第30話 聖女見習いのカリスマ
教皇である私と枢機卿は、コンラート殿や患者たちの手助けもあり、必要な書類をすべてを揃えることができた。
神殿の経営に携わってきたローレンツたち全員を拘束し、王都へ護送する手続きを終えたところだった。
これでやっと、患者たちの治療に集中できる。そう思った矢先のことだった。
「セレナ、走るんじゃない! まだ本調子ではないんだぞ!」
聞き覚えがある声——レオンハルト殿だ。優しき聖女のセレナが患者たちを心配して、辺境に戻って来たのだろう。
「レオ様、痛みは誰しも辛いものです。一刻も早く、その苦しみから救って差し上げたいのです」
ああ、この子は神の教えを忠実に守り、人を愛することのできる娘なのだと改めて悟った。
「お嬢ちゃんじゃないか! 元気だったかのう」
「トーマスさん、お怪我の具合はどうですか? 痛むのでしたら、すぐに治療を施します」
真剣な顔で患者と向き合う健気な小さな聖女を見て、私は己の至らなさを思い知った。
神殿を正すことも大事だが、人の痛みに寄り添うことこそが最も尊いのだと、この子は知っているのだ。
「儂はお嬢ちゃんのおかげで完治したんじゃよ。ありがとうなあ。じゃが、ここにはまだ痛みに苦しむ者たちがたくさんおるんじゃ」
「トーマスさん、案内してください!」
病室に到着すると、セレナを見つけた患者たちが、泣きながら彼女を囲んで訴えた。
「ああ! 俺の祈りが届いたのか! 頼む、助けてくれ!」
「嬢ちゃん、よく帰ってきてくれたなあ! ありがとう、ありがとう! これで安心して眠れるよ」
セレナが帰還したことを知った患者たちが、怪我を押してでも彼女の元へ集まり、祈るように手を合わせていた。
まるで、彼女自身が神であるかのように。
ああ、彼女こそが、この神殿を支えていた、たった一つの光だったのだ。
患者たちの言葉と行動を目の当たりにし、確信する。
私たちも彼女に負けてはいられないと、患者たちへ声を掛ける。しかし、その視線は誰一人として私たちには向かなかった。
患者は皆、聖女セレナに治療してほしいと、ただ彼女にのみ懇願するのだ。
「枢機卿、これは……どうしようもないのでしょうか」
「彼女の存在は、この神殿の患者にとって、あまりに大きかったのでしょう。治療には信頼関係も大切ですからね。今は彼女に任せるしかないでしょう」
優しい眼差しで聖女セレナを見つめる枢機卿に、私は大きく頷くことしかできなかった。




