第26話 いくつもの事実確認
トーマスから手紙が届いた翌日。王都の神殿にたまたま滞在していた教皇と枢機卿が慌てた様子で王宮へ駆け込んできたらしい。
ユリウスからは、彼らが王に謁見すると聞かされていたため、辺境の神殿が関係しているのだろうと軽い気持ちで待機室へ案内した。
「ゆ、ユリウス殿下っ、お、いただきましたお手紙の内容は、間違いないのでしょうかっ?」
「ああ。私の後ろにいる、近衛騎士のレオンハルトがスタンピードの前線で大怪我を負ってな。辺境の神殿で世話になったのだ」
「そ、そうでしたか……。レオンハルト殿、陛下への謁見の前に、この手紙の内容が見聞きしたものと同じかの確認をしていただくことは可能でしょうか?」
「……俺は構わんが」
ユリウスをチラリと見やると、前を向いたまま頷いたので手紙を受け取る。
神殿でのセレナの扱いを中心に、現在の辺境の神殿は不正があり、その証拠を持つ者がいるといったことが書いてあった。
「神殿とは、聖女見習いをあのように扱う場所なのかと思っていたが、辺境の神殿だけが特殊だったのか?」
「いえいえ、特殊どころか! 神殿は連携を取り、しっかりとした教育を受け、信仰を学ぶ場所でもありますので、そういった扱いがあるはずもありません!」
首を傾げたユリウスがさらに突っ込む。
「そうなのか? 神殿からセレナが前線へ送られてきた時の彼女の一言目は、『治療できるか分かりませんが、痛みを取ることはできます』だったが。『治療の仕方は教わっていませんので』とはっきり聞いたのだが、セレナが聞いてなかっただけと言うのか?」
「い、いえ。辺境の神殿は歪んでいるのでしょう。場所も遠く、それを訴える者もいなかったことから発覚が遅れたと思われます」
「改善する気はあるんだな? 俺はセレナに命を救われた恩があるんだ。神殿が変わらない限り、あそこへセレナを戻すことはできない」
「……えっと?」
教皇が戸惑ったように首を傾げる。
「まあまあ、教皇聖下。それは置いといて、すぐに謁見できるように整えてありますから、質問はそこでよろしいでしょうか?」
「はい……。これが事実であれば、神殿の在り方から指導し直さなければなりません。このような場を設けていただき、ありがとうございます」
教皇と枢機卿は、深々と頭を下げた。民を助けたいという気持ちは本物なのだろう。俺はユリウスをチラリと見て、謁見の間へ向かうために部屋の扉を開け放った。
★★★
謁見の間では、ユリウスから投げかけられる問に細かく答えるだけだった。トーマスからの嘆願書にある項目一つひとつを確認しながら、現状を説明する形だ。
「これで最後です。本来神殿では、祈りの時間が設けられているはずですが、それすら行われていなかったようですね」
ユリウスが話し終わると、長い沈黙が続いた。
その静寂を切り裂くように陛下が話し出した。
「神殿側は、どう対処するつもりだろうか。証拠を押さえるためにも、一度神殿には向かうことになると思うが」
「まさか、こんなに酷い有様とは思わなかったもので……」
「ええ、準備に少し時間をいただければと思います」
教皇と枢機卿が呆然としたまま言葉を交わしていた。
「嘆願書の内容が事実であれば、確かに大変なことであるが、レオンハルトや患者側といった、片方の証言だけでは裁けぬ。ゆえに、神殿側と共に事実確認をする必要があるだろう」
冷静に判断なさった陛下に、教皇と枢機卿は頭を下げて感謝していた。
今回の謁見は記録官同席で行われたため、きちんと記録が残る。俺が話したことも、神殿側が話したこともすべて記録されるため、解決のために何かしらの行動を起こさなければならないのだ。
「セレナという聖女は、今どこにいるのでしょうか?」
教皇に連れ戻されるのではないかと、一瞬だけ身構える。
そんな最中、国王がふと思い出したように話し出した。
「そういえば、聖女セレナには婚約者など、おるのか?」
俺の体は勝手に「ビクッ」と震えた。何か言わなければと思うが、言葉が出てこない。少し間を置いて、やっと出た言葉が……。
「……その、まだ早いかと」
「ほう……まだ早い、か」
陛下が意味深に頷く。
「父上、そこではありません」
ユリウスが吹き出しそうになりながら口を挟む。
まるで保護者のような台詞が口から漏れてしまった。焦る俺に対し、ユリウスがニヤついている。からかっているのか、腹が立つな。
ふと顔を上げると、陛下もユリウスと同じ顔でニヤけていたが、次の瞬間には威厳あるお顔に戻っていた。陛下にまで揶揄われてしまった。
視線を逸らせば、教皇も枢機卿も、どこか温かな目で俺を見ていた。
……勘弁してくれ。




