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副業探し

----- 副業 -----

 今度の職場は規模が違い、たった一人でも午後半ばには

 だいたいの仕事が終わってその後は自由にさせてもらえた。


 空いた時間で、色々と副業を考えた。

 もちろん、将来の転職への足掛かりの為である。


 例えば、野草の採取。

 食堂で使う青果の一部に、城壁近くの野原や森で採取される物が含れていた。

 野草に関しては料理人をしている宿屋の旦那が詳しくて

 食べられる野草とそれに似た食べられない野草の違いなどを

 詳しく教えてもらえた。


 収穫の一部は宿のまかないに使ったりもした。


 だが、市場に卸して現金化できるような物は取れる量も少なかった。

 また、キノコは見分けが難しく、木の実は今の季節は採れなかった。


 薬草は、売れるようなものは、近場では取りつくされているようだった。


 次に小型鳥獣の狩猟を考えた。

 方法は3つ。


 一つは、弓矢、投げ槍、礫投げなどによる本格的な狩猟。

 これはそれなりのスキルが必要で

 初心者がすぐに成果を出せるものではなかった。


 もう一つは、投網、仕掛け網などによる「網」猟。

 効率は一番良いが「網」はそれなりに高価で、無一文に近い俺には

 まだ手が出なかった。


 最後の一つは、「罠」猟。

 ロープを使ったくくり罠、ネズミ捕りをでかくしたような箱罠

 気を付けないと危ないトラバサミなど

 少しの工作で結果が期待できるはすだった。


 しかし、最初に仕掛けた木の枝とロープで作ったくくり罠は

 誰かに徹底的に踏みつけられ壊されていた。


 縄張りのようなものが有るのかと思ったが

 どうやら街の近くの森では単に競争相手が多すぎるせいらしい。


 街の貧困層が競って罠を設置するようで、競争相手の罠を壊したり

 かかっていた獲物を盗んだり、なんでもありの状態だ。


 仕掛けた罠を常に巡回する時間の余裕がないと、猟が成り立たないのだ。


 本格的に罠猟をする猟師は、人里離れた土地に縄張りを持つものらしい。


 ちなみに、魚はもっとヒドイ。

 この付近の川はゴミばかりで魚影は無かった。


 この街には食うに困った人間が山ほどいる。

 簡単に思いつくような副業で身を立てるのは難しいのがよく解った。


----- 宿屋の家族 -----

 今、勤めている旅館は食堂兼業で、家族経営の小さい宿だ。

 旦那の名は、アジャンタ、奥方の名はナイル。


 旦那は30代半ばで、食堂で料理を担当している。

 食堂は、3度の食事時に開く。


 朝食は主に宿泊客に前日調理したものを温めて、奥方と子供たちで給仕する。

 その間、旦那は市場に買い出しに出かけている。


 昼食と夕食は、宿泊客以外にも開放する。


 まったくとは言わないがあまり酒類は出さない。

 子供のいる都合上、酒場にするつもりは無いようだ。


 逆にそれで、近隣の住民の安心できる食事の場として成り立っている。


 旦那はもちろん、奥方も子供たちも一日中忙しく働いている。

 子供は10歳ぐらいの長男トプカと、8歳くらいの長女デリーの2人。


 そろそろ学齢に達している年頃だが、学校には通っていない。

 だが、宿賃の払いを客とやり取りしたり、帳簿につけたりするのを見ると

 読み書きと四則演算くらいは両親から教わっているようだ。


 奥方は30代初めだろうか?

 旦那はキッチンと力仕事だけだが

 奥方はそれ以外の仕事をすべて手掛けている。


 もちろん子供たちがそれを手伝うわけだが。


 夕方前には手が空くこの俺が、この家で一番楽をしているようで

 申し訳なく感じた。

 金にかかわること以外はなるべく俺も手伝うようにしている。


 異世界といえば、ハンバーグとか唐揚げとか

 地球世界の料理で無双するのが定番だが

 卵も牛乳も食用油も香辛料も塩もこちらでは高級品で

 料理が得意でもない俺が料理を披露するのは無理があった。


 マヨネーズなんぞが話に良く出てくるが

 サルモネラ菌等のリスクを考えれば、客商売で出せる物ではない。


 また、こちらの料理の味付けは素材の味と出汁を効かせた薄い塩味主体で

 地球の料理はこちらの住人の口には合わないように思えた。



 勤めて始めから3ケ月を過ぎたころ、以前から疑問に思っていたことを

 旦那に質問した。


「ここのかまどは、小さいわりに頑丈すぎませんか?

 薪で使うならこんなに頑丈でなくていいし

 もっと大きい方が十分な火力を使えるんじゃないでしょうか?」


 この食堂で供される料理はシチューのような煮込料理が中心だ。

 もっと強くて安定した火力が得られれば、オーブンを使った焼き物料理を

 多く出せるようになるのではないか?という話だ。


 旦那の話によると、以前は石炭を使っていたという。

 この国はかつて、石炭の産出が豊富で燃料は主にそれを使っていたらしい。


 だが15年程前、南の隣国との小競り合いで炭鉱を含む鉱山を失ってしまい

 さらには残った炭鉱も枯渇して、石炭が手に入らなくなってしまった。


 それで仕方がなく全国民薪へ移行しているが、薪は手間がかかる上

 火力が低くみな不満を持っているらしい。


 かまどは変えたいのだが頑丈に作ってしまったこともあって

 直すには時間と金がかかる。

 その間、宿を閉めなければいけないこともあってそのまま使っている。


 オーブンやグリルを使いたい場合は

 普段から貯めた消し炭で調理しているらしい。

 俺の召喚目的である石炭が、こんな所にまで影響を与えている。


----- 祖父の思い出 -----

 俺の曽祖父は山暮らしで、主に炭焼きをして現金収入を得ていたそうだ。


 俺の加賀谷という姓も、石川県の山暮らしであることからつけられたものだ。

 俺の一族は、猟をしたり木を切ったり、炭を焼いたりして、

 山で生活していたらしい。


 祖父は子供の頃、炭焼きを手伝っていて、その頃の昔話をよくしたものだ。

 そのため、俺も実際にやったことはないが

 炭の焼き方のおおよそは理解していた。


 木炭ならば石炭ほどの火力は無いが、ある程度の代用になるのではないか?


 俺は行動を開始した。


----- 門番詰め所 -----


 炭焼きにはまず場所を確保しなければならない。

 火を扱うのだから開けた場所が必要だ。


 できれば山の斜面が望ましいが山へはそれなりに距離があり

 また街近くの山では山火事の危険があるので絶対に許可は下りない。


 俺は、街の門番に相談することにした。


 城壁に5つ有る門の門番は下級騎士の交代制になっており

 それぞれの門のわきに詰め所が有る。

 俺の勤める宿屋も門に近いので

 門番たちは酒の出ないうちの食堂の馴染み客だった。


 また俺は副業探しで、よく門から外に出ることもあって

 門番たちと知り合いになっていた。


 詰め所に行って、正直に要件を説明した。

 俺の先祖は代々木炭を作って生活していた。

 俺も木炭の作り方を知っている。


 木炭を作って薪問屋に卸したいと考えているのだが

 近くに大きなかまどを作って構わないような開けた場所はないだろうか?と。


 最初、厳しく目的を問われた。

 野焼きを行って、焼き畑を作るのではないかと疑われたのだ。


 城壁の門の上部は櫓になっていて

 ここで物見に立つのも門番の仕事のひとつだ。

 外敵からの防衛の為もあるが、平時においては火災の発見が最大の目的だ。


 火災は戦争に次いで、最大の治安維持の懸念事項なので当然だろう。


 俺はあくまで作るのは炭焼き窯で、他に燃え移らせる危険はないと主張した。

 結局、川の中州でなら火を扱っても問題ないと、許可を得ることができた。


 この街の南側には、川が流れている。

 その水を水門から引き込み城の水堀や飲み水以外の水源として利用している。

 また、浅い手漕ぎ舟を使って物流の一環を担っている。


 許可の際にいくつか約束させられた。


・川の両岸の土手を削ったり

 しないこと。

 川の両岸の木を切らないこと。


 これは、水害の防災を考えれ

 ば当然のことだ。


・城門の櫓から見通せる範囲で

 行うこと。

 万一の火災を考えてのことだ

 と思う。


 俺としても門番が監視して

 くれるなら、野盗を心配せず

 助かるというものだ。


・薪拾いをする市民や、業者と

 トラブルを起こさないこと。

 川の上流から流れてくる流木

 は、誰のものでもなく

 早い者勝ちらしい。


 当然、薪の業者や、一般市民

 が拾いに来るのでトラブルに

 注意しろ。ということだ。


 これは、ちょっと問題かも

 しれない。

 燃料に流木をあてにしていた

 のだが、買ってきた薪で炭焼き

 を行わねばならないかも。


 さらに詰め所の長は、中州で火を使用することを

 他の詰め所にも通知すると言ってくれた。


 ありがたい。

 許可を受けた以上、早めに実行しなければいけない。

 まず、場所の下見にでかけた。


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