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第29話 守るという約束

 教皇とコンラートが辺境へ出発して、四日目の昼。

 ユリウスが昼食の誘いにきた。


「やあ、眠り姫と大男。ご機嫌いかがかな?」


「……まあまあだな」


「暗いなあ、レオンハルト。マティアスが言うには、もう少しで目を覚ましそうなのだろう? もう大丈夫だとあれほど言われたのに……君はセレナを随分と気に入っているようだな」


 にやりと嫌な笑顔をこちらに向けるユリウスに対し、のらりくらりとかわしても、答えを聞くまで諦めない性格を知っている俺は、一言だけ答える。

 

「……守るべき存在だ」

 

「ふうん? それだけか?」

 

 何と答えて良いか分からずに沈黙が流れる。ユリウスを納得させる答えが必要だった。

 

「彼女は、まだ幼いだろう」

 

「なんだ、十代なんてあっという間に大人になるさ」


「……」


 俺はそれ以上答えなかった。楽しそうなユリウスに背を向け、セレナを見つめる。

 まだ礼すら言っていないのだ。早く目覚めて、声を聞かせてほしい。俺はひたすら眠り続ける少女に、祈りを捧げるのだった。


 ★★★


 さらに翌日。願いが届いたのか、セレナが目を開いた。


「ん……っ」


 俺は椅子に預けていた体をガバッと起こし、慌ててセレナの顔を覗き込む。


「セレナ! 起きたのか? 体はどうもないか? おい、誰か! 医者を呼べ!」


 外に向かって声を上げると、部下が「はっ!」と返事をして走り去る音が聞こえた。

 安心してセレナに視線を戻す。


「待ってろよ、すぐに水を汲んでやるからな」


「あり、がと……ゴホッ」


「無理して話さなくていい。あれから長い間眠っていたんだ。喉がカラカラになっていても仕方ない」


 俺は左腕でセレナの上半身を支え、右手にコップを持ってセレナの口元に当てる。

 ゆっくりと水を飲み終えたセレナは、小さく息を吐き、俺を見上げた。


「レオ様、あれからどれくらい経ちましたか? 神殿の患者さんたちはどうしているのでしょうか」


 起きてすぐに他人の怪我を心配し、急に不安そうな瞳になったセレナに、困り顔で答える。


「セレナ。辺境の神殿は、教皇聖下と枢機卿が自ら足を運んで調査をしてくれている。だから心配する必要はないんだ」


「ですが、あそこにはたくさんの患者さんたちが……」


「……まさか、まだ体調も万全ではないのに、辺境へ帰ろうとしているんじゃないだろうな?」


「レオ様、私は辺境の患者さんたちを放っておくことはできません。どうか、帰らせてもらえませんか」


「だ、駄目だっ! あんな場所へ二度と戻すものか」

 

「ですが、神殿には、まだ苦しんでいる人がいます」


「ははっ、二人とも頑固だな。お似合いだぞ」

 

 扉の前でしばらく様子をうかがっていたユリウスがからかってきた。


「セレナは辺境へ帰りたいのかい?」


「はい、帰りたいです。皆さんが苦しんでいます」


 俺はむっとした顔を隠さず、ユリウスを睨む。

 セレナは俺を見つめる瞳を潤ませながら、辺境に戻りたいと必死に訴えている。

 そんな一歩も譲らない俺たちを見たユリウスが、「名案だ」と声を上げた。

 

「レオンハルトはセレナが心配なんだろう? それなら、お前が一緒に行って守れば良いじゃないか」


 俺が一緒なら安心か。いや、それだけではない。セレナがあの神殿でどれほど傷ついてきたのかを思えば、一人で戻す気にはなれなかった。

 だが、確かに俺が後ろで見守っていれば、神殿のやつらに何も言わせないようにすることはできる。


「……百歩譲って、それなら」

 

 セレナを一人で行かせるくらいなら、俺が守る。

 そう心に決めた俺は、静かに頷いた。

 

 こうして俺とセレナは、再び辺境の神殿へ向かうことになった。

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