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6/8

炭焼き技術を権利譲渡

----- 量産化に向けて -----

 6度目は、5度目から20日ほど後になった。

 すこし期間が開いたのは

 量産を目的に、色々と規模を拡大する準備が必要になるからだ。


 まず第一点は、炭焼き窯の規模拡大だ。

 商業化には、1回でもっと多量に生産できるようにしなければならない。


 これまでの窯作りで、粘土の露頭をだいぶ削っていた。

 そうして出来た横穴を利用して、本格的な炭焼き窯を作ることにする。


 奥を広げてドーム状にして、天井に穴をあけて煙突を作る。

 高さは2メートル足らず。

 手前の焚口は広めに作り、粘土と石を積み上げて、少し手前に伸ばす。


 窯が出来上がると、薪を立てて壁にそって並べていく。

 奥は太い材料から始めて、手前は徐々に細い材料に変えていく。

 スキマがあると、最悪全部が灰になってしまうことがあり得るので

 壁にも天井にもギッチリと薪を埋めていく。


 薪の材料は、広葉樹の半年以上乾燥させた

 薪としては生乾きの物を、薪問屋に提供してもらった。

 薪は、2年から3年、乾燥させる必要があるのだが、

 より短い期間で製品にできるというのが、木炭のセールスポイントの一つだ。


 第二点として、炭焼きを事業化するにあたって、

 薪問屋に炭焼き技術の譲渡をすることにした。


 ナカエイ会頭と契約を結んで、今後は薪問屋の一員として

 木炭の量産研究と職人育成を行うことになる。


 作業の途中度々、薪問屋から人が来て作業の進捗とその手順を確認していく。

 木炭製造技術について、薪問屋でマニュアル化するために行っている。


 俺はまだ個人的な炭焼きの経験しかないので

 今回の炭焼きは、量産技術の確立準備へ進むために行うことになる。


----- 再び女神様 -----

「ねぇ。なんで炭焼きの技術を薪問屋に譲ってしまうの?」

 女神さまに聞かれたことがある。


「炭焼きの技術を独占すれば、アンタはもっと儲かるんじゃないの?」


「まあ、確かに短期的な小遣い稼ぎとかならば儲かるんでしょうね。

 ただもし、このまま規模を大きくしていくと

 いずれ薪問屋と軋轢を生むことになるでしょう。


 また、貴族やらギャングやらが利益を狙って恫喝してくるかもしれません。

 そうしたら、権力も戦闘スキルも無い俺にはお手上げです。

 だから、比較的信用のおけそうな相手と結んで、守ってもらうのが

 妥当なんです。」


「ふーん。

 でも、技術を完全に習熟されたら、ポイされるかもしれないじゃない?

 アンタなしでも炭焼きが出来るようになれば、用無しになるんじゃないの?」

 なんか、この女神は煽ってくるなあ。


「そうなっても、何とかやっていけると思っているんです。

 そもそも薪問屋を相手に選んだのは、木炭を量産する力があるからです。

 こういった物を俺一人で作っても限界があります。

 世の中に広めるほどたくさんは作れないんです。」


「木炭というモノが一般的になって、市場で普通に扱われるようになれば

 私が年をとってどこかの山に引っ込んでも

 炭を焼いて生活できるようになるじゃあないですか。

 私は一時的に金儲けがしたいんじゃなくて

 生涯食っていける仕事が欲しいんです。」


「うん!いいわね。こういうのを『人材交流』で求めていたのよ。

 ...ねえ、知ってる?

 薪問屋のナカエイ会頭の先祖は、アンタとおんなじ勇者だったのよ。」


「この国では初代の勇者でね。

 この国ができたての頃、もう一人のナカムラヤ侯爵の先祖と一緒に、

 炭鉱を開発してまわったの。

 ナカムラヤがギシってので、ナカエイはカイケーシって言ったかしら?

 あの頃は、この国もどんどん大きくなって、良かったのにねぇ...」


 なるほど、名前と東洋風の風貌でそうじゃないかと思ったが、やはりそうか。

 俺のやることに理解があるのは、そういう文化の継承があるからかも。


 薪問屋のナカエイ会頭とは、炭の製造に関して契約を結んでいる。

 1.俺「加賀谷人志」は木炭の

  製造技術の独占権を薪問屋に

  譲渡する代わりに、薪問屋と

  10年間の雇用契約を結ぶ。

 2.俺「加賀谷人志」は契約の

  間、木炭量産技術の開発と木

  炭製造職人の教育を引受ける。

 3.新しい商品を開発した場合

  は、新規契約として契約内容

  を薪問屋と優先的に交渉する。


 実際はもっと細かい内容で長大なのだが、あらましはこんなところだ。


 雇用契約などではなく子々孫々までつづく、永続的なロイヤリティ契約を

 結ぶことも可能だった。

 実際、ナカエイ会頭はそちらの方を勧めてくれた。


 それでも10年の雇用契約にしたのは、もし俺や俺の子孫が新たな利益を

 生むことなく権利をむさぼるだけになったら、

 薪問屋に始末される可能性があると思うからだ。


 10年としたのは、俺自身いつまでも続けたいとは思っていないからだ。

 10年後、俺は50半ばを越える。

 そんな先まで同じことをやっているのが、幸せとは思わなかった。


----- 補足 -----

 話は変わるが、女神様からはここ数か月間に何度か呼び出しを受けていた。


 王様と大神官は、どうやら祭神のすげ替えを決意したようだ。


 しかし、200年余りにわたる崇拝をどう打ち切るというのだろうか?

 大神官は、炭田の枯渇による国民の困窮を理由にしているのだが、

 そもそもの原因は15年前の負け戦である。


 王都の大神官と地方の神官長たちの間で、深刻な軋轢が生じていた。

 商業中心の王都と、ほとんど農業の地方では、信仰の基盤自体が違う。

 なかには、王都の教会から分派独立しようという動きまで出始めた。


 当面、俺たちは静観することにした。


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