第17話 無意識の聖なる光
セレナは最前線の騎士たちと共にいた。その後ろには、あたふたとしている戦闘力皆無の治癒師たちの姿があった。
「で、殿下! どうか聖女様を下げるよう命令を下していただけませんでしょうか!」
治癒師の一人が私を見つけ、慌てて走り寄ってくると、身ぶり手ぶりで説得しようとしてきた。
「マティアスは何と言っている?」
私はバタバタと集まってくる治癒師たちの勢いに驚きながらも、平静を装って問い返す。すると、困った顔をした治癒師たちが、小さな声で返答した。
「我らが治癒師長は『彼女の好きにやらせてあげてほしい』と言うのです。こんなにも危険な最前線で、小さな少女が走り回るのを見て、止めてあげないなんて、あんまりでしょう!」
私がふと顔を上げると、駆け回るセレナが嬉々として治癒を施している姿が目に入った。
「……楽しそうだな」
「「「えっ?」」」
治癒師たちは驚いたように顔を上げ、セレナを見つめる。
そこには、汗をキラキラと振りまきながらも、満面の笑顔で治癒を行う、美しい少女の姿があった。
「本当ですね、とても楽しそうです」
「あんな笑顔を見せられては、止めろとは言えませんね……」
治癒師たちが口々に感想を述べては納得しているようだった。
「あ、レオンハルト殿ですね」
セレナを一生懸命に諭しているレオンハルトが目に入った。ずいぶんと必死に見える。
「レオンハルトは彼女のことばかり気にしているな。私への挨拶も無かったんだ」
つい独り言をつぶやくと、戻ってきたマティアスに「嫉妬ですか?」と言われた。
「はあ? 嫉妬……?」
「はい」
「私が、セレナに?」
「え?」
「は?」
「レオンハルト殿に、ではなく?」
「え?」
「……」
私とマティアスの会話に、周りの治癒師たちは必死に口元を押さえて笑いをこらえていた。私は頬を赤く染めつつも、はっきりと言い直した。
「私が嫉妬なぞ、するわけがないだろう」
「……はい、その通りですね」
温かな視線で頷くマティアスに、気まずさを感じながらも視線を逸らしてセレナとレオンハルトを眺めた。
セレナが前に進もうとしている。なぜ、戦えない彼女が前に進めるのだ?
「——おい、セレナとレオンハルトの周りだけ、魔物が少なくないか?」
「……本当ですね。魔物が避けているように見えます」
「セレナには申し訳ないが、レオンハルトと彼女がいれば、根源を探せるのではないか?」
「「「…………」」」
セレナとレオンハルトが前線に立ったその瞬間から、長く膠着していたスタンピードは、静かに均衡を崩し始めるのだった。




