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女神との遭遇

----- 女神...様 -----

「ちょっとアンタ。

 早く起きなさい!」


 頭部に若干の衝撃を感じた。

 女神様が俺をどやしつけたらしい。


 地球の神様もこっちの女神も、神様というのは長生きなくせに

 なぜこうもせっかちなのだろうか。


 俺の死体は麻袋に詰められていたようだ。

 身を起こすと背中の乾いた血が、べりべりとはがれた。


 麻袋のひもはほどかれていて、顔を出すとあたりはもう真っ暗だった。

 俺はゴミの山で目を覚ましたようだ。


 へどのような匂いの中で、でかいネズミが何匹も周りから逃げ出していた。

 ネズミにかじられる前に起こしてもらえてよかった。


 体を探ってみると胸のど真ん中に大きな傷跡があり

 背中へ抜けているようだ。

 どうやら王様に剣で一突きにされたらしい。


 俺としては誠意を尽くして説明し、道理を説いたつもりだったが

 どうやら納得してくれなかっようだ。


「ねぇアンタ、なんで殺されているのよ!

 アイツは、あんたが非業の死を遂げたら、こちらへの支援を

 一切合切、打ち切ると言っているの。

 わっけが分かんないわ!

 いったいどうなっているの?」


 アイツとは、地球の神様の事だろうか?

 俺は地球の神様との会話から刺殺されるまでを、順を追って説明した。


 だがこの女神さまは、俺や地球の神様の真意を全く理解してくれないようだ


「なんだって裸同然でこっちに来るのよ。

 私がスキルを授けるから、さっさとお城に戻って王に釈明しなさい。」


 これは断るしかない。

「嫌ですよ。

 役に立つなら兵隊扱い、役に立たないなら、即殺す。

 そんな相手がまっとうなはずは有りません。

 そんな相手に協力できません。」


「それはアンタが怒らせるからじゃない。」

 何とか、この女神を説得しなければいけない。


「人さらいをしておいてその相手に腹が立てば殺す。

 そんな奴らの手助けをしろと、神様である貴方がおっしゃるのでしょうか?」


「そも何で『神様』である貴方が『人間の王』の言いなりになってるんですか?

 『神様』にしては威厳が無さ過ぎませんか?

 『神様』ってのは、万物に超越して君臨するものじゃないんですか?」


「仕方がないじゃない。

 『勇者』の支援が無ければ、私を国の祭神から外すって言うんだから。」


 そんなつまらないことで脅しをかけられていたんだろうか?


「この国は本来とても貧しいの。

 大地は痩せているし、気候は寒冷だわ。

 私が守ってあげなければ、この国の人たちは飢えてしまうのよ。」


 俺は理屈で説得した。


「それもオカシイです。

 そもそも国民を守るのは国家の務めであるはずです。

 王侯貴族の務めです。

 それなのにこの国の王様は

 国民を豊かにするために、神様だよりなんですか?」


「彼は国民を食べさせるためには、もっと多くの農地が必要だって言うのよ。

 そのために魔獣だらけの森を開拓して、農地を広げなければいけないって。」


 なるほど、そのための『勇者』なわけか?

 しかし、本当だろうか?


 魔獣を倒すなら、軍隊を出せばいい。

 兵力が足りなければ、増員すればいい。

 『勇者』なんぞに頼る前に出来ることは多いはずだ。


 それに森を切り開いたとしても、

 それを農地にするには、多大な労働力と十年単位の時間が必要だ。


 地球の歴史では、そうやって農地を広げても国民は貧しいままだった。

 農地が広がっても、その間の人口の増加は必ずそれを上回るからだ。

 ただ、もっと短期間に農地を広げる方法がひとつあるにはあるけどね…。


 ひっかかるが情報が乏しいので、俺は会話の内容を変えることにした。

「先ほどのお話ですが、神様を祭神から外すってどういうお話ですか?」


「私を神殿の祭神から外して、兄さまたちの誰かを後釜に据えるって話よ。


 この世界はもともと父様である創造神を主神として崇拝していたの。

 父様が引退するにあたって、兄さま達と私の四兄弟を

 いくつかの国に割り当てて、その国の祭神として競争させることにしたの。

 そして遠い将来、最も国を繁栄させた神を主神として

 この世界すべてを任せることになっているの。」


「その祭神から外されるという話ですが

 競争というのは神様の間で陣取り合戦をするようなお話なのでしょうか?

 より多くの国の祭神となった方が、勝ちなのでしょうか?」


「そんなことは無いわ。

 割り当てられた国を繁栄させる競争のはずよ。」


「たとえば、ほかの神様の国に攻め込んで征服したら勝った方の得点になる。

 ということはあるのですか?」


「それは無いわ。

 父様は戦争が嫌いで国同士の争いに祭神が手出しするのは止められてるの。」


 ピコーン! そこだ。

 説得の糸口が見えた。

 召喚の間で聞いた話の中に炭鉱がどうとかといった話があったはず。


「それはおかしいですね。

 私が王様たちから聞いた話では隣国に攻め込んで炭鉱を取り戻す。

 という話でしたが。」


「え?まさか。そんなことは...」


「王様たちの心を読む、とか彼らの真意を確かめる方法は無いのでしょうか?」


「そういうことは、この競争では禁じられているの。」


 なるほど、そういう見極めを含めての技量を競わされているのだろう。


「......」

 女神さまは黙ってしまった。

 そこで、少し話題を変えて情報を探ることにした。


「祭神を変えるってのは、そんなに簡単にできるんですか?」


「大神官がそう言っているの。

 神殿の神像を変えるって。

 ただ、国の振り分けは父様がしたことだから

 そんなに簡単なことじゃないけど...


 でも、私にとっては減点になってしまうわね。」


 大神官か...確か召喚の間にいた奴だな。


「神様はこの国の祭神になってどのくらい経ちますか?」


「この国の建国の少し後だから、200年ちょっとかしら…」


「その間、この国の人々が飢えないように

 この国の人々に加護を与え続けてきたわけですよね。」


「もちろんよ。

 そうしなければ、この国の農地は枯れ果ててしまうもの。

 雨と日照と風のバランスがとっても大変なのよ。」


 風ってのは季節風だろうか?

 なるほど、この女神さまはすべきことはしてるわけか。

 それなら、そんなに悪い状態じゃあないだろう。


「それでは、大神官が神様を変えると言ったら

 人々は貴方への信仰を捨ててしまうのでしょうか?」


「そんなこと無い......と思いたいけど。」


 俺は女神様を、本気で説得することにした。


「先ほども申しましたが王様達が炭鉱を奪い返す、と言っていたのは本当です。

 その炭鉱に心当たりはありませんか?」


「15年前に、南の隣国と戦争があったの。

 その時失った領土に大きな炭鉱があって

 この国では石炭がほとんど採れなくなったの。」


「その戦争には『勇者』は関わっていなかったのでしょうか?」


「いいえ。

 もし召喚した『勇者』で戦争なんかしたら大問題になるわ。

 人間にとっても、私にとっても。」


「もし、女神さまが招いた『勇者』が戦争に参加したらどうなるでしょうか?」


「私の責任になるでしょうね。」

「大丈夫ですか?」


「大丈夫なわけ無いじゃない!」


 俺は神様に提案をすることにした。


「女神様、私に提案があります。

 この件を私に任せていただけませんか?」


「...アンタに何ができるって言うのよ?」


「実は向こうの神様とも、この『勇者召喚』については話し合っておりまして。

 貴方が騙されている、という結論になっているんです。」


「......」


「先ほど申し上げたとおり、このまま『勇者召喚』に協力して連中が戦争を

 起こせば、貴方まで責任を問われることになります。

 ここは止めるべき、と思います。」


 少し推測が混じるが、実際そんなことになるだろう。


「...いったいどうすればいいって言うのよ。」

 女神様は、半分泣き声だった。


「とりあえず、王と大神官からの呼び出しには応じない様にできますか?

 そして奴らが何かの行動を始めたら、私にご相談いただけますか?

 いつでも応じますから。」


「もうひとつ、これが大事なのですが。

 それ以外のこの国の人々に対する、加護や恩寵は

 以前と同様かそれ以上にお願いします。

 奴らに付け込まれないために、必要です。」


「あと、王と大神官から以外の呼び出しには

 答えるようにする方がいいです。

 奴らへの不満の表明となるでしょう。」


「...いつまで、続ければいいのかしら?」


「彼らが悔い改めるまで。でも、難しいでしょうから

 彼らが代替わりするまでになるかもしれませんね。」


「......」


「なあに、もし彼らの目的が本当に森の開墾だっていうなら

 私も手伝うにはやぶさかではありませんしね。

 どうでしょう?

 私に任せていただけますか?」


 女神様は深くため息をついて言った。

「...任せるわ。」



----- 補足 -----

 そのあと、俺は女神様に今後の身の振り方について相談にのってもらった。


 着衣は現地のモノに変えてもらった。

 血まみれで穴あきだしな。


 お金が少しほしいところだが、いつのまにか夜が明けてしまった。

 もう宿を取る必要はないだろう。

 朝早いうちから、職探しすればいい。


 徹夜明けになるが、夜半まで死んでいたのでツライということも無かった。


 なお、話し合っているさなか三度ほど、王か大神官からの呼び出しが有った

 が、応答しないように忠告した。


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