第33話 支え、支えられ
神殿の庭先や広場には、大鍋がいくつも並び、湯気が太陽の眩しい昼の空へ立ち上っていた。
その周りでは、騎士たちが笑いながら野菜を切り、火を起こし、スープをかき混ぜている。
それを見たセレナは驚いて、振り向いて俺に尋ねた。
「レオ様、これは……?」
「あー、実はな。事情を聴くために、料理人たちまで王都へ連れて行くことになってな。神殿には料理人が一人も残っていなかったんだ」
「一人も……」
「ああ。だから俺たちで作ることにした」
俺たちの話し声に、鍋をかき混ぜていた騎士たちが振り返って笑顔で挨拶をしてきた。
「おはようございます、聖女様! もう起きられたんですね!」
「野営で鍛えた料理の腕を振るわせてもらいますので、たくさん召し上がってくださいね!」
騎士たちの満面の笑みに、ふわっと優しい微笑みを返すセレナ。俺が軽く睨むと、騎士たちは慌てて視線を逸らした。それでも、セレナの近くを離れようとはしなかった。
この騎士たちは、前線でセレナに治療された者たちなのだ。
「あの時助けてもらった恩返しです!」
「今度は俺たちが働きます!」
他の騎士たちも口々に同意する。
「任せてください!」
「腹が減ってちゃ治るもんも治りませんから!」
元々、気の良い者たちだ。それに、今回はセレナに恩を感じて、遠い辺境までわざわざ志願して来てくれた。
セレナは少し戸惑いながらも、一人ひとりに視線を合わせてからしっかりと頭を下げる。
「ありがとうございます……皆さんにまで、お手伝いしていただけるなんて。こんなことをしていただくのは、初めてです……」
これまで一人で奮闘してきた彼女は、人に尽くされることに慣れていないことが見て取れた。
セレナの想いと行動が、彼らを動かしたのだ。そのことを、彼女自身にも知ってほしかった。
「ああっ、まだそんなに動いては……」
慌てるセレナを他所に、昨日まで患者だった人たちが、パンを配ったり、食器を運んだり、子どもや高齢者を席へ案内したりしていた。各々が、自分にできることを始めたのだ。
「聖女様、無理はしませんから安心してください!」
「そうですよ! 皆でやった方が、早く終わりますしね!」
セレナ一人で回していた神殿が、皆で支え合う場所へ変わっていくように感じた。
セレナはまだ、呆気に取られたまま、この光景を受け止めきれていないようだった。
だが、もう一人で抱え込む必要はないのだと知ってほしかった。
皆に支えられ、成長したセレナが、いつかは俺にも「助けてください」と言ってくれる日が来るのだろうか。そんな小さな願いを胸に、俺は穏やかに笑うセレナを見つめていた。




