま、私と枢機卿はレオンハルト殿に世話を焼かれてはにかむ聖女を見守っていたのだった。
「おい、さっきから視線がうるさい。用があるなら話せばいいだろう」
「えっ? 教皇聖下、私にご用でしたか?」
「はい。セレナ様に話しておきたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「あの、私には敬語を使わなくて大丈夫です。その、敬称をつけられるのには慣れなくて」
「かしこまりました。では、セレナさん、でよろしいですか?」
「あ、あの、敬語も……」
「ああ、失礼しました。私は普段からこの話し方なもので……ご期待に応えられるよう、気をつけますね」
苦笑いする私と枢機卿に、レオンハルト殿が呆れたように口を開く。
「……セレナに何か用があったんじゃないのか?」
「あっ、そうでした」
私と枢機卿は、そろって深く頭を下げた。
「セレナさん、本来であれば、このような負担を、聖女になりたてのあなたに背負わせるべきではないことを、私どもは理解しているつもりです」
枢機卿も静かに続ける。
「今回拘束された者があまりにも多く、神殿の機能がほぼ停止しております」
「そうだな。馬車が足りないと催促が来ていた」
レオンハルト殿が頷きながら肯定してくれる。
「こちらの神殿で指揮を執っていた者たちはもちろんのこと、聖女や聖女見習いも全員が含まれておりました。そして神官、炊事係、事務を担っていた者のほとんどが拘束されることになりました」
「新たな人員を各地の神殿から集めておりますが、到着までには数日を要してしまいます」
「それまでの間、どうしてもセレナさんのお力を借りなければなりません」
「大変申し訳ありません」
私と枢機卿は、もう一度深々と頭を下げる。
「あ、いえ、謝らないでください。私にお手伝いできることでしたら、何でもやりますので」
「セレナ、何でもは駄目だ。ちゃんと休憩も挟んで、食事も摂って——」
「団長、聖女様は分かっておられますよ。教皇様、後程で構いませんので、詳しい日程をお教えいただけますでしょうか」
レオンハルト殿の会話を遮って話しかけていらしたのはコンラート殿だった。この神殿に到着してから、熱心に、手際よく仕事をこなす姿に感心していた。
「はい、もちろんです。これからでも構いませんよ」
「では、あちらの仮設テントへお願いします」
私は大きく頷き、挨拶をしようと振り返る。
「セレナさん、一度失礼しますね。またあとで会いましょう。午後もよろしくお願いします」
「皆さんお忙しいのですから、どうぞお気になさらないでください」
彼女らしい返答に微笑むと、レオンハルト殿が苦笑いしながらセレナの背中に手を回して神殿の中に戻っていった。
「……だからこそ、あなたを——あなたこそを、真の聖女とお呼びしたいのですよ」
私はその背中を見送りながら、静かに微笑んだ。




