第11話 怪我人の湧く場所へ
有無を言わさず、上位司祭様の執務室へ押し込まれた私は、何が起こっているのか分かっていなかった。
左手の甲に紋が浮かんだのは見えた。長い時間ではなかったが、その紋様ははっきりと目に焼き付いていた。
先輩の聖女たちの左手に浮かんでいるものとは少し柄が違う気もしたが、ちゃんと見せてもらったことがないので、気のせいなのかもしれない。
「グズのくせに覚醒するとはな!」
司祭様に鋭い視線で睨みつけられる。『聖女見習いの中でもお前は覚醒できないだろう』と言われていた私が覚醒したことに、苛立っているように見えた。
「まあ、聖女になったんだ。しっかりと仕事をこなしてもらおうか。今日はもう遅いから伝達も遅れるだろう。仕方ないから、明日の早朝にここを立ち、スタンピードの前線で戦っていらっしゃる騎士様方の治療に励むように」
今日運ばれてきた騎士様方は、スタンピードの前線で戦っていたと聞いていた。神殿に収まりきれないほどの怪我人が運ばれてきたのだから、前線には今も助けを待つ人が大勢いるはずだ。
「なんだ、怖気づいたのか? だが、これは命令だ! 私の娘より先に覚醒した自分を恨むんだな!」
ここにはたくさんの先輩聖女と見習いがいるから大丈夫だろう。私が今、覚醒したことは、きっと意味がある。であれば、私はその場所へ行かなければならないと思えた。
「かしこまりました」
返事をした私に、「そうかそうか、頼んだぞ!」と嬉しそうに応じる司祭様。明日の早朝に出発するのであれば、少しでも仮眠を取っておきたいところだ。
「今晩は、少し休ませていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、まあ良いだろう。明日から過酷な場所へ赴くのだからな。騎士様方の邪魔にならないようにしっかりと励むんだぞ!」
「……ありがとうございます」
ゆっくり眠れるのは、何日ぶりだろうか。私は魔力を体力に変換することができる体質らしく、数週間なら寝なくても動ける身体だ。
それでも一ヶ月以上寝ずに仕事をしていたら、倒れてしまったこともあった。
この身体が、前線で民のために戦う騎士様方の助けになるのであれば、現場に行くことは問題ないのだが……。
——私、まだ治癒魔法を習っていないのだけれど。
数時間後には出発することが決まっているのだから、習っている暇もなければ、教えてくれる人もいないだろう。
「どうか、レオ様たちのお怪我が早く治りますように」
そう祈りながら、私は軋むベッドへ身体を横たえた。
——その願いがすでに叶っていることも知らずに。




