表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/8

炭焼き

---------- 中州 ----------

 先ほど行った詰め所のある南西門のあたりが、取水口になっている。

 川は西から東に流れているので、南東門あたりが排水口なのだろう。


 取水口の水門の下流方向が、橋なしで渡れる程度に水量が減っている。

 川の中州に渡ってみた。


 中州は、片手で持ち上げられる程度の丸っこい石の川原になっていた。


 ちょうど南西の水門、舟が入れて市場に繋がっている水門の向かいにあって

 水門の真上の櫓から見下ろせる位置にある。

 これなら、野党や炭盗人に襲われる心配も無さそうだ。


 炭焼き窯を作るには粘土が必要なので探したところ、中州の上流側に

 小高い場所があって、そこが粘土の露頭になっている。


 次は原料と燃料の流木なのだが、中州だけでなく川の両岸も探したが

 木の根っこしかなかった。


 周りに乾いた木の葉が大量に散っているのをみると

 おそらく川が増水して流木が流れ着いた後、薪業者が大挙してやってきて

 木の幹や太い枝を持っていくのではないか。


 そして、一般市民は残りの細い枝を焚きつけにするために持っていき

 結果、木の根っこだけが残ると。


 まあ、根っこでも何とかなるだろうか?

 次は、道具をそろえなければいけない。


 まずは、木の根をばらすための大きめなノコギリ。

 これが一番高かった。

 そして、薪割をするためのマサカリ。

 さらに、粘土を掘り起こすためのスコップ。

 あと、火種を運ぶ火縄。

 最後は、作業用の着替え。


 炭や泥を扱うのだから汚れ仕事だ。

 宿屋の旦那に貰った古着を仕事外で汚すわけにはいかなかった。


 道具は市場の店をあちこちめぐって、中古でも頑丈な物を選んだ。


 宿屋の給金は最初のホテルとちがって、ちゃんとした額だった。

 ホテルの賃金のままなら、道具を買いそろえることなど出来なかったろう。


 下準備を始める。

 宿の仕事を早めに切り上げて炭焼き窯づくりを始めた。


 スコップを使って粘土を掘り出した。


 地形を利用して粘土の露頭に横穴を開けて、本格的な炭焼き窯にしても

 いいのだが、最初は少ない量で試しながら行った方がいい様に思えた。

 将来の再利用に備えて、風上側に穴をあけ採取することにした。


 掘り出した粘土を土饅頭のような形にした。

 直径2メートルくらい。

 窯口は、風上に開ける。


 流木の根っこのうち、古くて乾いているのを引きづってきて、

 細い部分は燃料として切り取り、太い部分を割って炭の原料とした。


 内部の中心を一段高くしそこに原料を積み上げ、周りに燃料を敷き詰めた。


 天井の中心あたりに穴をあけ、煙突とした。

 窯口は一段低く、少し長く伸ばして、大量の燃料を積み上げた。


 この間、五日ほどかかった。

 宿の仕事に影響しないように、睡眠はしっかりとった。


 焚き付け拾いに来る奴らにちょっかいをかけられないか、心配していたが

 流木の見込める増水の直後以外は、川原にはまったく人気はなかった。


----- 炭焼きの決行 -----

 炭焼きには、ほぼ一昼夜かかる。

 炭焼きのしばらく前に、旦那に炭焼きのことを正直に話して、了解を取った。

 炭については、以前から計画を話していたので、話は早かった。


 2日分の薪と食材を運んでから、夕方、中州に向かった。

 宿から持ってきた火種で着火した。

 窯口を煽って、盛大に火を燃やした。


 最初は煙突から白い煙が立ち上る。

 これは主に水蒸気で、原料を乾燥させる工程になる。

 水が出切るまで、窯口から燃料を絶やさないようにする。

 数時間たつと、煙突の煙が黄色っぽくなり匂いも酸っぱくなってきた。


 これは、材料から可燃性ガスが出ている状態だ。

 この状態の煙から木酢酸が取れるのだが、当分は欲張らない事にする。

 釜口への燃料追加を控えて火勢を保つ。


 さらに数時間で、煙が薄く青っぽくなってきた。

 ここからは、材料の炭化の工程になる。


 窯口を半分粘土で覆って炎を抑制する。

 そろそろ空が白みかけてきた。

 炭焼き窯の横に作ってある寝床で、仮眠をとることにする。


 目が覚めると、昼すぎぐらいの時刻になっていた、さらにしばらく待つと

 煙が上がらなくなってきた。


 これで、炭化の工程は終わり、冷却の工程に入る。

 窯口を完全に粘土で覆って、さらに粘土でならして目立たなくする。


 こうやって窯を見ると一か所出っ張った土饅頭にしか見えない。

 知らない人間が見れば、貧民街の住民が誰かの墓を作ったように

 見えるかもしれない。


 思ったより時間がかかってしまった。今日はここらで引き上げるしかない。

 見上げてみれば、櫓の物見の兵士が、2,3人こちらを見ている。

 気が付かなかったが、昨日からずっと監視されていたようだ。

 挨拶に手を振って、道具をまとめ宿に戻った。



 翌日、宿の仕事を終えて、すぐに中州に戻った。

 土饅頭に手を当ててみると、おおむね冷えているようだった。

 窯口を壊して灰と完成物を取り出した。


 おおむね成功だった。

 周囲の部分で灰になったものが有ったが、

 中心まで完全に形を保ったまま木炭になっていた。

 割れも少ない。

 次回はもう少し燃料を減らした方がいいかもしれない。


 紐でくくって束にして、背負子で背負って持ち帰った。

 4束ほどになった。

 帰りがけに、南東の門と南水門の詰め所によって、炭焼きの終了の報告と

 協力のお礼を述べて、僅かながらの心付けをそれぞれに渡した。

 作った炭は明日あたり宿屋で焼き物に使うので、来てほしいと宣伝した。


 宿に帰って旦那に炭をすべて渡した。

 旦那は代金を払おうとしたが、断って、ぜひ次の夕食時の食堂の焼き物に

 使って、使い勝手と評判を教えてほしい。と申し入れた。


 一時の小遣い稼ぎがしたいのでなく、この炭焼きが職業として成り立つかを

 試したかったからだ。


---------- 再度の炭焼き ----------

 2度目の炭焼きは、最初の炭焼きを行ってから5日後になった。

 最初の炭で、旦那は鶏肉の炙り焼きを提供したのだが、

 これが予想以上の好評で、すぐさま次の炭を要求されたからだ。


 ちなみに、詰め所の門番たちにも好評で、今後は炭が盗まれないように

 監視してくれるそうだ。


 今度は、前回よりも2周り大きい土饅頭にして、倍の量を製造した。

 増やした分は、仕事で面識のある薪問屋に試供品として提供した。


 俺の焼いた炭が十分市場価値を持つかどうか、

 他のレストランなどで試してもらって、感想を聞きたかったためだ。


 結果は好評で、薪問屋の要請によりその後3度ほど同じぐらいの規模で

 炭焼きを行った。

 量産出来るようになれば、本格的に商品として売り出す流れになった。


---------- 薪ギルド ----------

 王都の大ホテルの会議室に、この国の主要な薪問屋の代表が顔を揃えていた。


 会議卓の上座に座る男が、口を開いた。

「全員揃ったようなので、これより第18回『薪ギルド』設立準備会を開く。」

 男は、ナカムラヤ侯爵。この国の薪問屋を束ねる立場にあった。


「マンダラ侯爵は設立に賛意と協力を表明されました。」

「グルガオン辺境伯は設立に賛意と協力を表明されました。」

 次々に、それぞれの地域の有力者の名前を挙げていく。


 炭鉱の大半を失って15年。

 石炭の産出が下火になって10余年、「薪」産業はこの国を支えてきた。


 だが現在、森林資源は減少しつつあり、乱伐の規制と植林の振興が

 課題となり、薪業者を統括監督する「薪ギルド」の設立が準備されていた。


「ボンディ王太子は設立に賛意と協力を表明されました。」

 会議室がどよめいた。次期国王を味方につければ、

 あとは王と宰相の認可を得るだけになる。


「順調だな、結構。

 今年中には『薪ギルド』の立ち上げは確実のようだ。

 ところで、『木炭』だったかな?あの話はどうなっている?」

 ナカムラヤ侯爵はナカエイ会頭に話を振った。


「現在、量産が可能か試作の準備中でございます。

 今のところ順調に進んで、あと1月ほどで結果が判明いたします。」


「承知した。石炭に匹敵する『薪ギルド』の重要商品となるかもしれんのだ。

 そのカガヤとかいう男。流れ者らしいが、逃がすでないぞ。」


 勇者の血統を受け継ぐナカムラヤ侯爵とナカエイ会頭は、

 元「石炭ギルド」の総帥、副総帥だった。

 石炭産出量が激減した後、「石炭ギルド」は王命により解散させられた。

 国防兵器製造の名目で、わずかに残った炭鉱は国営となった。

 ナカムラヤ侯爵とナカエイ会頭は、石炭炭鉱に対する利権を

 すべて国に召し上げられたのだ。


 それより後、薪の取引の統率者となるため、ナカムラヤ侯爵たちは

 多大の努力を強いられた。

 石炭に代わって、薪が燃料の主軸になったのだが

 炭鉱と違い森林資源は、場所が限定されるわけではない。


 薪の産出にはたくさんの参入者があったが

 その多くがギャングと言っていい不法集団だった。


 薪という商品は、単に伐採して、割って、乾燥すればいいい商品ではない。


 木を切り出したら、跡地に植林し、管理しなければならない

 林業の側面がある。

 木を運びだすには、林道を作らねばならない、建設業と土木業の側面がある。

 また、輸送には荷馬車や、水運が必要になる、輸送業の側面がある。

 薪を切り分け、乾燥させるためには工場と倉庫が必要になる、

 製造業と倉庫業の側面がある。

 出来上がった薪を振り分けて、販売する、流通業の側面がある。

 規模が大きくなれば、野盗や害獣の対策も必要になる、

 警備業の側面もできてくる。


 薪の市場を調査し、需給予測を立て、工程管理をし、製造管理をし、

 人員管理をし、倉庫管理をし、流通量に目を配り、

 政財界のお歴々への付け届けを忘れずに。


 ギャングに出来ることではないのだ。

 当然のように破綻した。


 不法集団による後先を考えない乱開発で、この国の山々は禿山になりかけた。

 10年近くかけてそういった不法集団を淘汰し、荒れた山林を回復し

 複数の企業集団を束ねて「薪ギルド」の組織をまとめあげた。


 現在、『薪ギルド』は非公式な集団だが、各地位有力者の支援を得られれば

 国家公認のギルドとして『薪』という商品の取引の独占権を認められる。

 そうしなければ、いずれこの国は砂漠になってしまう。


 失われた権力と秩序を回復するためには、力はいくらあっても足りなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ