第19話 根源発見
休憩するレオンハルトたちを、突然襲うかのように現れた『根源』は、奥に向かって黒く濁った空気を漂わせていた。まるで、前から風が吹いて、後ろに流されているかのように。
「やはり、セレナを避けているように見えるな」
「確かにそのように見えるが……。『根源』は移動できないのだろうか」
「移動できないんじゃないか?」
「決めつけるのは良くないぞ、ユリウス」
レオンハルトが飛び退いた場所から前に出なければ、襲われることはないようだと安心する私に、レオンハルトが苦言を呈する。
慎重だが思い切りのある彼のことだ。何か考えがあるのだろうか。
「レオ、それではどうするんだ? 『根源』を見つけただけでは何も解決しないぞ」
「分かっている。ただ、下手に踏み込むには……」
部下を失う痛みを知るレオンハルトは、誰より慎重だった。
「レオ様、魔物は出てこないですか?」
考えるレオンハルトに、セレナが問いかけた。
「ん? ああ、そうだな。あれに近づいたら分からないが、今のところは出てくる気配はないな」
魔物が出てこなければ、前線で戦う他の騎士たちは体を休めることができる。まさか、セレナがいるから魔物が出てこられないのだろうか?
同じことに気づいたのか、レオンハルトと目が合った。
「そうであれば、少し安心ではあるが……」
「誰かちょっかいを出してみるまでは分からないな」
「少し休んだら、あれに短剣を突き刺してみましょうか」
「魔物が溢れてきたらどうするんだ?」
私たちの会話を聞いていた騎士たちが手を挙げながら声を上げた。
「そしたら俺たちが倒すさ!」
「聖女様に格好いいところを見せないとな!」
「「「ガハハハ!」」」
そうだ、そうだと賑やかに笑い合う彼らに、私もレオンハルトもホッと息を吐いた。まるで息が詰まっているようだったが、今はすっきりとしていた。
「そうだな。せっかく猛者ばかりを連れてきたんだ。活躍してもらわねばな」
ニカッと笑ったレオンハルトに、セレナが袖を引いて意識を向けさせる。
「どうした、セレナ」
「レオ様、短剣に私の力を込めたらどうなるのでしょう?」
「……確かに、やる価値はあるな。それで『根源』の力が弱まれば、一時的に魔物が溢れ返ったとしても、ここだけで抑えられる可能性は高い」
頷いたセレナは、『根源』をじっと見つめていた。
「セレナ、何か気になるのかい?」
一点を見つめ続ける彼女の視線が気になって聞いてみた。
「ユリウス殿下、『根源』の黒い枠……? 切れ目があるの、見えますか?」
「「切れ目?」」
レオンハルトと声が重なったが気にせず、セレナの言う『切れ目』を探す。
「あった……本当だ、『根源』の縁と空間との間に『切れ目』が見えるぞ」
「……私には見えないな」
「ユリウスに見える必要はないだろ? 俺が行くんだから」
呆れた顔をするレオンハルトに、私は呆れた顔を返した。
「お前が行ったら、誰が指揮を執るんだよ」
「副団長がいるだろ。コンラート、後は頼んだぞ」
「だ、団長! 何かある前提で言わないでくださいよお!」
「大丈夫だ。殿下が尻拭いはしてくれるさ」
ニヤリと私に向かって笑うレオンハルトに、ため息を吐きながらも手のひらをひらひらと振ってみせた。
「ああ、分かっているよ。適任なのがレオンハルトなら仕方ない」
「決まりだな。よし、セレナは殿下の後ろにいるんだぞ」
レオンハルトを見つめる彼女は、ふるふると頭を横に振った。
「いや……」
「俺は強いから大丈夫だぞ」
「私の力を込めるのだから、私も近くにいたい」
自分にも責任があると言っているのだろうか。
「セレナ。お前が怪我をしたら皆が困る」
「うう……」
「俺は必ず戻る。その時は治してくれ。だから、殿下と下がっていてくれるか?」
セレナは祈るように短剣へ聖なる力を注ぎ終えると、レオンハルトに短剣を渡しながら見つめ続けた。一生懸命に最善を考えているのだろう。
「……」
レオンハルトをじっと見つめたまま、コクリと頷いたセレナの頭を彼が優しく撫でた。「大丈夫だ」と言うように。
心細そうなセレナを促し、私は一緒に『根源』の位置から下がった。
——その瞬間、辺りは暗闇に覆われるのだった。




