ピンクの小人(5)
そこから、がむしゃらに走ってどうやってここまで来たのか、思い出せない。けど、私は病院に入ってあの場所へとかける。薬をぎゅっと胸に抱いたまま。
「美喜!!」
その場所に来て、私は彼女の名前を呼んだ。彼女がびっくりしたように、身を震わせ辺りを見回す。
「もも……?」
私はベットに登って、彼女の元に駆け寄った。しばらく居なくなっていた間に、彼女は少しやせていた。多分、一週間くらいは留守にしてたと思う。
「ただいま!やっとね、願い事が叶えられるよ!」
私は彼女の手を片方の手で触れながらそういった。私にしてみれば大きな手だけど、彼女の手はなんだか小さく思えた。
「本当!?」
美喜は嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。それでやっと私の心臓は痛さをなくした。
これでよかったんだ。美喜が喜んでくれた。
私は、ビンの蓋を開けて、一粒。薬を手に取った。小さな赤い丸薬は、私の口から喉へと流れていった。飲んだと思った瞬間、体の中がぼっと熱くなった。びっくりして、私は思わず自分の胸を押さえた。
な、なに……?今の?
「もも、どうしたの?」
「あ、えっと。これで見えるようになったはずよ。どうかしら?」
美喜の声にはっとして現実に引き戻された。多分、これで見えるようになったはず。薬の服用があってるのかちょっと疑問だけど、丸薬だから塗ることはできないし……。
「わたしにはわからないよ。今までと同じに思えるけど……そうだ!もうすぐ友達が来るの!きっとその子達が来ればわかるよ!」
パンと手を打って美喜は嬉しそうに言った。美喜の友達、というとやっぱり子供かしら?
美喜は私が見た人間の中では幼い部類に入るのはわかってた。あかと一緒に居るゆうとさんは、美喜なんかよりもずっと体が大きかったし。
「ふふ、楽しみ。他の人にももが見えたら本当にももはそこに居るってことだもの。そうしたら凄く嬉しい。」
美喜は楽しそうに私に微笑んだ。彼女にしてみれば、私は不確かな存在で不安なんだ。周りから見ればただ一人で喋っているようにも見えるのだから。
「みーきー!学校からの届け物だよ~っ。」
甲高い声が、カーテン越しに聞こえた。かと思うと、シャーッという音とともにカーテンが開き、くりっとした美喜よりも幼そうな子供が顔を出した。
私は思わずびくっと体を強張らせた。
「はな。ありがとう。」
美喜が彼女から受け渡されるものを受け取る。私はその場でじっとしたまま。
女の子が美喜から視線を下にずらし、私を見た。視線があって私は更に体を硬直させた。
「わぁ、可愛いお人形!誰かから貰ったの?」
彼女は笑顔で美喜にそういった。
「……見えるのね?ねぇ、はな。その子、どんな形してるの?」
「え?えーっと、ピンクの服来た人型の人形だよ?後、とんがり帽子被ってて、金髪で目が大きい可愛い人形だよ。」
美喜の言葉に一瞬戸惑うも、少女は、彼女が目を見えないからその質問が出てきたと合点したんだろう大きく頷いて説明を口にした。
美喜はっ私の頭にそっと手をのせた。
「ふふ……。」
ぽかんと口を開けてみている私の後ろで、笑い声がした。私は驚いて振り返ると、そこには嬉しそうな笑顔で私に微笑みかけている美喜の姿があった。
「見えたね、もも。ももは、本当に居るわたしの友達なのね。」
笑いながら私の頭を優しく撫でてくれる。美喜の安心感が私にも伝わってきた。けれど、次の瞬間、別の声に私は体を強張らせた。
「う、動いたーっ!?」
それは発したのは、美喜の友達。その声に私も美喜も目をとられる。目を真ん丸くして私を見ている幼い少女とまたもや視線がかち合った。
「ふふ、はな。紹介するよ。こちらは小人のももよ。」
「こ、小人~?」
美喜の笑いながらの説明に、彼女は眉を潜めて私に顔を近づけてきた。私は思わず後ずさる。
疑わしげな眼差しが私に突き刺さる。視線を外したかったけれど、ここで引き下がっては、小人を信じてもらえるわけがない。美喜の友達なのだから、信じて欲しいと思った。
だから、私は唇を一度強く噛むと意を決して相手を睨み返した。
「そうよ、こ・び・と。人間の手伝いをするのが仕事なの。今は特別な力で見えるけど、普段は見えない存在よ。よろしくね?」
「へぇ……すっごい!本当に小人なんだ!私は、はな。よろしくね!」
目を輝かせる彼女。意外な反応に私は拍子抜けし、肩を落としてしまった。もっと疑われてあれこれ言われるかと思った……。
はなは興味津々というように、私の体をつっついてくる。力加減がわからないのか、結構強くて私は何度かよろけてしまう。
「はなさん、ちょっと……私は玩具じゃないんだから突っつかないでよ。」
「あ、ごめん。でも、柔らかいし暖かい。本当人形と違うんだね。」
口でごめんといいつつ彼女は私の頬をつまんだりなんだりしている。それでも、まぁ、小人を信じてくれるというのだから多少は我慢するべきか。
しばらくいずくっていると、美喜がそっと私の体を手で包んではなさんから開放してくれた。そのまま両手に持ち帰ると、私を美喜の肩へと座らせてくれた。
「はな。ももはわたしの友達。困っているから、触るのは止めてあげて?」
「あ、ごめん。じゃあさ、話すならいいでしょ?」
美喜の言葉に、はなは慌てて手を振る。はなは引き下がらないところから見るとかなり好奇心旺盛みたい。
話すくらいなら、と美喜は頷いて彼女に返答を返した。
「ね、ね、もも。なんでももは今見えてるの?」
「それは、わたしがお願いしたからだよ、はな。小人は三つの願い事を叶えてくれるんだって。」
はなの興味深々な台詞に、美喜がゆったりとした柔らかい口調で答えた。それに私はほっとしたのだろう、私もはなさんと話すことが出来た。
小一時間ほど話していただろう、はなさんは塾があるからと帰っていった。
はなさんが開けってから、美喜はまた笑い出した。その嬉しそうな顔がなんとも印象的で、私も釣られて一緒に笑った。
「もも。貴方が本当に居てくれて良かった。」
「うふふふ。そうよ、小人は本当に存在してるんだから!」
美喜の言葉に、私は胸を張って答えた。笑いが止まらなかった。幸せってこういうことを言うんだと、この暖かい気持ちのことを言うのだと、そう思える時間だった。
彼女には私が、私には彼女がいる。それだけで良い。二人で笑い合えることが、本当に幸せだと思ったの。




