第31話 神殿に舞い降りた、希望の聖女
神殿に到着し、人々に囲まれたセレナは、移動の疲れをもろともせずに、治療を開始した。その姿はまるで、つい先日まで、ここで痛みを消してくれていた彼女のままだった。
怪我の具合を見ながら、患者一人ひとりの腕をさすり、優しく声をかける。
「大丈夫ですよ、すぐに痛みを取りますからね」
「お、お嬢ちゃん……戻ってきてくれたのか」
「はい。お待たせしてしまって、ごめんなさい」
「謝ることなんてねぇ……生きてりゃあ、また会えると思って待っておったよ」
聖女に覚醒した彼女は、神々しい光を放ちながら、患者たちの傷を次々と治していった。
「腕が動く……」
「本当に治った……!」
治療の終わった者たちは、歓喜の声を上げ抱き合って泣いている者たちまでいた。
そして、太陽が沈む頃には、神殿にいた患者のおよそ三分の一を治療し終えていた。
いつもの如く、無理をしているセレナに、そろそろ声をかけて休ませたいところだ。
誰よりも他人を優先する。その優しさが、この少女の危うさでもあるからな。
「セレナ、魔力は大丈夫なのか? 少し休んだらどうだ」
「レオ様、私は大丈夫です。マティアス様が魔力制御を教えてくださいましたので、効率良く治療できています」
「お嬢ちゃん、レオ殿のおっしゃる通りじゃぞ。ここにいる患者は、すでに半年以上療養しておる者ばかりじゃ。焦らずとも治ると分かっていれば皆待ってくれる」
トーマスも説得に協力してくれた。セレナが頑固なことは、同室だった者たちは皆知っているからな。
「そうだよ、嬢ちゃん。俺たちはこれまでも耐えてきたんだ。まだいくらでも耐えられる。顔色を見る限り、嬢ちゃんは少し休んだ方が良い」
まだ治療を受けていない患者の一人が、セレナを見て賛同する。未だに痛みがあるだろうに、小さな少女が必死に治療する姿を見て、守りたくなったのだろう。
そんな中、教皇が治療を終えた患者たちの笑顔を見渡していた。
この神殿で、患者たちがこれほど晴れやかな笑顔を見せる光景を、俺は初めて目にした。
彼は静かに目を閉じると、深く息を吸い、セレナへ向き直る。
「聖女セレナ。私と枢機卿で残る者たちの痛みを少しですが、抑えておきますから、どうか食事を摂り、休んでください。私たちは、真の聖女であるあなたのように瞬時に治療することはできませんので、彼らの治療も任せることになると思います。どうかよろしくお願いします」
教皇と枢機卿がセレナに向かって頭を下げた。コンラートの報告によれば、彼らも患者たちの怪我が以前の聖女による治療によって痛むことに対して心を痛めていたと報告を受けている。
「えっと、痛みが少しでも減るならお願いしても良いですか? 俺たちはさっきまでいた聖女に治療されると激しく痛むから、あまり頼りたくはないが、それで嬢ちゃんが安心できるなら……」
「俺にもかけてもらえるだろうか? あんなに小さな体で、酷い怪我を治しているんだ、疲れるだろう。あの子が安心して休めるなら、俺も役に立ちたい」
こうして教皇と枢機卿が痛みを抑える魔法をかけて回った。
安心して気が抜けたのかセレナは、軽い食事を摂ると、よほど疲れていたのだろう、俺にもたれかかり、すぅすぅと寝息を立て始めた。
俺は眠ってしまったセレナを支え、小さな体をそっと抱き上げた。
「……本当に、お疲れ様」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
今日だけで、何百人もの命を救った少女は、安心しきった子どものような寝顔を見せていた。




