第16話 レオンハルトの叫び
慌てながらも最前線へと辿り着いた私たちは、その光景を唖然として見ていた。
「な、何が起こっているんだ?」
「先日、仕留め損ねたグリズリーが仲間を連れて戻って来たのでしょうか」
「恐らくな。あれはスタンピードとは関係のない森の魔物だから、仕返しに来たのだろう」
私たちはさらに前へと進む。一番後ろにいた指揮官に声をかけると、彼は目の前の光景を信じられないという顔でつぶやいた。
「あれだけ苦戦したグリズリーが……」
「騎士たちの動きも良いからだろうな」
「はい、怪我人をその場で治癒しているからか、騎士の動きに無駄も怯えも無いからだと思われます」
「だな」
「殿下、あの可愛らしい女神様は神殿から送られて来たのでしょうか?」
「ああ。彼女が言うには、神殿で『昨日』覚醒したばかりらしいぞ」
「……はあ!?」
「ヒヒーーン!」と馬の嘶きが聞こえた。
あの鳴き声は、レオンハルトの愛馬の声だな。
振り返ると、馬から飛び降りたレオンハルトが、こちらへ駆け寄ってくる。
「殿下! なぜ彼女を最前線に立たせているのです!」
「私が来た時には、もうこうなっていた」
「止めなかったのですか!」
「……止まる相手なら苦労はしない」
「申し訳ありません! 治癒師たちは必死に止めたのですが、女神様がどんどん前に進んでしまわれて……」
「まあ、だろうな。治癒することに命を賭けているかのような目をしていたからな」
「あの様子では、誰にも止められまい」
レオンハルトは固まった後、「はあ——」っと大きなため息を吐き、困ったようにつぶやく。
「……また、無茶ばかりする」
——ん? セレナとレオンハルトは顔見知りなのか。
あの口ぶりでは、以前から彼女の性格を知っているらしい。
「殿下。……信じられないかもしれませんが、私の怪我は完治いたしました。どうか、前線に出る許可を」
「ああ、信じるよ。セレナは数時間とかからず、テント三つ分の怪我人を全員治癒して見せたからね」
「……はあ!? ま、魔力は大丈夫なのですか!? くっ、セレナっ!」
王族の私に挨拶するのすら忘れ、セレナの元へ駆けつけたのは私の近衛騎士だ。そして、赤ん坊の頃から知っている幼馴染でもある。
「あいつ、あんなに感情的な人間だったか?」
レオンハルトがこんなに感情を露わにするのは珍しい。首を傾げる私に対し、マティアスが肩を震わせて笑いをこらえていた。大きく何度か深呼吸をした彼は、笑顔で私に話しかけてくる。
「殿下、私も治癒師たちに話を聞いてまいります。殿下はテントにお戻りになりますか?」
「いや、私はここで観察していよう。面白そうだ」
「かしこまりました。それでは御前失礼いたします」
丁寧に挨拶をされるのも久々だった。これまでは、そんな暇なんて無かったからだ。
それにしても、レオンハルトは少々過保護ではないか。彼に妹なんていただろうか。
強面で仏頂面だと言われる幼馴染にも、あんな顔ができるのか。そう思うと、私は少し嬉しくなった。




