第23話 眠れる聖女のために
セレナが魔力を使い果たし、スタンピードが終息してから一週間が経った。
俺は、眠り続けるセレナの傍らで、神殿の調査資料や部下からの報告書などをまとめていた。この二ヶ月の間に神殿で自分が見聞きしたことを書き出し、提出できる形にする。
「まだ目覚めないんだね」
集中して作業をしながらも入り口に意識を向けていたからユリウスが入ってきたことには気づいていた。だが、特に話すこともなかったので放置していると、少しして彼の方から話しかけてきた。
「ああ。全魔力を注いだのだろうからな……。さすがにすぐには起きないだろう」
「あの時のレオは、本気で死にそうだったからね。皮膚は爛れていて、誰だか分からないほどだったし」
「そうだろうな。毒霧の中で目を開けていたから、失明しかけてもいたしな」
「……おい。セレナがいなかったら、レオが——」
「分かっている。やり過ぎたと反省しているが……。またあの状況になったならば、俺は同じ行動をしたと思う」
怒られると思っていたのに返事が返ってこないことに違和感を覚え、ユリウスに視線を向けると、苦虫を噛み潰したような変な顔をしながら俺に向かってつぶやいた。
「……ぞっこんじゃないか」
「何の話だ?」
ユリウスは返事をせず、呆れたように肩をすくめた。
二人で沈黙の時間を過ごしていると、少し前から部屋にいた副団長のコンラートが呆れ顔を隠しもせず、しかし会話には触れずに仕事の書類だけを差し出してきた。
「団長、こちらが追加の書類になります」
「ああ、分かった」
「……報告があります」
「ああ」
「団長が『根源』に聖なる短剣を突き刺した場所なのですが、聖女様のお力のおかげで、土壌の毒まですべて解毒されておりました」
「ははっ、さすがだな。小さな聖女様は、レオを助けるつもりが、国を救ってくれたぞ」
「……そのせいで、未だに目を覚まさないのだ。素直には喜べない」
「レオは相変わらず真面目だな。セレナが起きてから、礼を言えばいいじゃないか。今はマティアスの言葉を信じて、眠りから覚めるのを待つしかないだろう」
「頭では分かっているが……。あんな小さな少女に、命を懸けてまで助けられるとは思っていなかったからな」
「神殿で仲良くなったのか?」
「いや。俺は一方的に痛みを消してもらっていただけだ。あの子は深夜だろうが早朝だろうが、痛みに苦しむ患者のもとへ駆けつけていた。自分のことは後回しでな」
ユリウスの表情が険しくなる。
「……そんな子を神殿は放っておいたのか」
「何もしていないに等しい。聖女たちの魔法は患者を苦しめるだけだった。あれでは何のための神殿か分からん」
「調査は?」
「同室だった者たちにも頼んである。いずれ証言も集まるだろう」
ユリウスは小さく息を吐いた。
「相変わらず抜かりないな」
「セレナが正当な扱いを受けられるようにしたいだけだ」
「……そうだな。セレナのため、な」
苦笑いを浮かべたまま報告書に視線を落としたユリウスを見て、彼も動いてくれる気があるのだと、少し安心したのだった。




