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第20話 浄化するために

 目の前が真っ暗になり、体が重くなった。毒の霧にでも覆われたのだろう。あまり大きく息を吸わない方が良いとは思うが、先に部下たちを下げなければ被害は大きくなる。


「隊列、下がれ! 恐らく毒霧だ。マティアス、任せたぞ!」


「はっ。お任せください」


 毒に最も詳しい治療師であるマティアスになら任せられる。


 俺の手には、セレナが力を注いでくれた短剣が一振り。腰に剣を帯びているが、この状況で振り回せば誰かを傷つけてしまうだろう。

 今の俺にできることは、あの『根源』に、この短剣を突き刺すことだ。そうしなければ、セレナを危険な目に遭わせることになる。


 ……恐らく、『根源』までの距離は八メートルほど。俺の足で八歩も進めば辿り着くだろう。

 気合を入れて、足を一歩踏み出す。くっ、体の重さが倍になったようだ。動くたび、呼吸するたびに毒が回っていく。


 ——それでも、俺がやらなければ。


 勢いをつけて残りの距離を突き進んだ。


「がはっ!」


 目の前にあるのが『根源』だろう。あまりに濃い毒に、肺が耐えられずに血を吐き出した。


 ……まだだ。まだ力尽きるわけにはいかない。この短剣を突き刺すまでは。

 俺は霞む目を無理やり開き、短剣を見た。短剣は、俺の手の中で美しく輝いているではないか。


 そして、すぐ目の前に『根源』はあった。

 セレナの聖なる力が宿った短剣の光が、『根源』の正しい位置を教えてくれていた。


「おりゃあ——!」


 最後の力を振り絞って、俺は短剣を『根源』に突き刺した。

 その瞬間、『根源』が爆発したかのように、バラバラに砕け散った。


 ★★★


「レオ様——!」


 泣き叫ぶセレナの腕を掴み、必死に引き留める私は、彼女の取り乱し方を見て、逆にかえって冷静でいられた。大事な気の合う幼馴染が助からないかもしれない……。

 だが、それ以上に悲しむのは、きっとこの幼い少女だろう。そう思うと、彼女を守ってあげなければという気持ちになった。


「おりゃあ——!」


 レオンハルトの叫ぶ声が聞こえた。

 その瞬間、『根源』の欠片が、四方に飛び散った。


「レオ様!」


 『根源』の近くで倒れていたのは、間違いなくレオンハルトだった。

 まだ毒霧の残るその場所へ、セレナは走り出してしまった。


「待って、セレナ!」


「殿下、なりません!」


「だが、セレナがっ!」


 マティアスが私の前に立ちはだかる。こういう時に、王族という立場は面倒なものだ。

 セレナは、止めようとする騎士たちの間をすり抜け、レオンハルトの倒れている場所へ辿り着いてしまった。


 毒霧の中に入ってしまった騎士たちの顔は爛れ、目が見えにくくなっている者もいた。まだ若い少女にはあまりに酷な光景だろうと思ってしまう。

 当の本人は、なりふり構わず行ってしまった。


 マティアスに『おとなしくしていてください』と釘を刺された私は、幼馴染の無事を願いつつ、そんなことを考えていた。

 すると、辺り一帯が真っ白な光に包まれたのだった。

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