第27話 神殿調査開始
王命を受けた私たちは、五日かけて辺境の神殿へ到着した。
同行するのは騎士団副団長コンラート殿と騎士たちだ。レオンハルト殿は聖女セレナの護衛を譲らず、王都に残ったと聞いている。
ユリウス殿下も辺境まで同行されるおつもりだったと聞く。だが最終的には王都で調査の指揮を執ってくださることになった。先日までスタンピードの前線にも立っておられたという。第二王子というお立場でありながら、自ら民のために剣を取られるお方。そのお人柄には、自然と頭が下がる思いだった。
思考を巡らせているうちに、馬車は神殿の入り口へ差し掛かった。すると、一人の神官が制止に入った。
「申し訳ありませんが……その、今は神殿で新しく患者は受け入れていないのです」
申し訳なさそうに頭を下げるのは、おとなしそうな神官だった。拒絶するように上から命令されたのだろう、視線は泳いでいるし、びくびくしている。
「そうですか。私どもは治療を受けに来たわけではありませんので、入れてもらうことはできませんか?」
優しく訴えると、首を傾げながら必死に考えているようだった。
「おう、どうしたのじゃ?」
神官の後ろから、優しそうな老人が顔を出した。
「トーマスさん、こちらの方々が、治療を受けにきたわけではないから入れてほしいとおっしゃるのです。私はローレンツ様から、『治療を求めてくるものを追い返せ』と言われたのですが、こちらの方々を神殿にお通して良いものか、迷っているのです」
「それは入れて良いのではないか? 治療を求めていないのだろう?」
「……はい。そうですよね。トーマスさん、ありがとうございます。どうぞ、お入りください。どなたかへ繋ぎますか?」
「いえいえ、丁寧にありがとうね。案内は私たちの方で探すから大丈夫だよ。お務めご苦労さま」
このトーマスという老人は、何か知っているのではないだろうか。しかし、神殿の者であった場合は少し面倒だ。
「……教皇様?」
私に視線を向けた老人は、私を知っているようだった。
「静かに。今日はただの神官として来ました」
私が小声で制すと、彼は小声で話しかけてくる。
「どうやら手紙を読んでもらえたようじゃな。今は一旦身を潜めた方がいいじゃろう。儂らの部屋に来ると良い」
トーマスが私に「あっちじゃ」と案内する。神殿の中は怪我人で騒然としており、私たちのことなど誰も見向きもしなかった。
「あの部屋じゃ。あそこでセレナは夜中まで働いておった。この部屋だけではないぞ。患者は皆、知っとる」
何ということだ。本当だろうかと疑うも、手紙の主であるトーマスが、すべてを見てきたことに強い信憑性が感じられた。彼の怪我は完治しているようだが、レオンハルト殿のお願いを聞いて残ってくれているのだろう。
「トーマスさん、そんなことが本当にあったのですか?」
副団長は全く事情を知らないらしく、部屋に着いてからは細かく質問してくれていた。おかげで、私たちは辺境の神殿がどうなっているか、隅々まで知ることができた。
「隣の部屋に行けば、患者の実態は分かるじゃろう。そなたたちも治療の一部始終を見たいと思うはずじゃ。今日は終わってしもうたから、明日の昼前まで隠れていれば良い」
「こちらにお邪魔して、よろしいのですか?」
「もちろんじゃ。お嬢ちゃんに助けられた者ばかりじゃし、彼女が虐げられていたことを患者全員が知っとる。辺境の地では、怪我人は追い出されると生きていけん。だから助けてやれなかったが、怪我が治った今、お嬢ちゃんに恩を返したいのじゃ」
「セレナちゃんの待遇が変わるなら、俺たちは全力で手伝うぜ」
「証言ならいつでもする。俺たちは神殿とセレナちゃんを、ずっと見守ってきた」
「あんなに虐げられているのに文句も言わず、四六時中痛みを取ってくれていたんだ。今度は俺たちが助ける番だ」
新たに聖女になった少女は、かなり人望が厚かったらしい。そして『一人の少女が、四六時中痛みを取ってくれた』という証言は、間違いなく、この神殿の運営がいかに杜撰であるかを物語っている。
私は神殿のトップとして、もしこれが事実ならば見過ごすわけにはいかない。この目で確かめ、必ず真実を明らかにしようと心に誓った。




